波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

白百合を愛した男    第41回

2010-11-12 10:09:57 | Weblog
美継は彼の新しいものへの挑戦したいと言うその姿勢に打たれた。こんな小さな会社にも勇気ある人間がいることに感激もし、頼もしくもあった。結局は会社の誰かが、ある意味犠牲を払っても頑張ると言うことが無ければ出来ることではない。美継としてはこの仕事を引き受けたいとは思っても、実際に責任を持つものがいなければ断るしかなかったのだ。「本当に大丈夫か、初めてのことではあるしうちの設備で出来るかどうかも分らないぞ」半分脅かしにも取れるような悲観的なことを言うと「私にも分りません。でもやってみたいのです。今までの仕事はみんなでやっていけます。私はこれからの仕事として、この仕事に取り組んでみたいのです。」若い純粋なその言葉を聞いて、自分も何とか協力してやってみよう。「分った。先方の都合を聞いて早速具体的な話の打ち合わせに行こう。」資本参加の合併と同時に新しい仕事への挑戦が始まったのである。
秋田の工場は東芝の電球を作る工場でもあった。雪深い、寒い冬の朝二人は駅から歩いてその工場を訪ねた。工場を案内されて見学をする。混合されて成型された製品が電気炉のなかを流れている。そしてそれはやがて完全に焼成されて出てくる。それに磁力を与え、
着磁すると、それはフエライトになる。これがモーターに使用されて色々な用途に用いられることになるのだ。はじめて見る新しい世界に魅入られるように二人は立ちすくんでいた。今までの顔料だけの世界から新しい世界に入る心のときめきのようなものがあった。
「ありがとうございました。こんな素晴らしいものがこれから私たちの生活に使われるようになるのですね。」「そうなんです。ラジオ、ステレオ等の音響製品、モーターで動く玩具、洗濯機など、何れ自動車にもたくさん使われるようになるでしょう。」
「ところで、私どもで出来ることとはどんな事でしょうか。」「おたくで原料として使っている酸化鉄をそのまま主原料としてもらうのです。それにある薬品を混ぜて、それを
弁柄を焼く窯で同じように焼いてもらうのです。ただし弁柄よりももっと高温で焼いてもらわなければならないのです。そして出来たものを粉砕して粉状にして、私どもの方へ
送ってもらえばいいのです。今まで、その原料の粉砕までを私どもでやってきたのですが、量が少ない時は良かったのですが、ここへ来て、大量の注文が来て、とても追いつきません。又そんな設備もありません。そんなわけでお願いしたわけです。」