波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

オヨナさんと私   第97回

2010-06-04 09:26:06 | Weblog
「でもオヨナさん、子供たちの学習塾って大変なんでしょ。どうしてそんなこと始めたの。」彼女もこれからの生活のことが気になり始めたらしく、ヨナさんの生活に関心を持ち始めていた。遊び半分では生活していけないとも考えたり、将来につながる仕事として考えてよいのか、今まで気にならないことがとても気になっていた。
「正直、自分でも自信は無いんだ。ただ、子供が好きだ。そしてこの子達が将来大人になったときに少しでも人間らしい大人になってもらいたいと言う思いがあった。だから自分の力でどれだけの事が出来るか分らないし、自分の思いがどれだけ伝えられるか分らないけど、私は真剣に取り組んできたつもりなんだ。」彼の目には一途なものが見えた。彼女もその真剣さに打たれた。「えらいわね。目に見えてこない、そしてどれだけこちらの心を理解してくれているか分らない子供たちを相手に教えていくことは、忍耐が要るわ。それでもう少し教えてもらいたいんだけど、どんなことなの」「自分の事って、分っているようで分ってないことが多いんだ。又自分の嫌なところ、悪いところは見たくないし、考えたくも無い。だから自分の事って分っているようで分ってないことが多いと思う。だから、まず自分のことをしっかり知るようにしようということ。何でもできるわけではない。出来ないこともある。それをしっかり知ることだ。そして自分の出来ることをしっかり自覚させたいと思っているんだ。それが分ってない子はあまりたいした事は出来ないと思う。勿論小さい時からそんなことがすぐ分っているんじゃないけど、いろいろな場面でそのことを気付かせるようにしているんだ。」普段は子供たちと遊んでいるようにしか見えない、ヨナさんの姿にそんな思いがあったとは、彼女は全然知らなかった。
「その他にまだあるの。」「自分じゃ四つほどの柱を考えているんだ。」「じゃあまだ三つあるわけね。」「そうなんだ。もうひとつは自分自身を素直に受け入れることを勧める。これも人間形成にはとても大切なんだ。人間って天邪鬼で、隣の芝生は青いの例えのように人のものが何時も良く見えるし、欲しくもなる。それも本能的にそう行動してしまうものなんだ。そのことがどれだけ、その人の成長に影響し、マイナスしているか、良く考えて欲しいんだ。」「そうね。」彼女もわが事として真剣に考え、しばらく黙ってしまった。
ヨナさんの真剣なまなざしは、更に強くどこか遠くを見るように光って見えた。