波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

            オヨナさんと私  第81回

2010-04-09 09:03:07 | Weblog
近所のじい様から声がかかった。何しろオヨナさんの近所には若者らしき姿を見ることは無い。小学校へ通う子供の姿も稀である。当に老人国になりつつあるのかと不安になるときもある。朝、夕に犬の散歩に連れて歩いているのも老人である。静かで悪くは無いが、活気らしき雰囲気が漂わず、デイケアの車が行き交うのを見るだけである。
「ヨナさん、今日当り時間があるかね。ちょっと私たちと付き合わんかね。」「何ですか、」近所のお付き合いは大事にしている。親切にしてもらい、野菜を届けてもらったり、時には惣菜を頂くこともある。若い者が一人でいるのを見かねて心配してくれるのかもしれない。自分は何も出来ないが、顔をあわせれば挨拶をしてお話は聞くようにしている。勿論話が合うことも無いので、滅多に話をする機会も無いのだが、中に気さくな人がいて、若いヨナさんにも声をかけてくる。聞いてみると以前この町会の会長をしていて、とても詳しいことと生来の世話好きのようである。(どこにも一人ぐらいこのような人がいるようで、それぞれの町が成り立っているのかもしれない。)「いやね、天気もいいしちょっと遠出をしてうまい「うなぎ」でも食べに行こうかと思っているんだがどうだね。」ヨナさんはうなぎと聞いて少し気持ちが動いた。うなぎは嫌いではない。むしろ好きなほうかもしれない。
しかし、確かにこの辺には美味しいうなぎを食べさせるところは無かった。
たまにはうなぎもいいかと「連れて行ってくれるんですか。」「近所のばあさんと一緒だ。」爺さんの運転で、二人のばあさんが同乗した。何でも正、五、九といって正月と5月と9月の月に成田さんのお参りをかねてうなぎを食べて帰るのだそうである。今日は予定していた爺さんが具合が悪くなったようで、空いたらしい。話を聞いているとばあさんは80歳と90歳ぐらいらしい。それにしても元気である。運転している爺さんも80歳ぐらいだ。(内心、大丈夫かなと心配しないでもなかったのだが)車は走り出した。
しかし、目的地へ真っ直ぐ行くのではないらしい。確かにナビはその方向を指しているが、
そうでもない、運転しながら解説が始まる。新しい通りや町に入るとその場所の故事由来であったり、現在の姿と過去の姿の説明であったり、忙しい。後ろから声がかかる。「今、白いタイヤキの店があったわ。帰りに買うから寄ってください」真に賑やかで、楽しい雰囲気である。「ちょっと、ここから道を外れてみよう。何かあるみたいだ。」急にルートを外れて違う道を走り出す。ヨナさんは落ち着かない。