波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

            オヨナさんと私   第60回      

2010-01-22 10:01:53 | Weblog
毎日は確実に同じように過ぎていく。特別に日々変化が生まれ周りの様子が変わるわけではない。ぼんやりしていると昨日が今日、今日が明日かなと思われ、その日の記憶が薄れることになる。この日オヨナさんは一人の友人を訪ねようと、小さな駅をおりて、バスに乗った。車内にはお客は自分ひとりであったが、バスは程なく坂道を登り始めた。そして少し行くと視界が拡がり、目の前に急に茶畑が見えてきた。その茶畑の中心になるようなところに停留所が見えたので降りることにした。停留所には「牧の原台地」と書かれていた。
周りが一面の茶畑になっていて、小さな店があったので、休憩することにした。
聞くと、ここは標高40~200mの台地が続いていて、石ころも多く、肥沃な土地ではない。しかし土は弱酸性で気候が温暖であることから、明治時代から開拓され、冬になっても霜が降りることの少ないこともあり、お茶畑として適していたようである。
「風車のようなものが一杯見えるんですけど」「あれはおそ霜が下りそうになると、風でそれを飛ばし、防止するんですよ。霜が葉をいためる一番の注意なので」そんな話を聞きながら、お茶を飲む。心なしか、何時も飲んでいるお茶と違ってとても香りが良く、美味しく感じる。「この先にお茶の製造工場があるので、ちょっと見て行ったら」と進められて、行って見ることにする。近くまで行くと濃いお茶の香りと色々な種類の肥料の入り混じった、なんともいえない空気が漂い、胸が詰まるような思いで立ちすくんでしまったが、台地から一面に見える茶畑と島田市の町並みが見ごたえがあり、すっかりその雰囲気に飲まれていた。
「私の居るところから考えると、ここは別世界のようだよ。」学生時代から何十年ぶりの再会した友人だったが、其処には違和感は無かった。メールや電話で大体の様子は分っていたが、こうして話していると現実として感じてくる。彼は結婚して、家庭を持っていた。
「君はまだ一人かい。」「うん、どうも縁遠くてね。」そんなやり取りの中で、会話が途切れても、気持ちは通い合いその時間は平安だった。
「君はウーロン茶のほうが良いんだろう」台湾育ちのことを知っていて、聞いてくる。
「ここへ来て本場のお茶を飲むと、日本茶もまた格別だね。味は違うけど、何となく気持ちが落ち着くよ」それぞれの良さがある事をこうして確実にしながら味わうことが出来ることに幸せを感じていた。