波紋

一人の人間をめぐって様々な人間関係が引き起こす波紋の様子を描いている

波紋   第13回

2008-08-11 12:24:16 | Weblog
「参ったよ。松山君も噂で聞いていたかと思うんだが、社長も今回は打つ手が無いらしい。残念だけど、一つの事業部を閉鎖して止めるしかないようだ。」
「やっぱりですか。何となくそんな話を聞いていましたが本当なんですね。」そう言ってから和夫は急にタバコが欲しくなった。ヘビースモーカーと言うほどではなかったが落ち着かなくなったり、食後には欲しくなる。今は前者だった。
ピースの少し甘いような強い香りが漂う。二人は暫くそのまま黙ったままであった。「会社がつぶれると言うことではないけど、人数も減らして縮小することは事実だ。当然今の君の仕事はなくなることになるな。お前どうする。」
「そんなこと急に言われても私には何の考えも浮かびませんよ。どうしたらいいんですか。」突然のことで和夫は動転していた。そして開き直った言い方になるのをとめることが出来なかった。
「所長はどうするんですか。私はどうしたらいいんですか。首になるんですか。」
タバコを吸っている余裕も無くなり、少し興奮気味になっていた。
「まあ、まあ、慌てるなよ。まだ何も言われたわけじゃないし、何も正式に決まったわけじゃないんだ。ただこれからのことを考え覚悟だけはしなきゃならないんだよ。」中山は和夫の予想以上の動揺と話し振りに驚いていた。
「俺もこれから少し真剣に考えるけど、君もこのまま仕事が続くと思わないでこれからのことを考えておくことだな。」伝票を持って中山は立ち上がった。
少し冷静になりながら和夫は加代子や家族のことをふっと思い巡らしていた。
和夫の住んでいるところは総武線の五井駅から小湊鉄道に乗り換えた上総牛久駅から2キロほどのところにある。あまり知られていないこの支線だが、その終点近くにある「養老渓谷駅」には有名な養老の滝や養老温泉があり、この辺では有名である。和夫の父はその近くにある作り酒屋で働いていた。
通勤には会社まで約2時間ほどかかるが和夫はあまり苦にしなかった。生来のおっとりした性格と何によらず慌てない行動、そして何事もいい加減には片付けない習慣で普段でも外交から会社へ返り、報告書を書いた後も、資料を取り出し、整理をして、又新たに作り直したり、整理をしたりしている。気がつくと、会社には誰もいないことが多いが彼は気にすることは無かった。
あくまでもマイペースであり、周りが何を言おうと騒ごうと気にすることは無かった。