「ヤング@ハート」は、米・マサチューセッツ州にある、平均年齢80歳のコーラスグループのコンサート前6週間を描いたドキュメンタリーである。といっても趣味やサークルのレベルのコーラスではない。全米各地で行われる公演はいつも満杯、ヨーロッパ・ツアーまで敢行している。
驚かされるのはそのレパートリーだ。R&Bやロック、パンクロックまで歌いあげてしまう。映画の冒頭、杖をついた92歳のおばあちゃんが、ザ・クラッシュの“Should I Stay Or Should I Go”を観客の前で挑発的に歌うシーンは思わず拍手したくなった。
コーラスの指揮を務めるボブによれば、あるとき老人ホームで歌を指導していたとき、ソロで一曲を歌いきったある老人の歌声に感動し、それがグループ結成のきっかけだったという。
高齢者と音楽の関係と言えば、音楽療法が思い出される。しかしボブは、一般的な音楽療法のように昔の曲や身近な曲を歌わせるような「癒し」としての音楽を目指しているのではない。コンサートの前には毎回、新しい曲目に挑戦させる。メンバーが思わず耳をふさいでしまうようなパンクロックを聴かせ、さあこれを練習しようと言う。新しいものへの挑戦。それは若者だけの特権ではない。いくつになろうと、人にはチャレンジする力がある。それを引き出すことで、老人たちは自らの能力を開発し、人生の輝きを失わずにいる。
彼らの心は若者のようだが、身体の衰えは避けられない。みな病や身体の痛み、ハンデイをもって参加している。癌の手術を繰り返してきた人、呼吸器なしには生活できない人。取材の過程でも二人の老人が亡くなった。それでも映画を観てわかったことは、彼らが音楽に取り組むことで、免疫力が高まり、奇跡的な回復をみせることもありうるということだ。
音楽療法における音楽の力、それはたんに人を「癒す」ことのみではない。つねに新しい音楽へとチャレンジし自らの弱点を克服していく老人たちの姿からみえてくるのは、もうひとつの音楽の力、もうひとつの「音楽療法」だ。