木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

対平成21年戦(4) 輸血拒否事件との関係

2012-05-05 08:52:08 | Q&A 採点実感
平成21年の問題について輸血拒否事件との関係について、ご質問いただきました。


Unknown (今年初受験)
2012-05-03 23:42:28
連載再開ありがとうございますm(_ _)m

仮に、第三者の人権の違憲主張適格の問題が出題されたときに、
規範・あてはめをどうしようか困っていたので、参考にさせて頂きます!

あと、平均21年の設問2に関しては、エホバの輸血の判例が関係しているとの噂をよく聞きます。
私も、当該事案において問題となっている情報を知る権利については、
13条の問題にすることが適切だとは思いますが、それがどうしてかは明確には言えないところであります。
つまり、21条の知る権利として構成出来なくもないのではないかと思うのです。
お忙しい中、申し訳ないですm(_ _)mUnknown (だんでらいおん)

2012-05-04 19:33:21
>木村先生
H21年解説記事、大変ためになります。おかげで、設問1で、「自由の問題?」を見逃していたことに気づけました。ただ、初見で解くこと&二時間の時間制限を考えると、自分には物凄い難問に感じてしまい、ちょっと自信が無くなります。

>Unknown様
自分も気になっていた問題なので、横からレス失礼します

●輸血拒否事件に関して
「同判例を理解していれば、Cに対するXの説明責任が問題となることに気付くことができたはず(採点実感)」
「XがCの要望と異なる『規則』の内容について説明していない(出題趣旨)」
とありますが、設問2で具体的にどう関わってくるのか自分もよくわかりませんでした。

●知る権利について
自分は以下のように理解しました。

知る権利(21条1項)は、人が思想・意見を形成するためには情報を自由に得ることが必要なところ、情報の偏在・独占化が進んだ現代社会では、情報の公開を求める権利を認めることが、表現の自由の保障にとって不可欠として、表現の自由に「受けての自由=知る権利」を含めるというもの。
ここから考えると、本件の遺伝子情報は思想・意見の形成とは基本的に無関係なので、知る権利(21条1項)の問題とはしにくい。

他方、遺伝子情報はまさに個人の情報(しかも、人格的利益と密接にかかわる?)であるから、その開示を求める行為は、自己に関する情報をコントロールする権利(13条)として保障される。


ご質問ありがとうございます。

えーと、平成21年の問題と輸血拒否事件について、
説明してみます。

輸血拒否事件判決は、要するに、

1 患者にとって重大な事実(輸血の有無)を告知することは、
  患者が治療を受けるかどうか、どのような治療を受けるか
  を決定する重要な前提である。

2 よって、そのような重大な事実をつけずに治療を
  することは、自己決定権の侵害になる。

3 自己決定権は、民事不法行為法上の
  法律上保護された権利である。
  (民事法上の人格権の一種である)

ということを述べた判決です。

平成21年の問題でも
患者さんに、情報開示をしてはいけないという規則があり、
その点について説明をせずに、治療・研究すると、
患者さんの自己決定権の侵害になるわけです。

ただ、
輸血拒否事件は輸血しないという規則があって
その規則を説明せずに、
輸血した、という事案。

平成21年の問題は情報開示しないという規則があって
その規則を説明せずに、
開示した、と言う事案。

かなり違うような気がしますね。


とはいえ、情報を開示しないと言う規則が
保護しようとしている利益があり、
輸血拒否事件の構造からすれば、
X先生は
「遺伝情報を知らせることは、
 ご本人に様々な心理的負担を生じさせる可能性があり、
 本学では、遺伝情報の開示に応じないと言う規則があります。
 しかし、私は、そうした心理的負担に
 あなたが耐えるということでしたら、
 情報開示をする予定で治療研究します。」
と説明し、本人の自己決定を促すべきだった
ということになるでしょう。

だから、処分は適法だとY大学当局が主張していく
ことを想定しているんだと思います。

規則に違反して情報を開示するにしても、
その前提として丁寧な説明が必要なはずで、
今回の処分は、ばっさりやりすぎた情報開示なので
X先生の要保護性が低い、ってことですね。

こんな感じでどうでしょう?

採点実感を書かれた先生が、ここまで細かいことを明確に考えていたかどうかは別として
このあたりに問題がありそうだから、
それを発見して明確に書けたら
高い評価をしましたよ、位のメッセージだとおもいます。

最新の画像もっと見る

10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
実効性とは (試験前太郎)
2012-05-05 12:30:22
木村先生、先生のブログ、急所を読んで憲法が大好きになった試験前太郎です。
今回の投稿と関係のない点について、こちらで質問をする非礼をお許しください。

質問の内容は、平成20年度採点実感や、平成23年度採点実感の補足で記された「実効性」という言葉の意味についてです。
木村先生は、正当化の要件の一つである関連性を、国家行為が目的の実現に役立つものであることと、明快に説明されています。
他方、採点実感先生のいう「実効性」は、日本語の意味からは、役立つかどうか、すなわち関連性と同じにも思えます。しかし、採点実感先生は、関連性と「実効性」を並列的に記載しており、その内容が異なるように読めます。
そこで、「実効性」の内容、関連性との位置づけについて、どう考えるべきでしょうか。


返信する
>試験前太郎様 (kimkimlr)
2012-05-05 12:39:04
そうですねえ。

実効性がない、というのは、
例えば、
路上でのナンパをすることを届出制にしても、
罰則とかなければ、
実際上だれも届け出ないから実効性がないよ
というようなことで、
実効性がないから、
その規制は関連性があるとは言えない
と使う事情ですね。

ただ、「みんながちゃんとやっても」関連性がない場合と、
「みんながちゃんとやればあるけど、
 みんなちゃんとやろうとしないだろうから」
結局関連性がない場合というのは、
分けて論じた方が分かり易いだろう
と言うことだと思います。

あまり判例で、実効性を独立に問題にしている例は見ませんね。
返信する
Unknown (試験前太郎)
2012-05-05 13:55:11
木村先生、ありがとうございます。
やはり実効性は、関連性の中で話すものなんですね。
また、たしかにその二つは明確に分けて考えるべきですね。
実効性という要素は、判例の言い回しでなく、著名な基本書でも余り見かけなかったのですが、スッキリしました。
同様に、採点実感先生の「厳密に定められた手段といえるか」という少しわかりづらい言葉も、
(有斐閣の憲法訴訟の現状分析の青柳先生の論文からすると)どうやらアメリカの考え方の訳語であるようで、
実効性も、ドイツかアメリカの訳語かなと考えていました。

ありがとうございます。
返信する
>試験前太郎さま (kimkimlr)
2012-05-05 15:30:55
厳密に定められた手段というのは
curtailedの訳語ですね。

curtailというのは、
短縮する、とか刈り取ると訳しますが、
規制対象が、必要範囲に厳密に限定されている
ということで、
要するに、過剰包摂でなく、LRAもない
という意味です。
厳格審査基準の場合の用語法ですね。

補足でした。
返信する
>木村先生 (試験前太郎)
2012-05-05 16:02:24
「厳密に定められた」curtailedは、
「綿密に規定されている」narrowly tailoredとは異なるものだったんですね。
厳格審査の基準として用いられているので、てっきり両者とも同じ原語かと勘違いしていました。
curtailedがドイツでいう必要性の話に近いとすると、narrowly tailoredかという判断の方が、対象とする範囲は広そうですね。
(浅薄な知識でアメリカやドイツの考え方に興味を持って、先生に質問をしてしまい申し訳ないです。)
返信する
>試験前太郎さま (kimkimlr)
2012-05-05 16:13:29
curtailもnarrolly tailoerdも
ほとんど同じ意味でつかわれていますよ。

アメリカ人、というか、
憲法訴訟の担当判事は、用語をそれほど厳密に
使い分けてはいないように思います。
返信する
>木村先生 (試験前太郎)
2012-05-05 16:27:43
ほとんど同じですか。やはり原文を読まないで憶測で話すと誤ってしまい良くないですね。
ご教授いただき、ありがとうございます。
先生の憲法学再入門のこれからも楽しみにしてます。
それでは失礼します。
返信する
Unknown (だんでらいおん)
2012-05-05 23:03:56
なるほど!本件開示の要保護性を低下させる事情としてYが主張できるということだったのですね。ただ、先生の仰るように、輸血拒否とはだいぶ事情が異なるので、採点実感はあまり細かいことまで考えての記載ではないような気がします。Cからすれば、Xがはなから開示するつもりであれば規則の存在は自己決定とあまり関係しない(適切な自己決定に重要なのは、規則の存在ではなく開示が心理的負担を患者に与えるという規則が制定された理由のほう)訳ですし。

モヤモヤしていた部分がすっきりしました。ありがとうございます。
返信する
>だんでらいおんさま (kimkimlr)
2012-05-06 21:28:39
そうですね。

昨年の採点実感、ネチネチ読んでみてわかったんですが、
採点実感の文章も、
受験生にぜひとも知ってほしいというテンションのものと、
ちょっと思いついたんだけど、こんな観点もあっていいんじゃない、
みたいなものがありまして、
見極めは大事ですね。

ではでは、がんばってください。
返信する
>試験前太郎さま (kimkimlr)
2012-05-06 21:29:37
どもです。

来月は、国会と内閣と国民の話をしています。

よろしくっす。
返信する

コメントを投稿