サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

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mini review 08335「雲南の少女 ルオマの初恋」★★★★★★★☆☆☆

2008年11月22日 | 座布団シネマ:あ行

昔ながらの暮らしが残る素朴な村で、つつましく生きる少女が、都会から来た青年に恋心を抱く切ない初恋物語。世界自然遺産にも認定された雲南省の豊かな自然を背景に、少数民族の少女と漢民族の青年の淡い心の交流を描く。撮影当時16歳でヒロインに抜擢された美少女リー・ミンが、素朴な少女の純情を体当たりで演じている。青年以外は現地のハニ族の人々で撮影され、彼らの日常の生活や雄大な自然の風景に魅了される。[もっと詳しく]

もっとも空に近い村。ルオマはいつまで笑顔を持ち続けられるだろうか。

少し前、長崎の大村湾を国道沿いに車で走り、いくつかの見事な棚田を見ることが出来た。
それほど背丈の高くない山の斜面に沿って、なだらかなスロープで海沿いの道路のすぐ上まで、棚田が続き、夕陽に照らされている。
この地方の、隠れキリシタンたちもまた、この穏和な風景に心を慰められたのかもしれない。
「ルオマの初恋」にも、見事な棚田が広がっている。
雲南省元陽県。その標高2000メートルの雲をも眼下に見下ろす高地に、水をたっぷりと含んだ水田が、長崎のそれを何倍かにしたような規模で、整然と端正な曲線を描きながら、拡がっている。
この地は、一説によると水稲発生の地であり、日本人のルーツともいわれている。
中国南西部、ベトナムと国境を接している。
一帯は、正式には雲南省紅河ハニ族・イ族自治州と呼ばれている。



ハニ族は、「和夷」と歴史上は呼ばれたこともある少数民族であり、ハニ語を使用し、150万人ぐらい。
コメが主食であり、とうもろこしを補助食としている。
少女ルオマ(リー・ミン)は17歳。事情は分からないが、両親はおらず祖母と二人暮しだ。
つつましやかな家の戸を開けると高地から見下ろす遠大な光景が眼下に広がっている。
ルオマは棚田を仕切る畦道を器用にはずむように下りながら道路に出る。
そして乗合自動車に加わって、麓の小さな町に降りる。
麓では、自分の場所を確保して、炭火に網をかけてとうもろこしを並べる。
「焼きとうもろこしはいかがー?大きくても小さくても1本50銭よー」



ルオマは笑顔の可愛い少女である。
観光客に一緒に写真を撮らして、とせがまれる。ルオマはとても恥ずかしそうだ。
ルオマの仕事場の近くに、カメラマンのアミン青年(ヤン・チーカン)のスタジオがある。
アミンは思うように稼ぐことが出来ず、スタジオの部屋代も支払えず、追い出されようとしている。
アミンは、ルオマに近づき、観光客向けの写真のモデルに口説いて仕立て上げる。
見晴らしのいい棚田が見下ろせる景観スポットで看板を掲げる。
「1枚10元だよ」。
焼きとうもろこしを売るより、ルオマにももっと実入りがいい。
なにより、アミンのバイクに乗りながらの仕事場への行き帰りが愉しくなってくる。
アミンは大都会の昆明から来た、漢民族の青年である。
ルオマの知らない世界から来た、マレビトだ。



ルオマの女友達ルオシオが昆明から戻ってくる。
写真を見せながら、大都会を自慢げに話す。
「エレベーターがあるのよ」
「エレベーターって空を飛ぶの?}
「上下に高速で移動する箱みたいなものよ」
ルオマはエレベーターに憧れる。
2000メートルの高地から、毎日のように下界に降りるルオマ。それが日常だ。
でも、エレベーターは何時間もかけて山を昇ったり、降ったりするのではなく、そのまま身体が垂直に持ち上げられたり、降ろされたりするのだ。
ルオマにとっては、夢のような不思議な乗り物だ。
ルオマはアミンに「いつか昆明に連れて行って。エレベーターに乗りたいの」と夢見がちに話すようになる。



アミンには昆明に恋人がおり、彼女がスポンサーにもなっている。
部屋代も稼ぐことが出来ないアミンにその恋人は失望し、言い争いをしたりもする。
心配する祖母を振り切るように、ルオマは荷造りをして、アミンの下に足取りも軽く向かう。
しかし、そこでルオマが見たのは、恋人に連れ戻されるアミンの姿だった・・・。
少数民族のひとりの少女に生起する、幼い「初恋物語」に過ぎない。
しかし僕たちは、まるで世間知らずで純粋な妹を遠くから見守るように、はらはらしたり微笑んだり憐れみをもったりしながら、感情移入することになる。
「ハニの民は人を騙さない」
祖母も村の人々もルオマも、そのことを信じて疑わない。



ハニ族の青年男女には「田植え祭」の儀式がある。
棚田に男女はふたつの陣に分かれて入り込み、嬌声をあげながら泥玉をつくり、それを相手の陣に近づいて、顔をめがけてぶつけるのだ。
この日は、「愛の告白」の無礼講なのだ。
そんな儀式の意味も知らないアミンは、足を滑らせて水田に落ち、笑って近づくルオマに「遊び」で泥玉をぶつけたのだ。ルオマの顔は、泥だらけになる。
このとき、都会から来たお兄さんであったアミンは、ルオンの初恋の人となる。
儀式の慣習を借りて、ルオマははじめて「恋」という感情を知ることになったのである。



ルオマと祖母の家には、なんの電化製品もない。
電気も通っているのかどうか疑わしい。
不思議なことではない。
低開発国では、都会は別としても、電気が通っていない地域が、いまでも80%に達している。
そんなルオマにアミンはカセットレコーダーを貸してくれたのだ。
テープからはアイルランドの歌い手エンヤの「カリビアン・ブルー」が聞こえてくる。
ルオマは、いつもいつもそのテープを繰り返し聴いている。
その音楽を通して、いっときルオマの意識は世界に拡張されることになる。



ルオマのような少女の多くは、現在の中国では働き場所がある都会に出てくるようになるのかもしれない。
そのことを、いまの僕たちの位置から、嗤うことなどできない。
結局、僕たちもまた、可愛い少女に風光明媚な棚田を背景に、記念写真を撮ろうとする観光客の視点とそれほど変わるわけではないからだ。
チアン・チアルイ監督はこの作品を含めて、雲南三部作を制作している。
世界自然遺産にも認定されたこの地が、この先どのように変貌していくのか?
僕たちはなんの関与をすることもできないのだが、合理の世界によって組み立てられた現在の「しあわせ=理」は、ほんとうはもっともっと「非合理」も含みこんだ「しあわせ=理」があるのではないかという思いを捨て去ることができない。
どこかで僕たちは、道を間違えたのではないか。
ルオマのような少女、そのおおらかな笑顔を、僕たちの側から言えば、そっとないものねだりのように、憧憬することしかできないのかもしれない。

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