サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

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mini review 08341「NEXT -ネクスト-」★★☆☆☆☆☆☆☆☆

2008年12月06日 | 座布団シネマ:な行

アメリカを壊滅させる恐れのある核爆弾テロの阻止を託された、予知能力を持つ男にふんするニコラス・ケイジの大奮闘を描くアクション大作。『ブレードランナー』『マイノリティ・リポート』のフィリップ・K・ディックの短編小説を基に、『007/ダイ・アナザー・デイ』のリー・タマホリがメガホンを取った。主人公の目に映るのは、ほんの2分先の未来。刻々と迫るタイムリミットが迫る中、最後まで途切れない緊張感を体感できる。[もっと詳しく]

「ペテン師に囲まれた幻視者」である、ディックが泣いているぞ!

フィリップ・K・ディックの名作「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」が、「ブレードランナー」と改題されて、映画化されたのは1982年のことである。
この小説が刊行されたのは1968年のことであり、中学生から高校生にかけてSFマガジンの愛読者であった僕たちには、御馴染みの作家であった。
ディックのSF長編は、早川書房からいくつか出されていたが、その後サンリオSF文庫(懐かしい!)から、相当の点数が出されることになった。
ほとんどの点数を僕は持っていたと思うが、後年大学を出た息子が古本屋にバイトさせていただいていたときに、もう絶版になっているディックの文庫本をニヤニヤ笑いながら本棚から取り出し「おやじ、これ結構レアなんだよ」と話してくれた。
「フーン、読んだら、おまえが売っちゃってもいいよ」と答えたら、まとめて自分のアパートに持っていったようだ。



この1982年という年は、ディックが53歳で死んだ年である。
生涯を通じて、薬物中毒であり、自殺未遂も繰り返した。
そのせいなのかどうなのかわからないが、神秘体験を多く経験している。
彼の作品の頂点は、晩年の「ヴァリス3部作」だと僕は思っているが、ほとんど前衛文学だといってもいいし、神学問答の書だといってもいい。
僕はちょっとした旅に出るときは、いつもディックの文庫本をリュックに持ち歩いていたものだ。



映画化作品としては、「トータル・リコール」(90年)、「マイノリティ・リポート」(02年)、「ベイチェック 消された記憶」(03年)あたりが記憶に残っている。
「NEXT」は短編集「ゴールデンマン」(80年)を原作としている。
主人公クリス・ジョンソン(ニコラス・ケイジ)は自分に関わる2分先の未来を予知する能力を持っている。
その能力を隠すために、ふだんはマジック・ショーなどで糊口を得ながら、目立たぬように生きている。
ネイティブ・アメリカンの教師をしているリズ(ジェシカ・ビール)の未来が見えてしまったことから、彼女に近づき親しい関係になる。
クリスの能力を発見したのがFBI捜査官のロリー・フェリス(ジュリアン・ムーア)。ロリーは核爆弾テロを阻止するためにクリスに協力を要請しようとするのだが・・・。



ニコラス・ケイジは文芸作品からサスペンス・アクション・コメディ・カルトまであらゆるジャンルの作品に出ずっぱりのような役者であるが、どうにも好きになれない。
フランシス・F・コッポラ監督の甥にあたるのだが、あまりに大作にひょいひょい出過ぎるからか、ショーン・ペンあたりから嫌味を言われているようだ。
「ナショナル・トレジャー1・2」などでも、興行的にはヒットしたのだろうが、僕にはお子様向けの出来の悪いアドヴェンチャー物語にしか見えなかった。
ジュリアン・ムーアは「エデンより彼方に」(02年)、「めぐりあう時間たち」(02年)などで堂々とした知性派の演技をしている。けれども、「フォー・ガットン」(04年)、や「フリーダム・ランド」(06年)のような開いた口が塞がらないようなトホホ映画に真面目な顔をして出演したりするので、どうも油断がならない。
ジェシカ・ビールは「エスクァイア」誌でベストセクシー女優として持ち上げられたりしたことがあるが、「テキサス・チェーンソー」(03年)、「ブレイド3」(04年)、「ステルス」(07年)などB級スレスレの映画にヒロイン役で出ているが、僕は結構、ファンである(笑)。



2分先の未来を予知する能力というものを、小説で読んでいる限りでは、僕たちはそれほど異和なく、了解することが出来る。文字から入った情景を、僕たちは脳裏でそのまま、描き出すことが出来るからだ。それがどれだけ、慌しいフィードバックを伴うにせよ、これは現実時間か、2分先の予知時間の出来事か、どちらにせよ、脳裏で瞬時に切り替えることが出来る。
しかし、映像表現ではそうはいかない。
目を瞑ったケイジの意識の集中の中で2分先に起こるであろうシーンを映像化する。その瞬間を避けるために、ケイジは予期した情報を繰み込み、自分の行動を修正することになる。
観客は、自分の脳裏で切り替えるのではなく、ケイジの予知像そのもの、予知像を脳裏で描いているケイジそのもの、そしてケイジの現実で流れる世界そのものの映像切り替えを、ただポカンとして見るしかないのである。



迫り来るタイムアウトの緊迫した状況の中で、ケイジは分身の術よろしく倉庫内のあらゆる場所に出向きそこで体験する「2分後」を猛烈なスピードでシミュレーションすることになる。そして、隅々まで、神の鳥瞰的視点の様に全体を俯瞰することになるのである。あっちをのぞいてはリセットし、こっちをのぞいてはリセットする。
いってみれば、僕たちがロールプレイング(あるいはシミュレーション)ゲームで頻繁にリセットを繰り返すようなものなのだが、まるでマンガである。
おいおい、ディックはこんなドタバタ劇を創出したかったわけではないぞ、と僕は無性に腹立たしくなる。



つまるところ、意識の時間の流れは脳内でいかようにも圧縮し変形させることが出来るが、映画的時間そのものは、フィルムの物理的時間に規定されてしまうということなのかもしれない。
あるいは潜在意識がみせるたとえば「夢」の時間では、現実的時間のたった数十秒の時間の中で、長い一日を「体験」することが出来るが、映画的時間の中では、経過する数十秒はやはり数十秒にしか過ぎない、ということなのだ。
その桎梏を超越するために、たとえばスタンリー・キューブリックは、「2001年宇宙への旅」で意識の流れを超高速の光を擬似させるような映像演出を編み出したのであろう、と思う。
「007/ダイ・アナザー・デイ」のリー・タマホリ監督は、あまりに安易なマンガチックな映像演出しか出来ていない。
ポーランドのSF作家スタニフワフ・レムは、生前のディックを唯一正当に評価した作家であるとも言われている。彼は、ディックのことを「ペテン師に囲まれた幻視者」と評したのである。

kimion20002000の関連レヴュー

ナショナル・トレジャー
フォーガットン





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4 コメント

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おじゃまします (ピロEK)
2008-12-31 08:44:49
おじゃまします。今年はお世話になりました。
私は不勉強で原作を読んではいないのですが、こちらのレビューを読ませていただいて…他でも原作を読んだ方が酷評されている理由が少し伝わったような気がしております。
映画は映画なりのアプローチに徹して、2分間という制限で何とか事件解決…みたいな作りだったら面白かったんでしょうけどねぇ。
では、また来させていただきます。来年もよろしくお願いいたします。
ピロEKさん (kimion20002000)
2008-12-31 13:02:07
こちらこそ、来年もヨロシク。
ディックは特別なんですね。僕にとっては。
だから、かなり個人的偏向が入っているやもしれません(笑)
弊記事へのTB&コメント有難うございました。 (オカピー)
2009-04-24 02:00:49
原作からは「2分間の予知夢」というアイデアを拝借しただけと思うので、ディックに拘らなくても良いと思うのですがねえ。^^

僕の解釈では・・・
脚本家は、核爆破を止める力などなかった主人公が、ジュリアン・ムーアに追われた為に却って「ひょうたんから駒」が出てしまうブラック・コメディーとして書いたのに、
監督がそれを理解しないまま作ってしまったので、
おとぼけ感が希薄になった。
その意味で失敗作だと思うのであります。
オカピーさん (kimion20002000)
2009-04-24 23:49:34
こんにちは。

>ディックに拘らなくても

はは、そうですね。
ディックと先日亡くなったウィリアム・バロウズは僕にとっては、神様みたいなものなので、ついつい大人気なく・・・(笑)

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