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サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

mini review 07243「カオス」★★★★☆☆☆☆☆☆

2007年07月08日 | 座布団シネマ:か行

シアトルの銀行を武装強盗団が襲撃し、リーダーのローレンツ(ウェズリー・スナイプス)は、交渉人にコナーズ刑事(ジェイソン・ステイサム)を指名する。ローレンツは謎めいた言葉を残して逃走してしまうが……。複雑に見えても簡単な方...

「カオス理論」というよりも、スタイリッシュ映画だな。

「ダイ・ハード」のブルース・ウェルスにしても、「24時」のキーファー・サザーランドにしても、物語が始まれば、もうノンストップで一日、走り回ることになる。ご苦労様、体が持たないよね、と同情する。
「カオス」でも、新人刑事であるデッカー(ライアン・フィリップ)が、初日からそんなお忙しい役どころだ。

シアトルにあるグローバル銀行が強盗に襲われる。リーダーのローレンツ(ウェズリー・スナイプス)は、銀行を取り囲む警察に対して、「俺の要求はひとつだけ」と交渉役にコナーズ(ジェイスン・ステイサム)を指名する。
コナーズは、人質事件で、犯人を射殺の際、人質である一般市民も死に至らしたという理由で、謹慎措置が取られている。

 

上司と共に、コナーズを迎えに行くデッカー。その場で、コナーズの相棒に指名される。
現場に戻ったコナーズは、SWATと共に、突入の作戦を立てる。人質が表玄関に逆さ吊りにされているのをみたコナーズは突撃中止を発令するが、間に合わず、SWATの突入と同時に、爆発が起こる。その騒ぎの中で、強盗団は逃走する。
デッカーはコナーズの指示や関係者の証言などを、きちんと手帳に書き止める。当初は、コナーズの強引とも思える捜査手法に戸惑うデッカーだが、すぐに、コナーズの優秀性を認め、自分流に学び、適応しようとする。

一方、ローレンツは捜査のさきざきに先回りをし、あざ笑うかのように、追い詰めた共犯者たちをいち早く殺害していく。
そして、密会の現場に現れるであろうローレンツを追って、住居に踏み込んだ捜査班だが、再び爆発が起こる。
逃げ遅れたコナーズは、焼死体となって発見される。デッカーは、ひとりで、ローレンツを追い詰めることになるのだが・・・。

 

デッカー役の若き刑事ライアン・フィリップがとてもいい。
ポール・ヒギンズ監督の名作「クラッシュ」でも、正義感溢れる若手警官を好演していたが、今回は、体を張りつつ、冷静に推理をめぐらす魅力的な刑事役を演じている。
頭もよく、仏陀のエピソードを語ったり、ローレンツが得意気に謎を語る中から、カオスという言葉を見つけ出し、解説したりする。

結局、この事件は、二転、三転することになるのだが、すべては、コナーズが謹慎処分となった人質事件に端を発している。
題名であるカオスは、「初期条件・境界条件を定めると以後の運動が決まるような簡単な系であっても、初期条件のわずかな差で大きく違った結果を生ずるような現象」をいう。
この場合の解とはなにか?
人質事件に端を発しているのなら、その関係者の行動を、予測し得なかったということか?
それとも、ローレンスの最初の要求が通るかどうかで、シナリオは大きく変わったということか?
わかったようで、わからない(笑)

 

カオスにともなうもう少し自由な連想で・・・。
カオス理論とは、複雑系理論のひとつともとらえられる。
よく知られた複雑系理論に、「バタフライ理論」がある。
小さな現象が、回りまわって、とてつもない結果に連関しているということだ。

「北京で蝶が羽ばたくと、ニューヨークで嵐が起こる」と。
日本で言う、「風が吹けば桶屋が儲かる」という因果律とは微妙に異なる。
そこに、必ず、なんらかの数式や方程式の解が、仮定されるからである。
「人質事件」が起これば、めぐりめぐって、史上最大の銀行強奪事件となる。その回路が、とても複雑なのだが。
複雑な事象を解く態度として正しいのは、ひとつひとつを無理やり還元しないことだ。還元主義に対する全体論といってもいい。
「複雑な事象を複雑なまま理解しよう」ということ。このことの資質を、デッカーは持っていたように思う。



そして、一連の捜査に対して、犯罪サイドにとって予想外の因子となったのも、デッカーの存在である。
デッカーは、ローレンツが偽名であり、カオス理論の提唱者の一人である気象学者エドワード・ローレンツからとられていることに気づく。
そしてまた、署内から盗まれた紙幣には、独特の香料をまぶしてあることから、本当の黒幕に最後の最後に辿り着くことになる。(もちろん、観客は、もっと早く、黒幕を類推してはいるんだが) 。

2004年に公開された映画に「バタフライ・エフェクト」があった。
過去に遡る能力を持った男が、次々と過去の結節点となる出来事の時間に戻り、結果を変えるべく誘導するのだが、何度やっても、また不運な出来事を逆に誘発するといった話で、奇妙な味わいのサスペンスで小品ながら全米1位に輝いた。
そしてこの映画は、その後多く創られた不条理サスペンスものの、ひとつの原型となっている。
この「カオス」という映画は、そこまでのインパクトはない。
カオス・複雑系などとこねくり返す前に、「なーんだ、伏線は全部提示してあるじゃないか」という普通のミステリーのようにも思えるし、真相に近づくデッカーの「気づき」がちょっと偶然に寄りすぎて、推理サスペンスとしてみれば、アンフェアだということもできるからだ。



だけど、若きライアン・フィリップは大物に育ちそうな予感がするし、もちろん「トランスポーター」シリーズのジェイスン・ステイサムは元々オリンピックの高飛び込みの選手でありその後モデルもやったという格好よさに加え、本作ではデッカーの上を行く読書家でクールな役どころを演じている。
もちろん、「ブレイド」シリーズでファンの多いウェズリー・スナイプスの悪党も、スタイリッシュだ。
もうひとついえば、婦人警官役のギャロウェイ(ジャスティン・ワデル)の制服姿のゾクゾクするようなお色気は、十分に楽しめた。

それにしても、このDVDの特典に、初日シネマGAGAの一日宣伝部長として、愛川ゆず季なる頭の悪そうなグラビアアイドルがテコンドースタイルでわけのわからないことをしゃべっている。
彼女のせいではない。宣伝部の人間の、観客を馬鹿にしている態度に腹が立つ。
一回限りのイベントならば、許されるかもしれない。しかし、仲間内のおふざけを、売り物であるDVDの特典に加える神経は信じがたい。
この間抜けな宣伝部の連中は、こんな出し物で、観客を「カオス(混沌)」に巻き込もうという魂胆なのだろうか?

 



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6 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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TBありがとうございました。 (hal)
2007-07-09 09:25:14
この映画はほとんどPRがなかったので見逃した方も多いと思いますが、なかなかの秀作だったと思います。
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halさん (kimion20002000)
2007-07-09 10:52:06
こんにちは。
上映時は、さほど話題になっていなかったように、記憶していますね。
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TB有難うございました (オカピー)
2007-11-06 20:52:18
カオス理論とバタフライ理論を混同している方がいらっしゃいました。いえいえ、僕じゃないです。(笑)

最近は時系列をごちゃごちゃにしたり、嘘の映像を客観描写に見せかけたりして実力不足を誤魔化すサスペンス/スリラーが多い中で、<隠す>という古典的なトリックを使ったところに好感を持ちましたので、結構星が多くなってしまいました。<隠し方>がちょっとあざといのですけれどね。
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オカピーさん (kimion20002000)
2007-11-06 21:07:23
こんにちは。
こういう「カオス理論」ものは、ほんとうは、映画では描きにくいですね。
SF小説みたいなものであれば、背景理論や仮説をだれかに語らせることが出来ますけどね。
映画では、観客が混乱するだけかも・・・。
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TB&コメント有り難うございました (ほんやら堂)
2008-08-13 21:57:41
kimion20002000様

TB&コメント有り難うございました.
メインの3人の俳優はいずれも好きです.
ウェズリー・スナイプスが,マイケル・ジャクソンのミュージック・ビデオ「バッド」に出ていたなんて最近知りました.
この映画もう少し話題になっても良かったとは思いますが.
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ほんやら堂さん (kimion20002000)
2008-08-13 22:32:21
こんにちは。
カオス関係の映画が相次ぎましたから、ちょっと食傷気味で損をした映画かもわかりませんね。
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