
あらゆる感情を封印したかのように誰にも打ち解けず、黙々と工場で働くハンナ。その真面目過ぎる働きぶりを上司にとがめられ強制的に取らされた休暇中、思いがけないことから油田掘削所の事故で大怪我をした男・ジョゼフの看護を買っ... 続き
世界に「蛮行」がある限り、ハンナは再生産されていく。
「死ぬまでにしたい10のこと」でイサベル・コイシュ監督と主演のサラ・ポーリーをはじめて知った。
いきなり自分の死を悟った主人公が、遣り残したことを書き出すことによって、「自分とは何か」「自分は他者の何者になりうるのか」という基本的な問いを突き詰めていく。
「生は死によって輝きを放つ」とはよく言われることだが、このコンビは、無駄な修飾を剥いで、あまりにもそっけなく、その課題をゴロンと投げかけたのだ。
観客は、とまどいながら、自分だったら・・・というように考えざるを得ない、そういう場所に追い込まれることになる。
そのことがクチコミで伝わったのだろう。日本でも女性たちを中心に、この地味な作品は支持された。
そのあと、ヴェンダースの「アメリカ、家族のいる風景」で、サラ・ポーリーにはお目にかかった。まだ見ぬ父を捜す少しミステリアスな娘の役割。印象に残った。
そしてコイシュ監督とサラ・ポーリーは、「あなたになら言える秘密のこと」という作品で再びコンビを組んだのである。サラ・ポーリーを意識して、脚本を書き上げたと、コイシュはコメントしている。
女の名はハンナ(サラ・ポーリー)。
友達・家族・趣味・将来の夢などすべてない。
どこで生まれ、何をしていたのか?過去は誰にもしゃべらない。
男の名はジョゼフ(ティム・ロビンス)。
読書・食べること・ジョークはすべて好きだ。
どうして命に関わる重傷を負ったのか?その理由は話したくない。
海上に敷設された油田掘削所を舞台に、大火傷を負って一時的に失明しているジョセフと、ひょんなことで介護をすることになったハンナは、互いに秘密を抱えている。
世界の果てのようなその油田掘削所には、たぶん地上の世界ではなんらか窒息感を感じ不器用な生き方しかできないのではないかと思わせられるキャラクターが集まっている。
責任者でメンバーの過去を詮索せず孤独が好きなディミトリ。
世界各国の料理をその国の音楽をかけながら作る腕のいいスペイン人シェフのサイモン。
毎日、打ち寄せる波の数と強さを計測しながらも、海を汚染から救いたいという夢を持っている海洋学者のマーティン。
それぞれ、子どももいながら同性愛的な関係になった機関士のスコットとリアムたち。
誰とも打ち解けなかったハンナは、この奇妙な空間の中で、食べること、他人と少しづつ言葉を交わすことを通じて、徐々に周囲に関心を寄せるようになる。
そしてジョゼフとハンナは、契約ごとのように、お互いの秘密をひとつずつ話し始めるのだが・・・・。
相手の秘密を知りたいと思ったら、まず自分の秘密を明かすことだ。
このことは、経験的にとてもよくわかる。
信頼というのは、そのひとつひとつのキャッチボールの積み重ねのようなものである。
相手にばかり重ねて問い詰めても、本当のことは聞き出せない。自分のことばかりしゃべっても、相手は聞き流しているかもしれない。
とくに凍りついた心は、なかなか溶け始める契機を持つことがない。
最初のちょっとした一言、その一言の相手への気遣い、遠慮がちな好奇心、ジョークにまぶせた真実、あるいは沈黙に対する寛大さ、そうした機微こそが、凍りついた心に、小さな裂け目をつくることになるのだろう。
ハンナは介護士という設定であり、ジョゼフは一時的失明からハンナの容姿をみることができない、という設定であるから、このふたりに奇跡のようなコミュニケーションが成立したのかもしれない。
ジョゼフの秘密は、親友の妻を愛してしまい、そのことを当の親友に打ち明けてしまったことだ。
その親友は、油田掘削所の火災事故に乗じて飛び降り自殺し、彼を助けようとしたジョゼフは火傷を負ったのであった。
一方、ハンナの秘密はクロアチア紛争の民族浄化の内戦の中で、自国の兵士に陵辱され、監禁され、拷問され、仲間を殺害されていることであった。
この民族浄化のすさまじさは、たとえば「生きている孫の肝臓を取り出して生レバーとして食べるよう祖父が強制されたり」「収容所に入れられたもの同士が、睾丸を噛み切って殺すよう強制されたり」するものであったという。
そういうなかで、ハンナたち行きずりの女性に対しても、残虐な行為が長期間にわたって、執行されたのであろう。
ハンナはジョゼフに告白し、ナイフで切り刻まれ傷だらけの自分の裸身に、失明しているジョゼフの手を導く。
ジョゼフは激しく慟哭する。
この作品では、手術により失明を回復したジョゼフが、ハンナを捜し出し、一緒に生きていこうと説得するラストになっている。
一見すると、心温まるストーリーの帰結のようにも思えるが、ジョゼフにもハンナにも、悪夢がなくなることは、永久にないであろうことが暗示されている。
世界は苦渋に満ちている。
まともな神経であれば、なにもなかったかのように、幸福を謳歌する、あるいはそんなフリをすることなどできない。
けれども、世界の残酷な成り立ちによって、傷ついているのは、自分ひとりではない。
だから近くに誰かがいて、ひっそりと痛みに気持ちを寄り添わせてくれること、悪夢に魘されたときは震える自分を抱きしめてくれること、涙で周囲が溢れそうになったときでもちゃんと泳ぎきってくれること、そんなことぐらいは、人に恃んでもいい。
それでも悪夢は消え去ることはないだろう。
そんな諦めにも似た、監督の眼差しを感じてしまう。
僕たちの歴史に「民族浄化」に似た蛮行がある限り、ハンナは再生産されているのだから。
映画のレビューがたくさんあって、すごいですねぇ。
足元にも及びませんが、私も映画好きなので
また、遊びに来させてもらいます。
宜しくお願いしまーす。
いつでも気軽にコメントくださいな。
サラ・ポーリーは好きな女優さんです。「スウィート ヒアアフター」のヒロイン役はこの映画のハンナと、どことなく近いものを感じますね。これもやっぱり好きな映画です。
パリジュテームは、いろんな監督さんたちの群作でしたね。それぞれのパリ。
「スウィート ヒアアフター」は僕は見ていないんですよ。今度、注文してみましょう。
沢山映画を観られているようで、脱帽致します
この映画は地味でしたけど、わたしには、こみあげるものがありました。
わたしもTBさせて頂いたんですけど、ミスで!?4つも入ってしまいました。。。
これからもよろしくお願い致します☆
ハリウッド娯楽作品もたまにはいいんですが、こういうミニシアター作品の方が、心に残るケースが多いですね。
(留守にしていて、伺うのがおそくなってすみません。)
素敵なブログですね。
ゆっくり読ませていただきます。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。
こちらこそ、これからもよろしくお願いします。
TBありがとうございました(^0^)!
こちらからもTBさせていただきました☆
これから少しずつでも仲良くさせていただけましたら
とっても嬉しいです♪
どうぞよろしくお願い致します!
☆.・゜∵☆.・゜∵☆.・゜∵☆.・゜∵☆☆.・゜∵☆
ラササヤン
元 北陸朝日放送アナウンサー (新潟県 出身)
E-Mail rasasayan15@yahoo.co.jp
URL http://homepage2.nifty.com/sunflower15/
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私は「死ぬまでにしたい10のこと」を観てからサラ・ポーリーが気になってこれを観ました。
この作品は長く心に残るものになりそうです。
またお邪魔させてください。