サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

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mini review 09415「戦場のレクイエム」★★★★★★☆☆☆☆

2009年10月27日 | 座布団シネマ:さ行

中国共産党の人民解放軍と国民党軍による国共内戦で起きた、生き残り兵士の壮絶な生きざまを事実に基づいて描く骨太な戦争ドラマ。コメディーから人間ドラマまで手掛ける『女帝[エンペラー]』のフォン・シャオガン監督が、中国では異例の国共内戦の実情に鋭く切り込む。主演の兵士役には、これまで脇役として活躍してきたチャン・ハンユーを抜てき。迫力満点の戦場シーンと感動的なドラマを繰り広げ、観る者をとらえて離さないエンターテインメントに仕上げた。[もっと詳しく]

現代史における<戦争>を主題としたアジア映画は、それほど多くはない。

日本では山田洋次監督がながらくその位置にいたのかもしれないが、中国(大陸)でも正月映画というものがあるらしく、フォン・シャオガン監督は、その第一人者であるらしい。
いいも悪いも、大衆が求めるものはなにか、ということをよくつかまえている人なのだろう。
とはいっても、僕はこの人の作品は、2作しか見ていない。
ひとつは『イノセントワールド/天下無賊』(04年)。
詐欺や掏りでしのいでいるアンディ・ラウと窃盗集団のボスであるグォ・ヨウが、己の腕とプライドをかけて列車内で手品とも見まごうような秘術をつくして奪い、奪い返すというシーンがなかなかスタイリッシュで面白かった。
これも、05年正月映画で『カンフー・ハッスル』を抑えて、動員数1位となったらしい。
もう1本は、『女帝[エンペラー]』(06年)。
これは、チャン・イーモウがコン・リーやチョウ・ヨンファを起用しての豪華絢爛の宮廷歴史物語『王妃の紋章』(06年)を制作したのに対抗するかのようにぶつけられたチャン・ツィーやグォ・ヨウを起用しての王朝歴史劇であり、大ヒットした。
そして3本目となるのが、『戦場のレクイエム』。
この作品も、中国にしては17億円という巨費を投じて制作された大作だが、400万人の観客動員で37億円の興行記録を達成し、これは中国歴史上第2位の興行成績になっている。
中国のアカデミー賞といわれる金鶏百花映画祭で、主要4部門で最優秀をとっている。
やはり、巨匠のひとりではある。



歴史スペクタル活劇という意味で言えば、史実、神話、武侠を問わず、中国・香港・韓国がその壮大さを競い合っている。
ことにチャン・イーモウの『HERO』『LOVERS』の世界的ヒットはもちろんだが、チェン・カイコーは『PROMIS 無極』をひっさげ、ジャッキー・チェンは『The Mith神話』で中国の正月映画興行記録を更新し、ハリウッドで活躍していたジェット・リーも古巣中国で歴史映画に参戦、またジョン・ウー監督も『レッドクリフ』で参戦した。
アンディ・ラウも『三国志』の世界をいきいきと演じ、金城武もすっかり歴史劇に馴染んできた。
韓国ではテレビの連続歴史活劇が中心ではあるが、どれだけみても新シリーズがはじまってしまうので、時間がいくらあってもたりない。
ただし、現代を舞台にした「戦争映画」というと、それほど秀作があるわけではない。
迫力のある戦闘シーンも含めて記憶に残るのは韓国の『ブラザー・フッド』ぐらいではないか、と言えばいいすぎか。
やはり、旧くは『戦場にかける橋』あたりから『プラトーン』『地獄の黙示録』『シンドラーのリスト』『プライベート・ライアン』を経てイーストウッドの『硫黄島2部作』まで、膨大な欧米の現代戦争活劇ないしドラマの圧倒的な物量に較べることもできない。



そんななかでの『戦場のレクイエム』である。
原題は「集結号」、戦場における信号ラッパを意味しているらしい。
舞台は、日本軍が太平洋戦争の敗戦とともに引き上げ、1946年からはじまった毛沢東率いる共産党と蒋介石率いる国民党軍のいわゆる第2次国共内戦である。
この内戦は1949年国民党軍の台湾転軍、中華人民共和国の樹立により事実上終焉を迎えるのであるが、膨大な数の死傷者を生み出すことになった。
そのなかでも最大の(そして最後の)総力戦とされる淮海(わいかい)戦役。事実上は、1948年から1949年にかけての3ヶ月にわたる死闘であった。
その後は、1950年からはじまる朝鮮戦争へと、残った兵士たちはまた召集されることになる。



主人公であるグー・ズー・ティー(チャン・ハンユー)が所属するのは、「人民解放軍中原野戦軍第2師第139団第3営第9連」の連長(中隊長)である。
書き写すのもいやになるほど長ったらしい所属名称では在るが、それだけ広い国土での総力戦であったのだろう。
まず華原地方の激しい市街戦から物語りははじまる。
同じ民族同士の内戦である。
僕たちには本当のことを言えば、どちらが国民党でどちらが人民解放軍なのか、最初はよくわからないところがある。
なんとなく、人民解放軍には、帽子に紅い★マークがあるな、というぐらいの知識しかない。
グー中隊長は部下から慕われているが、戦闘中の指導員の死で興奮状態となり、捕虜に発砲を命じたなどの軍規違反に問われる。
そこで次の命令を与えたのが同じ郷里の出身であったリウ・ゾーシュイ(フー・ジョン)。この役者さんは『レッドクリフ』にも出演していた。
次の指令は、47人の部下を引き連れて、最前線にある旧炭鉱跡地を死守せよ!というものであった。
「撤退のラッパの音が聴こえるまでは撤退ならず」という命令である。



47人は、塹壕を掘り戦いに備えるが多勢に無勢。次々と仲間が斃れていく。
冒頭の市街戦と、この前線での戦闘シーンがこの作品の前半のハイライトである。
前述した『ブラザー・フッド』の製作会社やハリウッドの撮影チームもスタッフに加え、実に迫力のある戦闘シーンを撮影するのに成功している。
まるでオリヴァー・ストーンの名作『プラトーン』のような。
一般に三国志劇でもそうなのだが、あまりに壮大な物量作戦の中での戦闘シーンが続くと、その撮影テクニックには驚愕したとしても、しばらくみていると食傷気味になることもある。
なんだか、そこで命を落とす多くの戦士たちが、スペクタクルの点景のように思えてくるからだ。
けれども、前線の局地戦は、パースペクティブには乏しいが、その戦闘シーンには死を駆けた兵士たちの、息遣いが聴こえる。
机上ではない、まさに殺すか殺されるか、そこでの勇気、疑問、臆病、怯需、放心、蛮勇、憎悪、連帯・・・あらゆる極限状態下における人間の感情が剥きだしになる。
いつ砲弾が飛んでくるやもしれず、爆破があるやもしれない。
一寸先は闇。しかし、戦場を放棄するわけにはいかない。



味方の死者は増え、闘いに勝算はない。
そのとき、負傷した部下が、「撤退ラッパ」が聞こえたと言う。
グー中隊長は、砲撃を喰らって、聴力がいかれている。
「本当にラッパ」は鳴ったのか・・・。
鳴ったようだと言う者もいるし、鳴っていないと言う者もいる。
グー中隊長は迷うが、死んだ仲間たちのことを思い、最後の抵抗を試みる。
そして、グー中隊長をのぞき、部隊は全滅する。
奇跡的に生き残ったグー中隊長は、人民解放軍の病院で手当てを受ける。
「俺だけが生き残った・・・撤退ラッパはほんとうは鳴ったのではないか・・・俺がみんなを死なせたのではないか」
もう失うものはなにもない。死に場所を求めて、グーは朝鮮戦争に従軍することになる。
その戦闘で若い砲兵リーダーのチャオ・アルドウ(ドン・チャオ)が地雷を踏んでしまったのを、グーは身を挺して救出し、自身は片目を失明する。
ここまでが、この作品の前半部、いわばグーの戦争体験のドラマである。



後半は、全員が戦闘で死んだ部隊について、本来ならば「列士」として名誉を与えられるところが、死守した炭鉱跡が埋められており、部隊は「失踪」扱いになっている。
もちろん、全土で無名戦士の墓がある。
しかし、グーはなんとしてでも、炭鉱跡を発見し、仲間の名誉を称えたいし、きちんと祀ってあげたい。
執念のように、ひとり、炭鉱跡を掘り起こしにかかる。
命を助けて弟分になったチャオは出世もし、グーを支援する。
そして10年がたち、ついに全滅した部隊の記録が発見される・・・。
途中、当時のラッパ兵と会うことになり、撤退のラッパは吹かれなかった、という事実を告げられる。
前線で全滅するのを覚悟の上、リウ部隊長は後方を守るため、いわば片道切符の指令を出したのだ、と。
部隊全滅のあの日から、グーの脳裏には、ラッパの音が鳴り響いて止むことはなかったのだろう。
その事実が判明し、部隊全滅は自分の判断ミスではないことがわかったとしても、もうグーの執念は引き返すところなどどこにもない。
「靖国で会おう!」ではないが、仲間たちの名誉を守らなければ、生き残った自分は天上でかれらに顔向けすることは出来ない。



グーは生まれてすぐ両親と死別している。
靴職人に引き取られたが、幸せな人生を歩んできたわけでもないし、指導員のように学があるわけではない。
数十人を引き連れる中隊長に過ぎないとはいえ、前線では自分がみんなの命を預かっている。
そこでは体を張った、また厳しくもあるが情もあり、仲間を思うリーダーの姿がある。
しかし、戦争に狩り出された何百万人の兵士たちは、結局のところ「駒」である。
「駒」には「駒」としての、意地もあり、覚悟もあり、もしかしたら正義もあっただろう。
人間の歴史は「戦争」の歴史といいかえてもいい。
21世紀に入って10年。
「戦争」はよりシステムになったかもしれないが、どんな戦争にも無名兵士の「前線」がなくなることはない。

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イノセントワールド/天下無賊
王妃の紋章
PROMIS 無極
The Mith神話














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4 コメント

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TBありがとうございました。 (sakurai)
2009-11-01 17:52:19
私もこの監督の作品は、上記の2本で、この作品が3本目でした。
日本でほとんど公開されてこなかったんですよね。
なんでだろう・・と思うことしきりですが、こうやって見ることができて、なにはともあれ、よかったです。
これは本当に力がありました。
もっともっと多くの人に見てもらいたいとも思ったのですが、なかなか難しい題材だったと思います。

あの壮絶な戦いは、同胞同士の戦いだったんだと改めて思い返した次第です。
sakuraiさん (kimion20002000)
2009-11-02 02:27:22
こんにちは。
最初は、日本軍なんかもからんでくる国共内戦かなと思っていたんですが、戦後の第二次で、朝鮮戦争の前なんですね。
戦闘シーンの人間臭い酷い描き方が迫力ありました。
弊記事までTB&コメント有難うございました。 (オカピー)
2010-10-07 20:16:38
死んだ兵隊が四十七人なので「忠臣蔵」を思い出し、山を一人で切り崩そうとするのを観て「恩讐の彼方に」に思い出した僕は思い切り日本人ですね(笑)。

主人公の行動には感銘しましたが、終盤の見せ方に厳しさが足りず、どうも共産党万歳のように見えてしまって鼻白みました。
中国映画の限界でしょうか?
オカピーさん (kimion20002000)
2010-10-08 03:05:28
こんにちは。
中国映画の限界かも知れませんね。
現代史の領域に踏み込めば踏み込むほど、共産党の歴史の描き方の問題になり、そこでは表立ったあるいは自主規制という意味での、「検閲」を意識せざるを得ないところがあるのではないでしょうか。


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