サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

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mini review 08332「私たちの幸せな時間」★★★★★★☆☆☆☆

2008年11月16日 | 座布団シネマ:や・ら・わ行

韓国の人気作家による同名のベストセラー小説を映画化した感涙のラブストーリー。人生に絶望した死刑囚と、屍(しかばね)のように生きる女性が出会うことによって起きる小さな奇跡を温かく見つめる。『デュエリスト』のカン・ドンウォンが頭を刈って囚人役に挑み、相手役の『小さな恋のステップ』のイ・ナヨンとともに最高の演技を披露。限られた時間を精いっぱい生きようとする男と、彼の魂と共鳴する女性の清らかな愛の形が新鮮だ。[もっと詳しく]

悲劇ではあるが、あざとさも陰鬱さも影をひそめている。韓国映画が達したひとつの水準。

毎日のように立ち寄っていたDVDレンタルショップで、まず韓国映画のコーナーを目指すという日々が4年ほど続いた。
記憶では、2002年から2005年ぐらいのことではなかったかと思う。
相方も呆れ果て、「勝手に号泣でもしたら・・・」と冷たいものだった(笑)。
巷では、次々と放映される韓国テレビドラマシリーズが騒がれてはいたが、僕はほとんど劇場作品に絞っていた。
歴史大作、コメディ、社会派、ラブロマンス、ホラー、文芸・・・ジャンルはあらゆるものに及んだ。
まさに、玉石混合を承知の上で、馬鹿馬鹿しくも貴重な数百本のパッケージにつきあったのだ。
頭が痛くなるようなくだらないドラマにつきあいながら、けれども時々のように、優れた作品群につきあたった。
それは、邦画でも、ハリウッドでも、ヨーロッパのミニシアター的映画でも、華流の作品でもなく、まぎれもなく韓国の作品であり、ある時代の貪欲な韓国制作陣の奮闘振りを感じさせるラインアップだった。



このあたりのことに関しては、少し複雑な思いがある。
「ヨン様命」のおばさまたちは僕の周りにもいてそれはとんでもない情熱をかけておっかけをしたりしているのだが、僕は苦笑するしかなかった。
また、テレビドラマのコアファンの人たちは、せいぜい10シリーズぐらいしか、パッケージやテレビを通じて付き合っていない僕に対して、哀れむような眼差しを向けるのである。
一方で、80年代からのアジア映画を仔細に追っている友人たちからは、にわか韓国ドラマファンのように、あしらわれていた。
僕も好きなのだがギドクの作品に入れあげるカルトファンからは、くだらぬお涙頂戴の作品まで見ている僕などは、作品評価も出来ない馬鹿者のように思われていたかもしれない。
だから、このレヴューでは時々は一部作品に関して触れているのだが、その数年間の「韓国映画」との日々のことは、あまり人には話さなかったのだ。



今では、韓国も含めたアジア映画を、だいたい週に1本のペースだから激減したことになる。
とはいえ、別に韓国映画が、自分の中でつまらなくなったわけではない。
たしかにここ数年、韓国映画はかなり以前のエネルギーが減退しているようには思う。
ファンドの連中たちの息切れかもしれないし、政府のコンテンツ制作支援の変更があるのかもしれないし、ハリウッドとの関係かもしれないし、韓国の観客たちが目を肥えて世界の中の韓国映画の評価に当たり前だが徐々にシフトしてきたのかもしれない。
劇場用作品に限れば、日本でDVD化される作品の本数も限られているから、在庫であるものはだいたい見尽くしてしまった、ということが一番大きい理由のような気がする。
だから、最近はDVDレンタルショップで韓国映画のコーナーを覗くことがあり、新作DVDに出会ったりすると、まず監督や役者をチェックするようにしている。
で、8割ぐらいの確立で、だいたいの作品のトーンと水準をそれなりに計る事が出来るようにはなっているような気がしている。



「私たちの幸せな時間」という作品も、そういう流れで手に取ったのである。
監督はソン・ヘソン。
この人は監督2作目の「ラブレター~バイランから~」(01年)がとてもよかった。
浅田次郎の感涙短編の骨格だけを採用したのだが、中国人女性バイラン(セシリア・チャン)と偽装結婚したどうしようもない駄目ヤクザ(チェ・ミンシク)の物語なのだが、男を待ちながら死んでしまったバイランの手紙を読みながらはじめてのように人の痛みを知り、慟哭する男に、泣いてしまった。
次作の「力道山」(04年)は、ソル・ギョングの肉体改造も含めた見事な演技もあり、世界の王を目指しながら日韓の闇に沈んでしまった力道山の描き方が鮮烈だった。



主演は、カン・ドンウォンとイ・ナヨン。
カン・ドンウォンはキム・ハヌルとのコメディ・タッチの「彼女を信じないでください」(03年)、チョ・ハンソンとのイケメンタッグを組んだ「オオカミの誘惑」(04)、「チェオクの剣」の別伝ともいえるハ・ジウォンとの決闘シーンが話題を呼んだ歴史劇「デュエリスト」で、僕に言わせれば仲居正広ににしきのあきらをミックスしたような顔立ちの期待の若手俳優だ。
イ・ナヨンは実力俳優チョー・スンウとの共演で水族館ダイバーを演じた「フー・アー・ユー」((02年)ですっかり魅了された女優さんだ。
脇役陣も、なじみの役者たち。
どうやら、韓国で300万人を動員し、この物語をラブ・ストーリーの範疇に含めるならば、過去の興行記録を更新したヒット作だ。



3人を殺害したということで死刑囚となっているユンス(カン・ドンウォン)。
3度の自殺未遂を繰り返し、自分の居場所がないユジュン(イ・ナヨン)。
一方は親に見捨てられた孤児でありようやく恋人と幸せをつかみかけたのに手術費を得るために昔の仲間とつきあうことになり「殺人」に至ってしまった貧しい孤独な青年。
もう一方は、富裕な一家に育ちながら、母親を憎悪するなかで誰にも心を開くことがなくなった女性。
ユジュンのシスターである伯母の縁で、毎週木曜日の10時から13時まで面会することになるのだが、二人の距離は限りなく遠かった。
ほどなくお互いの「秘密」を打ち明けることによって、立場は違え相手の苦しみを理解し、自分を赦し、不信や自己嫌悪の殻を開きながら、「愛」をみつけていくことになる。
しかし、どこかで予想していたこととはいえ、突然、「死刑執行」の宣告が下される・・・。



韓国のベストセラー女性作家コン・ジョンの原作を基にしている。この作品は、日本では北朝鮮拉致被害者である蓮池薫さんの和訳で新潮社から出版もされている。
実際の韓国では、死刑確定から執行までの期間が6ヶ月以内と定められているに関わらず、自らが1980年の光州事件で死刑判決を受けたことのある1998年からの金大中政権から現在まで実際は死刑は執行されてはいない。
ただし、彼の政権下で上程された「死刑廃止法案」は否決されており、死刑制度そのものがなくなったわけではない。
アムネスティでは、死刑制度は確定から執行まで10年以上経由して実施されていない場合は、事実上の死刑廃止国になったと、見做している。
そういう意味では、韓国も死刑廃止の方向にあるのかもしれないし、先進国に限ってみれば、死刑制度を実際に執行まで実行しているのは、アメリカと日本の二ヶ国だけになったとも指摘されてもいる。



いつものようにクラシック音楽を多用しながら、あまりありえそうにない設定の、多くの人が涙するような、韓国らしい作品ではある。
けれども、あざとさのようなものは感じないし、ほんとうは救われないような結末のお話なのだが、陰鬱な印象は残らない。
これは、ソン・ヘソン監督の資質ともいえるものなのだが、癒しようのない暝い翳を引き摺っている人物像の設定、そこからけれど一本の細い光を導くような倫理性のようなものに、起因しているのかもしれない。
あるいは、自慢の長髪をかなぐり捨てて、アイドル役を脱皮しようとするようなカン・ドンウォンの渾身の演技に引き込まれるのかもしれない。
また、世界に対して敵対的にならざるをえず、弱味を曝け出すことを自ら封印してきた女性を演じるイ・ナヨンの泣き笑いのような表情に、こちらの感情が寄り添うのかもしれない。



ずっと手錠をはめられているユンスの手首の擦り跡が痛々しい。
3回の自殺未遂の傷跡がユジュンの手首には刻み込まれている。
優しい担当看守は、ユンスが自分が磨いて手作りした十字架のペンダントをユジュンに送るときに、規則を破って、ユンスの手錠をいっとき外してあげる。
ユンスとユジュンは照れくさそうにけれどようやくという想いで、手を触れ合う。
ほんの一瞬のことだけど、ユンスとユジュンの誰にも言えず辛かった人生が、自分のなかの絶望や憎悪が氷解していく。
僕たち観客は、結末の悲劇はわかっているくせに、その一瞬の温かさを永遠に続くかのように信じたくなる。














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12 コメント

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TBありがとうございました。 (sakurai)
2008-11-18 08:09:33
kimionさんの、カミングアウト!
そうでしたか。
韓国映画は、見てくると、見なくても大体分かってくるという特徴がありますね。
前は私も手当たり次第見てた感がありますが、最近は適当に取捨選択してます。その選択はほぼ正解みたいです。
この映画は、きちんと手を抜かないで、まじめな丁寧な作りが好感を持ちました。
監督の性格でしょうね。
こんにちは♪ (ミチ)
2008-11-18 08:27:28
TBありがとうございました。
こちらからのTBが入らないようでスミマセン。

韓国映画とのつきあいって韓流ブーム以来とても難しいです。
自分の中では一貫した物(?)があるのですが、対外的には“韓流ブームに乗ったオバサン”に見えてしまうわけで。
ブームの功罪ですね。

「私たちの幸せな時間」も良かったのですが、私は最近見た「シークレット・サンシャイン」がとても良かったです。
sakuraiさん (kimion20002000)
2008-11-18 12:20:22
こんにちは。
しっかりした監督さんですね。
カメラワークもよかったと思います。
ミチさん (kimion20002000)
2008-11-18 12:21:54
こんにちは。
整形しているかどうかわかりませんが(笑)、演技も含めて女優さんの質が高いなという印象を持ちます。
TBありがとうございます (Lapis*)
2008-11-18 14:25:11
確かに韓国らしい映画だけど、深みがあって心に響く作品でしたね。
悲劇が待っているけど、それでも幸せを感じる時間に見せるカン・ドンウォンの微笑みが印象的です。

スミマセン、TB入りませんでした(泣)
Lapisさん (kimion20002000)
2008-11-18 14:55:51
こんにちは。
カン・ドンウォンは、今作で演技の幅が拡がったと思いますね。
kimionさん こんにちは♪ (なぎさ)
2008-11-19 15:18:43
私もkimionさんが挙げられたこの監督さんの前2作は好きな作品です!
今作も久々に韓国映画で良いと感じたものになりました。
実は先日『宿命』を劇場で観たのですが・・・さっぱりでした。
なぎささん (kimion20002000)
2008-11-19 15:22:42
こんにちは。
あたりはずれが激しいですから、まあ良かったときは、お互いに素直に喜びたいものですね。
こんばんわ (maru♪)
2008-11-21 00:57:09
TBありがとうございました。
こちらからのTBはエラーになってしまいました(涙)
コメントで失礼させていだたきます。

韓国映画って韓流ブームで"純愛"というジャンルになってしまいましたね。
それを楽しんでいる方がたくさんいらっしゃるので、
それはそれで全然いいことだと思うのですが、
映画ファンとしてはこういう作品をもっと見たいし、
見て欲しい気がします。
maru♪さん (kimion20002000)
2008-11-21 01:50:53
こんにちは。
そうですね、「純愛」ってほんとうは、とっても懐の深い概念なんですけどね。

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