サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

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mini review 11542「悪魔を見た」★★★★★★★☆☆☆

2011年10月20日 | 座布団シネマ:あ行

『甘い人生』『グッド・バッド・ウィアード』などの韓国の異才、キム・ジウン監督を務め、人間の内なる悪魔を凄惨(せいさん)に描いたサイコ・サスペンス。婚約者を殺された男が、血も涙もない卑劣なシリアル・キラーを執拗(しつよう)に追い詰める様子を映し出す。『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』『G.I.ジョー』などで国際的に活躍するイ・ビョンホンと『オールド・ボーイ』の名優チェ・ミンシクが熱演し、息の詰まるような攻防を展開。善悪を超越した人間の執念と、驚がくのラストシーンに背筋が凍る。[もっと詳しく]

世紀の善悪対決は、チェ・ミンシクの圧勝!

イ・ビョンホンを見ていると、木村拓也と重なるような資質を感じる。
日韓の当代一のスター待遇なのだが、そしてふたりとも演技に関しては神経質なほど入れ込んだりするのだが、なんか見ていてこそばゆくなってしまうのだ。
最近の15億円かけて製作し視聴率的には大ヒットとなった『IRISアイリス』やその劇場版を見ながら、あの健康そうな歯を大きく見せて甘ったるい笑顔を見せたり、陰謀に巻き込まれて不運を呪うような悲しみの顔を見せても、どこか浮いて感じるのだ。
『バンジージャンプする』(01年)や『夏物語』(06年)や『甘い人生』(05年)のようなちょっと癖のあるラブロマンスならまだいいのだが、キムチ・ウェスタンの『グッド・バッド・ウィアード』(08年)や、キムタクと共演した『アイ・カム・ウッズ・ザ・レイン』(08年)や、前衛手法の『美しい夜、残酷な朝』(04年)などを見ていると、こちらの方が落ち着かなくなってしまうのだ。
どんな役でも、自意識過剰で、カメラ目線を気にしている。
これは、いつも木村拓也の演技に脱力してしまうのとよく似ている気がするのだ。



一方で、『悪魔を見た』でイ・ビョンホンと「善悪対決」をしたチェ・ミンシクを見ていると、役所広司を思い浮かべてしまう。
温かいお父さん役から、飄々としたボケ役から、狂気の世界にはまり込むようなシリアスな役どころまで、実に安心してみることが出来る。
安心は出来るのだが、それは軽くこなしているということではなく、怖ろしいほどその役に入り込んでいるということだ。
チェ・ミンシクでは僕はうらぶれたやくざ役で最後は自分を信じて死んでいった哀れな女を思って慟哭する『パイラン』(01年)の演技が大好きなのだが、もちろん世間的には『シュリ』(99年)のテロリスト役や、『オールド・ボーイ』(03年)や『親切なクムジャさん』の
でみせた「憎まれ役」の演技で絶賛されている。
最近では『ヒマラヤ、風がとどまる所』(10年)といった疲れた中年男の奇妙な幻影譚でも、不思議な味わいを出していた。
ちょっと役所広司と、共演してくれたら楽しいだろうな、と思う。



もちろん、この『悪魔を見た』のイ・ビョンホンとチェ・ミンシクの演技対決で言えば、圧倒的にチェ・ミンシクの勝ちというのが僕の評価である。
美しい妊娠中のジュヨンが、理不尽にもギョンチョル(チェ・ミンシク)に惨殺される。
婚約者である国家情報室捜査官のスヒョン(イ・ビョンホン)は、復讐を誓い法廷ではなくジュヨンの無念を倍にして返すという執念で、じわりじわりと弄ぶように復讐を繰り返すのだが・・・。
「怪物と闘う者は自らが怪物と化さぬよう心せよ!お前が深淵を覗き込む時、深淵もまたお前を覗き込んでいるのだ」という有名なニーチェの「善悪の彼岸」の箴言を引用しながら、もう善と悪の境界が崩壊し、それぞれがコインの裏表になるような異常な心理関係が現出する。
お互いの存在がお互いの行動をエスカレートさせていく。
そしてこの勝負は、どちらが勝ったといえるのだろうか。
最後は、ギョンチョルの身内も巻き込みながら、死に至らしめることになるのだからスヒョンが復讐劇を果たしたようにもとれるかもしれないが、ギョンチョルの残虐の暴走は虚無の果てのようでもあり、その「表現」を全うさせたと言う意味では、ここでもギョンチョルの高笑いが聞こえてきそうなところがある。



韓国の映画のことにこの10年ぐらいの特徴のひとつは、「復讐」物語のとてもレベルの高い結実がある。
そして、そこに絡んでくるのは、稀代の犯罪者であり、変質者である。
386世代のパク・チャヌク監督の『復讐者に憐れみを」(02年)、『オールド・ボーイ』(03年)、『親切なクムジャさん』(06年)の復讐三部作や、ポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』(03年)、『母なる証明』(09年)や、イ・ホンジン監督の『チェイサー』(08年)など重量級の作品が相次いでいる。
これは欧米映画、華流映画、邦画などをすでにはるかに凌駕している。
ここにキム・ギドク監督の一連の問題作やヤン・イクチェン監督の自らも出演した『息も出来ない』などを加えてもいいし、伝統の韓国猟奇ホラーミステリーを何作か加えてもよい。



このあたり、もちろん脚本が主なのだが、役者の狂気の演技や、スタッフの凝り方もたとえば邦画では比較しうるものはほとんどない。
『悪魔を見た』のチェ・ミンシクの無慈悲な鉈の振り下ろし方など、ちょっとそこまでやるか、というところがある。
日本映画で言えば、たとえば横溝正史原作の「猟奇殺人ミステリー」などどこまでも血なまぐさくできそうなものなのだが、どこかですーっと様式美学の方に収斂させてしまうのだ。
もちろん、日本人の「好み」ということがあるとしても。
そして血生臭い迫力映像は、どちらかといえば実録ものかオカルトのブラックユーモアのようになってしまうのである。



それにしても、チェ・ミンシクである。
貧しい演劇青年であった彼は、『シュリ』まではそれほど着目されてはいない。
けれど、ずっとずっと苦しい役者時代に、ある確信を育てていたのだろう。
チェ・ミンシクのサイトにとてもいい彼のコメントが綴られている。


“私は命をかけて俳優をする人です。ソル・ギョングとソン・ガンホとも毎度念をおします。
年を取っても一生懸命演技しようと。この前にTVで見ましたが、ある弁護士が趣味で俳優をしているというんです。
率直に一発蹴飛ばしたかったです。俳優はとりつかれた人のようにしてこそ良い演技ができます。
他人の人生を表現すると言うのは、本当に手ごわいです。それでカメラの前に立つと心細いです。
悽絶な自分との競争ですよ。常に念をおします。演技が嫌になれば、人々がこれ以上必要としないなら止めようと。中国料理屋かなにかをしようかと。妻にも常に言ってあります。
後でカウンターに座る覚悟しておきなさいと…”

kimion20002000の関連レヴュー

バンジージャンプする
夏物語
甘い人生
復讐者に憐れみを
親切なクムジャさん
チェイサー
母なる証明
息も出来ない



 



 

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2 コメント

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鬼気迫る (sakurai)
2011-10-31 13:40:12
って言うのは、こういうのを言うんだ!と、身をもって表してるのが、ミンシクですかねえ。
なんでしょう、スタートラインからして違う!と、つくづく思います。
ビョンホンに関しては、ちょっと違う感じ方をしてます。自意識過剰はそうかもですが、それを裏打ちするだけのものは、彼は持ってると思いますわ。
好きではないのですが、彼の演技には、ひきつけられます。
sakuraiさん (kimion20002000)
2011-11-01 00:40:19
こんにちは。
昔、NHKの番組で、ビョンホンをインタヴューしたり追っかけたりした番組がありました。
演技にかける集中ははんぱじゃないですね。
で、この人は役者馬鹿の世界に行くよりは、むしろプロデューサー、監督に行く人じゃないかと、思った記憶があります。
.

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