サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

広告

※このエリアは、60日間投稿が無い場合に表示されます。記事を投稿すると、表示されなくなります。

mini review 05097「海を飛ぶ夢」★★★★★★★★☆☆

2005年10月15日 | 座布団シネマ:あ行

実在の人物ラモン・サンペドロの手記「レターズ・フロム・ヘル」を元に、『アザーズ』のアレハンドロ・アメナーバル監督が映画化した作品。全身麻痺の障害を負った主人公に、『夜になるまえに』のハビエル・バルデムが特殊メイクでリアルに演じる。ゴールデン・グローブ賞最優秀外国語映画賞に輝いた壮大な心の旅路を描いた真実のドラマ。[もっと詳しく]

「生きる」ことは義務ではなく、選べること。

華流、韓流の嵐の中で、僕は西班牙流です(笑)。
なんせ、生涯5000本近く、映画館やねっころがったりしながら、観たと思うんですけど、そのベスト1が「
ミツバチのささやき」(1973・ビクトル・エリセ監督)ですからね。
「なんだ、
ハッスルカンフーを激賞しておきながら、結局、アート派か。ケッ!」なんていわれそうですが、好きなものはしょうがないです。ハイ。

アメナードル監督。96年の「
次に私が殺される」でゴヤ賞そうなめ。97年「オープンユアアイズ」01年「アザーズ」ですからね。なのに、1972年生まれ。才能にクラクラします。

今回の作品では、製作総指揮、脚本、監督、音楽、編集をこなしています。
特に音楽はいい。今回も、「夢の飛翔」のシーンでは、プッチーニを使い、叙情的なシーンでは、ケルト風のバグパイプを上手に使っている。
蝶の舌」や「パズラー」の音楽も友達づきあいでやったとのこと、解説ではじめて知りましたが、見事なものです。

で、「海を飛ぶ夢」。 海が好きで世界を巡り、数人の女性とも奔放に恋をしていた青年が、25歳の夏、岸壁からのダイブで事故にあい、その後の四半世紀を四肢麻痺で、寝たきり生活。そして、尊厳死を求めることになる。

実在のラモン・サンペドロの手記「LETTERS FROM HELL」の作品から、要素を抽出して、かなり事実に忠実でありながら、映画的手法を用いて、感動の作品を結実させた。

主人公を演じるハビエル・バルディ。スペインでは、アントニオ・バンデラスに次ぐセックス・シンボルとされる見事な体格の俳優さんだが、69年生まれだから、実に20歳ほど違うしかも四肢麻痺の主人公を演じなければならない。
その役づくりが見事である。
ラモンの元気だった時代のアルバムで、青年が別人のスチールかと錯覚しかかったが、よくよく見るとこの役者であった。

ラモンを長く看病する一家。
一家の稼ぎに追われながら弟の尊厳死願望を罵倒する兄ホセ。
母親がわりに献身的に看護を続けるなかでいつしかラモンに共存化してしまう兄嫁のマヌエラ。
黙ってラモンを見守る年老いた父ホアキン。
いまどきの生意気な青年だがなぜかラモンにべったりな甥っ子ハビ。
この家は、いいもわるいも、3時間ごとに姿勢を変えなければいけない病床のラモン、事故後哲学に目覚め自作の口でくわえて文字を書く道具でもって詩をつむぐラモンを中心に、回っている。
キリスト教世界では自殺は悪であり、まして四肢麻痺のラモンは誰かの力を借りなければ「尊厳死」も選択できない。
そして、この家族の世界に、支援者が集まることになるが、この作品では、ここでは3人の女性を登場させている。

尊厳死を支援する団体のジュネ。ラモンのために走り回るが、困難な状況の中でも悲観的にならず、ユーモアを絶やさない快活な女性。
そのジュネの依頼でラモンを訪ね、法的なバックアップをしようとはかるフリア。自らも脳血管性認知症で障害が足に来ており、脳に記憶障害の症状が出てくるのを怖れている。
TVでラモンを知り、子供を連れて励ましに通うロサ。「生きて」という訴えを、逆にロサの傲慢だと批判するラモン。
いずれも、素晴らしい女性たちだ。

とくに、フリア役のベレン・ルエダ。40歳ぐらいの人だが、映画は初出演。ラモンと自らの認知症への不安が同化し、一緒に死ぬことをも決意する。知性と慈悲深さと弱さと、すべてを計算した演技。いっぺんに好きになりました。
ロサ役のロラ・ドゥエニャは、ペドロ・アルモドバル監督の「
トーク・トゥ・ハー」やラモン・サルサール監督の「靴に恋して」といった慧作に登場している。

同じく「尊厳死」を扱った映画で、僕も好きな作品に「
みなさん、さようなら」がある。
この余命いくばくもない親父のため、息子は友人らを呼んで、別荘で、最後の別れ(自殺死)を見守ってあげるのだ。素晴らしい映画だった。
この主人公には、長年の職業生活と家族があった。だから、人生の最後に、その人間関係に象徴される「思い出」をもって、そして、不仲であった息子とも和解し、周囲の協力を得て、死に向かっていく。

ラモンは妻も子供もいない。あるのは、25歳までの自由な身体と精神の記憶。愛した女たちの面影。そして、なにより好きな海の匂い。
だから、詩を書き明晰さを保持することと「夢」のなかで、自由に羽ばたくことだけが、彼を現世につなぎとめているだけなのだ。
だから、<死>の立会人は、たったひとりでいいわけだ。

「こころの自由」こそが大切であり、「生きる」ことは義務ではなく、選べることだ、とラモンはいう。
そのことを、「実話」の映画化という制約の中で、よくぞ、ここまで叙情的かつ明晰に作品化できたものだと驚く。
スタッフとキャストに心から拍手を贈りたい。


コメント (84)   この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 女人禁制破りの日 | トップ | 国際オゾン層保護デー »
最新の画像もっと見る

84 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
はじめまして (peaceplusocean)
2005-10-15 20:33:59
TBありがとうございます。

映画について、これほど詳細にコメントできるなんてすごいですね。

みなさん、さようなら

私もみたいと思いました。

私も映画好きなので、また教えて欲しいです。
TBありがとうございます (ゴブリン)
2005-10-15 20:41:57
 はじめまして。銀の森に住むゴブリンです。

 5000本とはすごいですね。僕がそこまで行くにはまだ10数年かかりそうです。

 スペイン映画にとても詳しいですね。僕は世界中の映画を観るのがモットーですので、特にスペイン映画に傾倒しているわけではありませんが、この6、7年の充実ぶりは注目に値すると思います。恐らく観ていないもので優れたものがまだまだたくさんあることでしょう。

 面白い映画をたくさんご覧になっているようですので、時々お邪魔して勉強させていただきます。

 これからもどうぞよろしく。

 
コメントと、 (sean)
2005-10-15 21:28:17
TBありがとうございました~。

読んでいてとても感慨深かったです。

わたしは「みなさん、さようなら」は

ちょっとダメだったんですが、

これは好きですね~。何でだろう。



この作品には、いろいろな捉え方があるようですが

私もこれを映像化したことが凄いと思います。
コメントありがとう。 (kimion20002000)
2005-10-16 02:43:44
>peaceplusoseanさん



ちょっと、今回はきばってしまいましたが(笑)、普段は、あっさりしたものです。

今後とも、よろしく。



>ゴブリンさん



小学校のときから只で映画を観れるように、「映画クラブ」を立ち上げるという悪知恵がありましたから(笑)

だけど、忘れっぽくて。

最近は、インターネット検索ができて、公式サイトがありますから、ちょっと、知ったかぶりができるだけですよ。



>seanさん



そうですか。

両方の映画の主人公の状況はかなり違いますが、両方ともほぼ、自分と同年代なんですね。

だから、切実な面もあると思います。

Unknown (yoko)
2005-10-16 06:49:23
トラックバックありがとうございました。そうあのラモンをやった俳優さんは30代とか。すばらしい演技力です。フレアもすごく素敵でした。同じ運命だったからこそ共感できたのか・・・死を選んだラモン、生きることを選んだファレア。生きること、尊厳死を深く考えさせられる映画でした。夢の中だけではラモンは自由に空を飛べた!あのシーンは好き。音楽も良くて 静かに時間が流れる感じも。。深く心の残る作品でした。。



私からもトラックバックしました!
空! (kimion20002000)
2005-10-16 10:20:00
>yokoさん



なんか、その前のシーンで、子供が「手が動いているよ」というシーン。で、動けるようになたのか、と錯覚するような動き方でした。

ヘリコプターでの撮影と音楽が計算されていて、観ている自分が空を飛んでいるようなシーンでしたね。
ほんと (yoko)
2005-10-16 13:01:31
空を一緒に飛んでる感じでしたよね。私も 子供が手が動いたって言ってたし 突然立って ベッドを動かし初めて・・・えええ~ ホントは歩けるの?!って思いました。

「みなさん さようなら」これはちょっと気になる作品だったので、今度見てみますね。。
Unknown (チバ)
2005-10-16 15:41:46
はじめまして。良い映画観てますね。参考になります。この映画の監督は33歳だそうで、それにも驚きました。また何年かたって見ると、また違った感情が沸き起こりそうです。
TBありがとうございます (aki)
2005-10-16 21:02:08
フランス映画、スペイン映画が好きで

今はちょっと映画館から遠のいてますが

以前は結構見ていました。



見たいと思っていて見れていないのが、

ナショナル7

です。

空を飛ぶ夢の主人公同様、ナショナル7の主人公も

障害を持つ人だったと思うのですが

あらすじを知っているので、とても見たいと思って

幾ら探してもレンタルビデオ店で見つけることができません。

kimionさんは見られましたか?
Unknown (イロハモ)
2005-10-16 21:23:42
はじめまして。トラックバックありがとうございました。

飯田橋のギンレイホールで出会った映画です。

そこは良い映画にめぐりあわせてくれるところです。

コメントを投稿

座布団シネマ:あ行」カテゴリの最新記事