サーカスな日々

サーカスが好きだ。舞台もそうだが、楽屋裏の真剣な喧騒が好きだ。日常もまたサーカスでありその楽屋裏もまことに興味深い。

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mini review 10436「ラブリーボーン」★★★★★★★★☆☆

2010年01月31日 | 座布団シネマ:や・ら・わ行

14歳で殺されてしまった少女が、残された家族や友人たちが立ち直っていく姿を天国から見守り続けるファンタジックな感動ドラマ。全世界30か国以上で1,000万部以上を売り上げた原作を、スティーヴン・スピルバーグが製作総指揮、『ロード・オブ・ザ・リング』のピーター・ジャクソンが監督という豪華布陣で映像化。主人公の少女役は、『つぐない』のシアーシャ・ローナン。前代未聞の物語設定と、少女が起こす奇跡に注目。[もっと詳しく]

シアーシャ・ローナンの少女の透明な双眸に、心地よく吸い込まれそうになる。

イアン・マキューアンの緻密に重層化された見事な小説を映画化したのが『つぐない』だが、キーラ・ナイトレイの妹を演じて、その透明な前思春期の震えるような危うさを見事に演じたのが、シアーシャ・ローナンだった。
『ラブリーボーン』は、30カ国で1000万部という驚異のベストセラーとなったアリス・シーボルトの小説を原作としている。
そして、『ロード・オブ・ザ・リング三部作』や『キング・コング』(05年)で、世界最高峰の監督として評価を高めたピーター・ジャクソンが監督を受け持っている。
ヒットの条件は揃っているが、それにしてもやはりこの映画の魅力の大半は、14歳の少女である主人公を演じたシアーシャ・ローナンの、たぶんまさにこの時でしか提出できないような、純化された清冽でみずみずしい「少女」像にあるといってもいい。
僕の中では、古い話を持ち出して恐縮だが、『ロミオとジュリエット』(68年)のオリビア・ハッセイ(当時17歳)や、『プリティ・ベビー』(68年)のブルック・シールズ(当時13歳)や、『リトル・ロマンス』(79年)のダイアン・レイン(当時14歳)の登場と比較しうるぐらいのものである。
『つぐない』の舞台設定は、第一次世界大戦前のヨーロッパであり、『ラブリー・ボーン』の舞台設定は1973年である。2010年現在のニューヨークあたりの現代っ子に、シアーシャ・ローナンの現在を持ってきたらどうなるか、それはそれで想像しにくいところもあるのだが、どこか一昔前の聡明で夢見がちで儚げな少女という設定では、文句がないところだ。



ピーター・ジャクソン監督には、『乙女の祈り』(94年)という多感なふたりの女子高校生の夢に溺れるようになってしまうミステリアスな作品があり、少女を描くのがうまい人だな、という印象を持っていた。
そして、『ロード・オブ・ザ・リング』で神話物語の構造を半ばダークファンタジーとして描き出した彼が、現代の中産階級の幸せそうな小市民の家庭に思わず訪れる「少女連続殺人」という暗黒の裂け目にテーマを移したのであるが、これとて実際にはスリラーサスペンスを描きたかったわけではなく、生者と死者の間の薄膜で仕切られたようなあわいのような境界線を描くことにより、「神話」的なあるいは「幻想」譚的なイメージを重ねあわそうとしている。
そして、ここでもシアーシャ・ローマンの吸い込まれるような淡い瞳と、無垢な微笑から与えられるものは、聖なる女神像のような、神秘性なのである。



スージー・サーモン(シアーシャ・ローマン)は5人家族。
ボトルシップをつくるのが趣味の優しい小市民の父であるジャック(マーク・ウォールバーグ)、スージーのために手編みの帽子をつくってくれる優しい母のアビゲイル(レイチェル・ワイズ)、妹のリンジーに弟のバックリーだ。
近くには、ひっきりなしにお酒と煙草を欠かさないヒッピー体験者のようなリンおばあちゃん(ス-ザン・サランドン)もいるが、その本音の対応がスージーには嬉しくもある。
恋に焦がれる年頃の少女であるスージーは、ちょっと年上の「ムーア人」のような雰囲気のレイにのぼせあがる。
そのレイからも好意を表明され幸せで有頂天になっているその日に、帰り道トウモロコシ畑で隣人のミスター・ハーヴェイ(スタンリー・トゥイッチ)に呼び止められることになるのだが・・・。



ハーヴェイはよき隣人を装ってはいるが、病的な少女連続殺人鬼である。
薔薇栽培とドールハウスづくりが趣味のこの男は、サーモン家のスージーに欲望を抱くことになる。
僕たち観客は、成り行きがわかっていながら、男の巧みな誘導と少女の持つ当たり前の好奇心が交錯するのをハラハラドキドキして見守ることになる。
「駄目だよ、付いていっちゃ!」
「ほら、なんか怪しげだろ、隙を見て、いまだ、逃げ出すんだ!」
そんなことを思っても無駄だと知りながら、この少女が殺されるところは観たくない・・・。
もちろん、陰惨な悲劇ではあるのだが、そんなホラーサスペンスを原作者も監督も提示したいわけではない。
ここから「殺された」スージーは、生者と死者、此岸と彼岸つまり現実的世界と「天国」(それはなんと呼ぼうといいのだが)との境を彷徨することになるのである。
最初はスージーには自分が「死」の世界に足を踏み入れたことがわからない。
恐怖の体験からひたすら逃走しようとするのだが、そこは誰もいない街であり、草原であり、家である。
フラッシュバックのように、過去の映像が浮かんでは消え、大地を踏みしめようとすれば足下は崩れ、レイや家族やに近づこうとしても、相手はこちらに気づかない。
脳内に浮かんだ記憶の遊泳でもあろうし、リアル世界から皮膜をひとつ挟んだパラレルワールドで存在しているようでもある。



だんだんスージーにも、もはや自分はこの世界には存在しないということが了解できる。
しかし、あまりにも突如の「死」に対して、「家族と一緒にいたい、大切な人にもう一度会いたい、私を殺した犯人のことを伝えたい」という想いが強く残るスージーは、踏ん切りをつけて「天国」に行くことが出来ない。
「現実世界」に触れることが出来ないスージーは、「気配」でもって自分の存在を伝えようとする。
純朴な弟のバックリーや、犯人探しで家庭も解体しかけているジャックや、もともとあちらの世界を感じる能力を持った同級生のルースには、スージーが「存在」して、なにかを伝えようとしていることがわかってくる。
ここから先は、凡俗な映画であれば、単なるオカルトミステリーのお話に転化するところである。
しかしピーター・ジャクソン監督は、ここでよく踏ん張っている。
象徴的なイコンを繰り返し登場させながら、夢の世界の記述にも似た境界線上の世界をかろうじて繋げとめている。



現実とうつつ、現世と黄泉、此岸と彼岸、地上と天国、どう読みかえてもいいのだが、殺人鬼のミスター・ハーヴェイを追い詰めていくサスペンス劇に、あちら側のスージーが微妙に加担していくことになる。
そしてそれはオカルトというよりは、どこかトポロジー的な位相・次元の歪みや結合のように思えるような比喩をとっている。
映画の冒頭のすべてを飲み込むような廃品投棄の底なしの大きな穴と、映画のラストに近く証拠隠滅をはかるミスター・ハーヴェイが死骸の入った金庫をその大きな穴に落とそうとする場面もそうだ。
その穴はブラックホールのようにすべてを呑み尽くし、そしてまたホワイトホールのようにすべてを吐き出すことになる。
そんなトポロジー的な行方をわかっているかのように、スージーは同級生のルースの体を借りて、レイに再会することになる。
もうそこでは悲劇の少女ではない。
遣り残していた初めてのキスを、14歳の少女は本当に嬉しそうに、体験するのである。
僕たち観客は、どこかで異界の存在を、恐怖ではなく癒しのように感じ取りたくもなるのである。

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スタンリー・トゥッチ (mezzotint)
2010-02-01 22:37:09
コメントありがとうございます。
温和なイメージがあるだけに、こういう役に
挑むのはかなり悩んだようです。
でもさすが上手かったですよね。
やはり演技力のある方なので、リアルでした。
ブライアンイーノ (とらちゃん)
2010-02-01 22:55:30
コメントありがとうございます。
わても、ブライアンイーノと聞くと懐かしい日々が思い出されます。
この映画の時代設定が、シアーシャ・ローナンにぴったりとしていましたね。
mezzotintさん (kimion20002000)
2010-02-01 23:15:58
こんにちは。
いつも悪役の人なら、そのキャラになれているんでしょうけどね。彼は、違いますからね。
とらちゃんさん (kimion20002000)
2010-02-01 23:17:53
こんにちは。

通常、こういう映画の場合は、ファンタジー色を強調しても、サスペンス色を強調しても、サウンドで盛り上げすぎなんですね。
でも、この作品のサウンドはとても抑制された使い方をされていた点が、良かったと思いますね。
イーノ (ともや)
2010-02-02 00:27:35
こんばんは、kimion20002000さん♪
本当、この作品はもっとサスペンスにももっと感動作にもできたんだろうけど、監督が踏みとどまっている感じが随所に散らばっていましたね。
そういう展開にならなかったことを不満に思っている方も多いみたいですが、ともやはこの雰囲気すごい好きです♪
ブライアン・イーノの音楽の力も大きいですよね♪
こんばんは (ノラネコ)
2010-02-02 00:52:52
面白かったですが、微妙なひっかかりの多い映画でした。
PJもこの原作には苦闘したのだと思います。
個人的には、売り物の天国の幻想シーンが少々余計に感じてしまいました。
あれが目立ちすぎて、他の印象が薄れてしまいました。
ともやさん (kimion20002000)
2010-02-02 01:05:35
こんにちは。

映画にはしにくい原作だったと思いますね。
監督がPJじゃなかったら、もっと非難囂々かも(笑)


のらねこさん (kimion20002000)
2010-02-02 01:07:03
こんにちは。

そうなると、サスペンスホラー色が強くなってしまうかもしれませんね。
逆に、もっと、天国のシーンを中心にという観客もいるかもしれませんしね。
こんばんは☆ (トラヴィス)
2010-02-02 01:12:57
シアーシャ・ローナンにはホント吸い込まれそうになりましたね☆
スタンリー・トゥッチは怖かったけど上手かったです。
原作読まないとなんかなんとも言えなさそうな映画だと感じたので、原作読んでみようかなぁと思います☆

ピーター・ジャクソンの他の映画も観てみようと思って、さまよう魂たちを借りてきてみました星
トラヴィスさん (kimion20002000)
2010-02-02 09:31:25
こんにちは。
あの青い瞳は、魅力的ですね。
カラーコンタクトとかCG処理じゃないでしょうけど(笑)

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