気まぐれ翻訳帖

ネットでみつけた興味深い文章を翻訳、紹介します。内容はメディア、ジャーナリズム、政治、経済、ユーモアエッセイなど。

スノーデン氏の人権団体に向けた声明

2013年07月26日 | メディア、ジャーナリズム

またもや予定を変更してお届けします。
エドワード・スノーデン氏が7月12日に人権擁護団体に向けておこなった声明の全文です。
この文章の存在自体に気づくのが遅くて、忸怩たる思いですが、遅くても訳があった方がましだろうと考え、アップします。


初出は本家ウィキリークスのサイトですが、私は定期的にチェックしているオンライン・マガジンの『Znet(Zネット誌)』で知りました。そのサイトはこちら↓
http://www.zcommunications.org/statement-by-edward-snowden-to-human-rights-groups-by-edward-snowden

(掲載期日は7月14日でした)


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Statement By Edward Snowden To Human Rights Groups
エドワード・スノーデンの人権擁護団体に向けての声明

By Edward Snowden
エドワード・スノーデン


出典: ウィキリークス

2013年7月14日

エドワード・スノーデンが、モスクワのシェレメーチエヴォ国際空港にて、人権擁護団体に向けて声明を発表

エドワード・ジョセフ・スノーデンは、本日7月12日金曜日、モスクワ時間の午後5時、シェレメーチエヴォ国際空港において、人権擁護を謳う団体および個人に向けて、声明を発表した。会見の時間は45分間であった。臨席した人権擁護団体はアムネスティー・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチなどで、これらの団体は声明発表後にスノーデン氏に質問する機会も与えられた。その際に、ヒューマン・ライツ・ウォッチの代表者はスノーデン氏にこう語った。自分はこの空港に来る途中、駐ロシア米国大使から電話を受けた。スノーデン氏に伝えてほしいと言う。米国政府は同氏を内部告発者とは認めない、同氏は米国の法に違反している、と。
これによって、米国政府がスノーデン氏を徹底的に追及しようとしていること、したがって、同氏が亡命を求める権利は有効であるべきことがいよいよ明らかになった。声明発表の場では、スノーデン氏の左にサラ・ハリスン女史-----この件に関しウィキリークスから派遣された法律アドバイザー-----が座り、右側には通訳が席を占めた。


エドワード・ジョセフ・スノーデン氏の声明(2013年7月12日金曜日、モスクワ時間午後5時)の書き起こし
(本書き起こし原稿は公式発表用に訂正済み)


はじめまして。エドワード・スノーデンと申します。ほんの一月ほど前までは、私には家族がいて、天国のような家庭生活を送り、満ち足りた毎日を過ごしていました。そのうえ、私には令状などなしに皆さんの電話やメールなどを捜索し、対象を特定し、内容を知る力が与えられていました。いかなる人物であろうと、いつでも、です。これは、人々の運命を変えることのできる力です。

これはまた、法にはなはだしく反するものです。わが米国の憲法の修正第4条と第5条、世界人権宣言の第12条、その他多くの法令と条約が、このような大規模で広範な監視システムを禁じています。合衆国憲法自体がかかるプログラムを違法とみなしているにもかかわらず、現政権は、秘密法廷の決定によって違法行為でも正当化され得ると主張しています。この秘密法廷は国民が覗くことができません。秘密法廷による決定は、司法のもっとも基本的な概念、すなわち、「司法のなすことは見えなければならない」とする考え方をあからさまに腐食するものです。不道徳なおこないは、秘密の裁定を通したからといって道徳的なものに変化することはありません。

私は、1945年にニュルンベルクにおいて宣言された原則を信じています。
「個人は、法令遵守という国民の義務を超越した人類普遍の義務を有している。したがって、個々の市民は、平和と人道に対する犯罪が生じることを防ぐために、ときに国内法にそむく責務を持つ」

そういうわけで、私は自分が正しいと信じることをおこない、この不当な行為を是正しようと試みました。私は自分のふところを豊かにしようとはしませんでした。米国の極秘情報を売ろうとはしませんでした。自分の身の安全を図るために外国政府と手を結んだりはしませんでした。代わりに私がおこなったのは、自分の知っていることを一般市民に知らせることでした-----私たち全員に影響をおよぼす事柄が、明るい光の下で堂々と議論できるように。そして、私は世界の人々に正義がおこなわれることをうったえました。

私の倫理的決断-----私たち全員にかかわりのあるこのスパイ行為を暴露すること-----は、大きな代価をともないました。けれども、それは正しい行為であり、私はなにも後悔していません。

この事実を暴露して以来、米国政府とその諜報機関は私を見せしめにしようと図っています。私と同じように今後声を上げるかもしれない人間全員に対して戒めとなるように、です。私はパスポートを無効にされ、無国籍状態におちいっています。政治的な意見を表明したために追及されています。米国政府は私の名前をテロリストと同様に搭乗拒否リストに加えました。また、法の枠組みを逸脱した形で、香港に対して私の引き渡しを要求しました。これは、国際法に属するノン・ルフールマン原則に明確に違反するものです。さらに、米国政府は、私の人権と国連の亡命制度を擁護しようとする国に対し、制裁措置を示唆して脅しました。前代未聞の挙にさえうったえました。私が搭乗していないか確認するために、軍事的同盟関係にある国に命じて、南米の大統領を乗せた航空機を緊急着陸させたのです。これらの手段の強硬化は、南米諸国の独立国家としての地位に対する脅威であるだけでなく、すべての人間、すべての国が共有する基本的な権利に対する脅威です。迫害を逃れ自由に生活する権利、亡命を求め、受け入れられる権利に対する脅威です。

けれども、このような歴史的にも度外れた強硬さに接してさえ、なお世界のさまざまな国が支援と亡命受入れを申し出てくれました。これらの国々-----すなわち、ロシア、ベネズエラ、ボリビア、ニカラグア、エクアドル-----に対して、私は感謝と敬意を表します。力の弱い国ではなく大国が犯した人権の侵害に対して、まっ先に立ち上がってくれたのですから。これらの国々は、脅しに直面しても自分たちの原則を放棄することを拒んで世界の人々の敬意を勝ち取りました。これらの国々をひとつひとつまわって、その国民と指導者の方々に直接感謝の言葉を伝えたい、そう思っています。

これまで私に差し出された支援あるいは亡命の申し出、そして、今後差し出されるかもしれないそれらについて、私はすべて正式に受け入れることを本日ここにはっきりと表明します。たとえば、ベネズエラのマドゥロ大統領が授けてくださった亡命許可は、私の亡命者としての資格を公式のものにしました。いかなる国であろうと、この亡命を実現する権利を制限または邪魔立てする根拠は持ちあわせていません。けれども、私たちがすでに見てきたように、西欧と北米の一部の国々は、法の枠組み外で行動することにためらわない姿勢を過去に示してきました。そして、今日でもそれは続いています。このような不当な脅威のために、私は、われわれが共有する権利にしたがって、南米におもむき、そこで許された亡命生活を送るという選択肢を実行することができません。

強国によるこのような超法規的なふるまいは、私たちすべてに対する脅威であり、それが成就することを許してはなりません。ですから、私は皆様方の支援をお願いするのです。関係諸国を経由して無事に南米にたどり着くことのできる保証を私は求めています。また、これらの国々が法に従い、私の移動を法的に許可する時までロシアに亡命者として滞在できることを求めています。私は本日、ロシアに対して亡命申請をおこなうつもりです。無事に申請が通ることを願っています。

なにか疑問点がございましたら、できるかぎりお答えします。

本日はありがとうございました。


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[訳注と補足と余談など]

訳出が遅れたのは、この文章の掲載期日の14日前後が仕事が忙しくて、サイトを徘徊する時間が取れず、文章の存在に気づかなかったせいです。
『Znet(Zネット誌)』の過去の掲載分をふり返っていて見つけました。
それにしてもこの『Zネット誌』や『オルターネット誌』などは、めぼしい文章、重大な文章を元のサイトから転載してくれるので本当にありがたい。

■訳文中の「秘密法廷」については、以下のサイトが参考になります。

全人類の個人情報をネットで把握する米軍諜報部
http://tanakanews.com/130617NSA.htm


■訳文中、法律に関係する言葉や文章については、法律の専門家ではないので自信がありません。
誤訳や不適切な表現がありましたらお知らせください。

■訳文中の
「私が搭乗していないか確認するために、軍事的同盟関係にある国に命じて、南米の大統領を乗せた航空機を緊急着陸させたのです」
については、以下のサイトなどが参考になります。

ボリビア大統領がスノーデン事件に関連して空港で足止め~
news.kyokasho.biz/archives/14396?


■それにしても、「秘密法廷」に関してや「ニュルンベルク原則」、今回のアメリカ政府の行為がそもそも憲法その他の法に違反している可能性の高さ、等について、大手メディアの言及が少ないように感じます。ネットを検索してもあまりひっかかりません。
これは、アメリカ政府に遠慮して報道自粛しているのでしょうか。
英米大手メディアの報道自粛や偏向報道にはうんざりです。


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