気まぐれ翻訳帖

ネットでみつけた興味深い文章を翻訳、紹介します。内容はメディア、ジャーナリズム、政治、経済、ユーモアエッセイなど。

英国のメディア監視サイト・7-----政府のプロパガンダ機関と化した英大手紙

2015年08月04日 | メディア、ジャーナリズム

例によって英国のメディア監視サイト『Media Lens』(メディア・レンズ)から採りました。

今回、批判の中心となっているのは『サンデー・タイムズ』紙です。
(『ガーディアン』紙とBBCもやり玉に挙がっていますが)
同紙のあまりにむごい政府の御用機関化には驚かされます。

原題は
‘We Just Publish The Position Of The British Government’--- Edward Snowden, The Sunday Times And The Death Of Journalism
(「われわれはただ英国政府の見解を伝えるだけです」
-----エドワード・スノーデン、『サンデー・タイムズ』紙、ジャーナリズムの死)

原文のサイトはこちら↓
http://www.medialens.org/index.php/alerts/alert-archive/2015/794-we-just-publish-the-position-of-the-british-government-edward-snowden-the-sunday-times-and-the-death-of-journalism.html

(なお、原文の掲載期日は6月17日でした)


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‘We Just Publish The Position Of The British Government’--- Edward Snowden, The Sunday Times And The Death Of Journalism
「われわれはただ英国政府の見解を伝えるだけです」
-----エドワード・スノーデン、『サンデー・タイムズ』紙、ジャーナリズムの死


本誌「アラート 2015」
2015年6月17日 最終更新2015年6月18日

『メディア・レンズ』編集者


21世紀最大の犯罪-----すなわち、2003年の米国主導によるイラク侵攻-----を経たからには、こう考えても無理はなかろう。情報源のあいまいな、政府や諜報機関による発表を「ジャーナリズム」にかぞえる時代は終った、と。ところがどっこい、そうではなかった。先の6月14日、ルーパート・マードック氏の所有する英『サンデー・タイムズ』紙は、この手の報道の古典的な例を提供してくれた。

(問題の記事の閲覧は有料である。
http://www.thesundaytimes.co.uk/sto/news/uk_news/National/article1568673.ece
ただし、以下のサイトで全文が読めます。
https://archive.is/BkuMM#selection-855.0-865.204)

第一面に麗々しくかかげられた記事のタイトルはこうである。
「英国諜報員の身元、ロシアと中国に露見-----殺害防止の企て失敗」
まるでジェームズ・ボンド映画のための刺激的な筋書きである。
冒頭の文章もしかるべくものものしい。

「重要な機密文書をロシアと中国が解読した。文書は、現在亡命中の米国の内部告発者エドワード・スノーデン氏が盗み、秘匿したもの。この結果、MI6(英国秘密情報部)は敵対国で作戦遂行中の諜報員を呼び戻さざるを得なくなった。この情報は首相官邸、内務省、複数の英諜報機関の高官の発言に基づく
(下線部分は本サイトによる強調)

以下の文章も匿名の情報源による主張のたれ流しで、裏づけとなるものは一切提示されていない上に、あからさまな間違いが含まれている。

欧米の諜報機関-----信頼できること、および、隠れた意図のないことで世評が高いが-----によれば、
「われわれは救援作戦を余儀なくさせられた。ロシア政府がスノーデン氏の秘匿する100万点以上の機密ファイルへのアクセスに成功したからである。スノーデン氏はプーチン大統領の庇護を求めてロシアに渡っていた」。
むろん、世界の「悪玉たち」のひとりに「庇護」を求める人間は誰であろうと即座に犯罪容疑者としてあつかわれるのだ。

「情報源である政府当局の高官」は、「暗号化された当該文書の解読に中国も成功した」、「その結果、英米の諜報員の安全がおびやかされた」と述べた。内務省の上級職員のひとりは、スノーデン氏の「手は血で汚れている」と非難した。ところが、首相官邸からの証言によると、「危害をこうむった人間がいるとの証左はまったくない」。記事にかかわったジャーナリストたちはこの食い違いが気にならない様子で、なおも文章を続ける。

以下、匿名の情報源が次々と登場する。
「キャメロン首相の側近は次のように証言した。~」
「首相官邸の高官のひとりによれば~」
「~。こう語ったのは内務省の上級職員である」
「英諜報機関のひとりによると~」
「米諜報機関のひとりによると~」
等々等々 … 。
記事全体で名前が明示された情報源は、GCHQ(英政府通信本部)の元長官デビッド・オマンド氏のみであった。GCHQは英国の諜報機関のために大規模な盗聴、監視を遂行する秘密主義の組織である。

オマンド氏は、ロシアと中国がスノーデン氏の秘匿文書にアクセスできたことは間違いない事実として、次のように語る。

「これは『きわめて深刻な戦略的後退』であり、英米およびNATO加盟諸国に『悪影響をおよぼす』。」

これ以外の見解を『サンデー・タイムズ』紙は伝えない。これはジャーナリズムとは呼べない。文字起こしである。

この記事の署名欄には、トム・ハーパー(内政担当特派員)、リチャード・クルバジ(国家安全保障担当特派員)、ティム・シップマン(政治担当記者)の名前が挙がっている。
しかし、記事の作成にあたって、諜報機関や政権内部の人間から相当の情報提供を受け、その際これらの人間が特定のおもわくを有していたことは明らかである。そして、もちろん、以上の事情は、同紙の編集者マーティン・イヴェンス氏の了解の上で記事が発表されたはずだ。

BBCニュースもまた『サンデー・タイムズ』紙に追随した。
そのオンライン版の記事では、国家安全保障問題担当の特派員ゴードン・コレラ記者による「分析」が含まれている。このいわゆる事情通による分析の土台は、「長年に渡る数々の会話から私が了解したもの」であった。そして、分析は、政府当局の見解を伝える「パイプ」の提供という同記者のいつもの役目をはたした。
記事はその後、更新されたが、その中では多少なりとも穏当な疑義が呈されていた。しかし、更新版の存在は最初の記事の底の方に注記されただけで、導入部では読者に告げられていない。

要するに『サンデー・タイムズ』紙のこの記事には、匿名氏の主張についての証拠は一切なく、それに疑義が呈されることもないし、報道上の客観性について配慮もされていない。こんな具合であるから、少し踏み込んで確認してみれば、この記事のおそまつさが明らかになるのはほとんど不可避であった。


ジャーナリズムとは正反対

元外交官であったクレイグ・マレー氏は、この記事にブログで即座に異議をとなえた。タイトルは「MI6の話がウソである5つの理由」となっており、理由の1つをマレー氏は以下のように述べる。

「MI6の人間がロシア人か中国人の手で殺害されるおそれがあるという主張はナンセンスである。この半世紀の間、MI6の人間は誰ひとり彼らに殺されてはいない。起こり得る最悪の事態はせいぜい本国に呼び戻されるだけである」

もう1つの理由は記事の出たタイミングにかかわる。それはちょうど英諜報機関による大規模な盗聴・監視の必要性をうったえる広報作戦の役割をはたした。

「スノーデン氏を非難するこの根拠の空っぽな記事は … タイミングが、英国政府のいわゆる『覗き見免許』法案の推進とぴったり重なっている。この法はわれわれのネット活動すべてに対するアクセスを政府の諜報機関に許すものだ」

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『ガーディアン』紙のユエン・マカスキル記者(防衛・諜報担当の特派員)も納得のいかない様子だ。同記者は「英国政府への5つの質問」をかかげた。
もちろん、『ガーディアン』紙は-----マカスキル記者自身も含め-----、これまで政府のプロパガンダを伝えてきた実績がある。顕著な例は、2003年のイラク侵攻と2011年のリビア攻撃の際、それに向けた大規模なプロパガンダ攻勢の最中での同紙の報道である。
(これについては、当サイトの『アラート』で何度も取り上げた)

『ガーディアン』紙で、『サンデー・タイムズ』紙と同様に、政府の主張をそのまま文字に起こした、もっともむごい例は2007年の記事である。米国防総省のプロパガンダが同紙の第一面をかざった。タイトルは「イラン、今夏の攻撃作戦をひそかに計画-----イラクからの米国駆逐を目指す」である。書き手はサイモン・ティズドール記者(外交問題担当)。
当時、本サイトで指摘したように、この記事はほぼ完全に米国防総省の匿名の職員の主張に基づいており、事実の裏づけに欠けている。実際のところ、記事の23の段落のうち、22までが政府当局者の言をそのまま伝えるものであった。記事全体のほぼ95パーセント以上にあたる。以下のような調子である。

「米国政府の職員によると~」
「バグダッド在の米国上級職員は次のように警告した。~」
「当該職員は~」
「同氏はまた、~」
「さらに~」
「米国の当局者は今では~」
「バグダッド在のその上級職員によれば、~」
「同氏[バグダッド在の上級職員]は、さらにつけ加えて~」
「同氏は~」
「同氏は~」
「同氏[当該職員]の示唆するところによると~」
……

政府当局者の発言に26回も言及することが、この『ガーディアン』紙の記事の土台を構成している。独自の探索、反対意見の提示、反証などは一切ない。上に挙げた言い回しを削除してみれば、この第一面をかざった記事は、要するに、米国防総省のプレス・リリースと変わりがない。

(同様の例については、本サイトの「アラート」の以前の文章 Real Men Go To Tehran 、および、An Existential Threat: the US, Israel and Iran などを参照)

そういうわけで、『サンデー・タイムズ』紙の記事に対する『ガーディアン』紙記者の「疑義の表明」は、もっと広い文脈において評価しなければならない。
つまり、
(a)欧米政府のプロパガンダに関して、長年に渡り『ガーディアン』紙が協力してきたこと、客観的な報道にしり込みしてきたこと
(b)マードック氏の所有する一紙であるライバル新聞社に対し、リベラル派のジャーナリストが批判できる口実があたえられ、自分たちのイメージの向上に役立つ契機となったこと
である。

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さて、再び『サンデー・タイムズ』紙の記事にもどろう。
調査報道サイトの『インターセプト』などに寄稿しているジャーナリストのライアン・ギャラガー氏は、次のように述べている。

「『サンデータイムズ』紙のこの記事は疑問に答える以上に新たな疑問を提供している。それどころか、きわめてうさん臭い主張や矛盾、間違いをあれこれ含んでいる。もっとも驚くべきことは、この匿名のとばりの背後に隠れた、ご大層な政府の主張に対して懐疑のかけらも示されないことである。政府当局者の発言をかくもストレートにうのみにするのはまっとうなジャーナリズムの対極にあるものだ」

しかし、この記事に対するもっとも徹底した批判はおそらくグレン・グリーンウォルド氏から発せられたものだろう。同氏こそ、スノーデン氏と香港で会い、その内部告発を一般市民に知らしめるのに中核的な役割をはたした人物である。
グリーンウォルド氏はこう書いている。

「この記事全体が自分で自分を否定するジョークである。まるでパロディー-----欧米のジャーナリズムの根本的腐敗を示すために私が自分で拙速に考え出したパロディー-----のようだ」

この「腐敗」を要約すると、

「彼らの思考の枠組みとなっている公式は、

『政府による匿名の自己利益的な説明=真実』

である」

これは権力に対するあからさまな服従であり、その結果、

「政府当局者は、自分たちがいついかなる時でも一般公衆を説き伏せることができるという認識を持つに至る。なぜなら、恭順なジャーナリストが匿名を約束し、自分たちの主張をそのまま受け入れ、なんら異議をとなえずに報道してくれるだろうからである」

グリーンウォルド氏が述べているように、都合の悪い情報が内部告発者によって暴露された場合、匿名の政府当局者による非難や中傷が客観的な報道のよそおいの下におこなわれるのは今に始まった話ではない。似たようなことはニクソン政権下でも起こった。ダニエル・エルズバーグ氏がベトナム戦争にからむ「ペンタゴン・ペーパーズ」を公表した時のことだ。米国政府は同氏の評判をおとしめようとし、同氏がソビエトに情報をもらしたと主張した。これは根も葉もない嘘であった。

グリーンウォルド氏はさらに「米国政府内では、スノーデン氏の評判をおとしめるための共同作戦」が進行中であると述べている。このことを英国の政府とその諜報機関が承知していること、よろこんでその一翼を担おうとしていることは間違いない。『サンデー・タイムズ』紙の今回のスノーデン氏非難の記事はこの事情にぴったり符号するのである。

グリーンウォルド氏は次に『サンデー・タイムズ』紙の「真っ赤なウソ」を指弾する。
同紙はこう書いていた。

「デビッド・ミランダ氏(『ガーディアン』紙のジャーナリスト、グレン・グリーンウォルド氏のボーイ・フレンド)は、2013年にモスクワにスノーデン氏を訪ねた後、ヒースロー空港で拘束された。5万8000点にのぼる『極秘』の諜報関連文書を所持していたとされる」
(原注: 上の「ボーイ・フレンド」は原文の表現である。普通は「配偶者としてのパートナー」)

(訳注: 上で「ボーイ・フレンド」という表現を問題にしているのは、英語の boy friend には「愛人」の含意があるためと思われます)

事実は、グリーンウォルド氏によれば、こうである。

「拘束される前にデビッドがモスクワにスノーデン氏を訪ねたことはなかった。ヒースロー空港での拘束以前にモスクワに行ったことは一度もなければ、スノーデン氏に会ったこともまるでない。あの旅でデビッドが訪れた都市はベルリンだけだった。ベルリンでは、[映画監督]ローラ・ポイトラス女史のアパートに滞在した」

グリーンウォルド氏によれば、『サンデー・タイムズ』紙は、記事を掲載した翌日にこの問題のある段落を「ひっそりと削除した」。

「同紙は記事からこの段落を削除した。しかし、削除したことは読者には注記その他のいかなる形でも知らせていない(紙版の方ではそのままであり、したがって、記事の取り消しが必要である)。このことは記事自身の『報道』の水準を示唆するものだ。そのほかにも複数のあやまり、あらゆる種類のおそまつな報道慣行、等々が修正されずに残っている」

グリーンウォルド氏の文章は明らかに『サンデー・タイムズ』紙の痛いところを衝いた。なんと次の日には、この文章を載せた『インターセプト』の発行元である『ファースト・ルック』社に書簡が届いた。『サンデー・タイムズ』紙の発行元であり、ルーパート・マードック氏の所有する『ニュースUK』社からである。書簡は、グリーンウォルド氏の文章に添えられた『サンデー・タイムズ』紙の第一面の画像を引っこめるよう求めるものであった。
グリーンウォルド氏は以下のように答えている。

「お断りします、『サンデー・タイムズ』さん。われわれは『インターセプト』の当該の文章から貴社の恥ずべき記事タイトルの画像を撤回するつもりはありません。
https://www.documentcloud.org/documents/2101948-news-uk-dmca-notification-first-look-productions.html'


「われわれは何も知らないのです」-----笑うべきしどろもどろの4分間

この『サンデー・タイムズ』紙の記事の中心的記者トム・ハーパー氏はCNNに出演し、インタビューに答えた。これは実に笑える4分間で、ジャーナリズムを研究する学生にとって今後永劫に視聴必須となるべきものである。

CNNのインタビュアー、ジョージ・ハウエル氏はハーパー記者に記事の趣旨、記事の内容についての証拠の有無を確認しようとした。ハウエル氏は特にきわだってリベラル派というわけではない。実際のところ、そうである必要はなかった。記事の「語るところ」に対し基本的な疑問をぶつけるだけで、そこにはジャーナリズムの名に値するものがまるっきり欠けていることが鮮明になったのである。「うーん」だの「ええと」だのを連発しつつ、ハーパー記者が答えることのできたのは以下のような調子である。

「そうですね、ええと …… 私にはわかりません、正直言って」

「われわれにわかっているのは、これが実質的に英国政府の公式の見解だということだけです」

「そうですね、ジョージ、くり返しになって心苦しいのですが、われわれにはわかりません」

「またこう言ってがっかりさせることになるでしょうが、われわれは本当に不案内なのです」

ソーシャル・ニュース・サイトの『ゴーカー』でアダム・ウェインステイン氏が、この悲惨なインタビューの一部をきちんと文字に起こしてくれた。
http://gawker.com/author-of-that-horrible-snowden-article-has-even-worse-1711406342?rev=1434389015382

ウェインステイン氏は皮肉っぽく次のようにコメントしている。

「このインタビューは、結局のところ、スノーデン氏のやったことをこれまででもっとも明確に擁護するものとなっているようです」

上述のライアン・ギャラガー氏はインタビューを簡潔にこうまとめている。

機密ファイルにはどういうやり方でアクセスできたのか?
-----「私にはわかりません」
ファイルは不法侵入されたのか、それとも、スノーデン氏自身が引き渡したのか?
-----「われわれにはわかりません」
MI6の職員は直接的な脅威をこうむったのか?
-----「われわれにはわかりません」
ファイルの内容を英国政府はどうやって知ることができたのか?
-----「それについてはわれわれは明確には把握していません」
政府当局の主張を裏づけることはできるのか?
-----「できません」

ギャラガー氏は述べる。

「インタビューは実に類のないものだ。この疑わしい記事の一切がもっぱら匿名の政府職員の発言だけに基づいていること、そして、記者らがそれをうのみにし、情報の真正性を確かめようとさえしないことがこれ以上ないほど明らかになったのだ。彼らは政府の主張を痴呆のごとくそのまま受け入れ、何の疑問も差しはさまずに記事にして掲載した。これはまさしく御用ジャーナリズムというものだ。恥ずべきことである」

『サンデー・タイムズ』紙の報道姿勢がみごとに浮き彫りになったのは、ハーパー記者がインタビューの中でしくじって、ついあらかさまにこう答えたときである。

「われわれはただ英国政府の見解と信じるものを伝えるだけです」

このセリフは、墓碑銘として、英国の「主流」ジャーナリズムの墓石に刻み込んでもよかろう。


またもや「倫理的同格性」の議論

(訳注: 「倫理的同格性」の原文は Moral Equivalence。ネットで検索しても日本語の定訳はない様子なので、取りあえずこう訳しておきます)

すでに述べたように、BBCの基本的姿勢は、この『サンデー・タイムズ』紙の御用記事を額面どおりに受け取ることであった。後になって、「バランスのとれた」報道をよそおうべく、控えめな疑義がいくらか差しはさまれた更新版が付加されたけれども。
同局のアンドリュー・マー氏は日曜の朝の『アンドリュー・マー・ショウ』でおごそかに告げた、「けれども、これについてはある程度の信憑性が見出されます」と。当然であろう、同氏はこれまで政府によるあからさまなプロパガンダに「ある程度の信憑性」を見出してきた履歴の持ち主なのだから。たとえば、イラク侵攻当時、同氏はBBCの政治記者であったが、その際の報道も同様であった。

BBCの看板番組と言える『ラジオ4』のニュース番組『トゥデイ』でも、その構造的な偏向がまたもや浮き彫りになった。
ジャスティン・ウェブ氏はグレン・グリーンウォルド氏にインタビューをおこなうという失策を犯した。グリーンウォルド氏は自分の話している事柄をちゃんと理解している人物なのだ。

(この『トゥデイ』へのリンクは6月20日に切れている。しかし、以下の『ユーチューブ』のサイトで聴くことができます。
https://www.youtube.com/watch?v=Ota4FuYRGf4
https://www.youtube.com/watch?v=Cr6z1vi9LaA

スノーデン氏の勇気ある内部告発について、ウェブ氏は標準的な、プロパガンダ寄りの見方を差し出す。

ウェブ: 多くの人々がこう述べています。スノーデン氏のことをどう思うかは別として、彼は人々の関心を関心が向けられてしかるべきことに向けたのだ、と。ですが、もう一方の側-----これを想定するのは理にかなっているでしょう-----、こちらはこう主張します。スノーデン氏は、まったく無辜の人々に危害をくわえることを望む人間にとって役に立つ機密情報を引き渡したのだ、と。この2つの見方があるというのは了解いただけるでしょうか。そして、この2つの見方を考慮しながらわれわれは生きていかなければならないということも。

グリーンウォルド: 了解できませんね。あなたは作り話をしていると思えます、あなたが今おっしゃったことに関しては。
[ここでウェブ氏は驚きのあまり笑ってしまう] 
スノーデン氏はいかなる文書、いかなる情報も引き渡していません-----大手報道機関に属するジャーナリスト以外には。ですから、公表されるべきではなかったとあなたがお考えの情報をもし『ニューヨーク・タイムズ』紙や『ガーディアン』紙、『ワシントン・ポスト』紙などが公表したとしたら、文句を言うべきはこれらのメディアに対してです。スノーデン氏自身はいかなる文書も公表しなかったのですから。スノーデン氏はジャーナリストの元におもむき、文書を渡してこう言ったのです。「公共の利益に属し、一般市民が知るべきである情報を選り分けるために尽力していただきたい」と。

ウェブ氏はまた、グリーンウォルド氏にこう尋ねている。

「どうでしょう、あなたは、プーチン大統領のひきいるロシア政府が、民主主義と人権の擁護という点で、アメリカやイギリスと同格であるとおっしゃっているわけではないですよね」

グリーンウォルド氏は答える。

「私がはっきり認識しているのは、2600万の人口を擁するイラクという国に侵攻して国をズタズタにし、あるいは、世界的な拷問施設のネットワークを構築して秘密裡に人々に拷問をくわえ、また、はるか海のかなた、グアンタナモ基地に人々を期限未設定のまま拘留し続けているのはロシアではないということです。ですから、欧米の一部の人々が『われわれの側は善良だ。不届きなのはプーチンの方だ」と発言するのは、信じがたいほど無邪気な話だと思います」

ウェブ氏の問いはBBCのプロパガンダ推進の典型例である。同氏はプーチン大統領を「悪玉」、米国と英国を「善玉」にくくり、「倫理的な同格性」というまやかしの議論を持ち出す。企業ジャーナリズムにたずさわる人間のいつもの手である。

筆者はまた、BBCの Michael Buerk 氏の発言をここで思い出す。欧米がイラクに課した、多数の死者が見込まれる経済制裁に対して、国連の上級外交官デニス・ハリデイ氏は抗議の辞任をした。その際、Buerk氏は信じられないという面持ちでハリデイ氏に聞いた。

「まさか …… 、まさか、サダム・フセインとブッシュ大統領を倫理的に同等に並べるなんてできないでしょう」
(2001年のBBCラジオでのインタビュー)

同じく、BBCのジェレミー・パックスマン氏は、2004年にニュース番組の『ニュースナイト』でノーム・チョムスキー氏にインタビューをおこなった際、不審そうに次のように述べている。

「あなたが示唆している、暗に言っていることは-----いや、たぶん私の勝手な推測でしょう-----、しかし、私にはこう思えるのです、ブッシュ大統領やブレア首相のような民主的に選ばれた国家元首とイラクのような国の体制が倫理上、同格であるようにあなたはほのめかしている、と」

チョムスキー氏はこのもっともらしい「議論」を粉砕する。

「倫理的同格性という言葉は興味深いですね。この言葉は、私が思うに、ジーン・カークパトリック[元米国国連大使]が考案したものです-----外交政策や国の決定に対する批判を封じる手立てのひとつとして。これは無意味な概念です。倫理的な同格性などというものは存在しません」

調査報道にたずさわるピーター・オボーン氏は今年2月に『デイリー・テレグラフ』紙を辞めた。同紙が金融大手HSBCのかかわるスキャンダルを報道せず、「購読者に対する一種の詐欺行為」を働いたことに抗議しての辞任であった。そのオボーン氏は最近こう書いている。

「イラク侵攻を支持した人々は英国の公の場で依然支配的な地位を占めている。一方、反対した人々は片すみに追いやられ、さげすまれている」

これはまことにショッキングであり、実におぞましい話であるはずだ。しかし、同様に、イラク侵攻という犯罪を可能にした報道慣行はやはり依然主流を占め、真実を追求する報道は片すみに追いやられ、白い目で見られている。

そういう次第で、私たちは了解する。大手の報道機関が今なお政府当局の匿名によるプロパガンダの従順な「パイプ」としてふるまい続けていることを。過去の欺瞞の明々白々な教訓をあいかわらず学ばないままなのだ。イラクやリビアの惨事の深刻さを考えれば、このことは、企業メディアのあり方の構造的な腐敗がいかにすさまじいかを如実に物語っている。イラク戦争の経験、100万人のイラク市民の死、2600万人の国民をかかえるイラクの現在の惨状さえ、非情な政治的、経済的諸力に圧倒されて言いなりになるジャーナリストを押しとどめることはできない。一般市民の疑問の声も馬耳東風である-----これまでのところは。

それどころか、これらの破壊的な力は2003年のイラク侵攻以来より強大になった。メディアの報道に注意すれば、欧米の民主主義が急激、深刻に劣化していることは明白である。


デビッド・クロムウェル、デビッド・エドワーズ


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