気まぐれ翻訳帖

ネットでみつけた興味深い文章を翻訳、紹介します。内容はメディア、ジャーナリズム、政治、経済、ユーモアエッセイなど。

ウィキリークスは死なず

2014年11月28日 | メディア、ジャーナリズム

今回はウィキリークスの創設者ジュリアン・アサンジ氏に対するごく短いインタビューです。

ちょっと意外なことに、科学誌の『New Scientist』(ニュー・サイエンティスト)誌に載ったものです。私は、例によって、定期的に覗く『Znet』(Zネット)誌に転載されていたので知りましたが。


ブログのタイトルは「ウィキリークスは死なず」としましたが、実際のアサンジ氏のセリフは
I hope there’s much still to come
です。
「ウィキリークスでやれることはまだたくさんあると思っています」ぐらいの意味です。


原文の初出は上に書いたように『New Scientist』誌ですが、私が読んだ『Znet』誌のサイトはこちら↓
https://zcomm.org/znetarticle/i-hope-theres-much-still-to-come/

(なお、原文の掲載期日は10月22日でした)


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‘I hope there’s much still to come’
「ウィキリークスでやれることはまだたくさんあると思っています」



By Julian Assange
ジュリアン・アサンジ

初出: 『ニュー・サイエンティスト』誌

2014年10月22日


ウィキリークスの共同創設者アサンジ氏語る-----インターネットは政治的発言力拡大の道具にもなり得るし暗黒世界への通路にもなり得る


エドワード・スノーデンが米国家安全保障局(NSA)の文書を暴露して以来、グーグルなどの巨大ハイテク企業に対する人々の意識が何か変わったとお考えですか?

人々はグーグルの色あでやかで、遊び心に満ち、童画のようなロゴを毎日数え切れないほど目にしています。そのおかげで、グーグルは無害な、まるで蛇口をひねって水を出すサービスを提供している会社であるかのような感覚を抱かせるに至っています。政治的存在あるいは私企業ではないかのようです。

グーグルが「PRISM(プリズム)システム」を介しNSAと広範に協力していたことが明らかになったので、同社のオーラは幾分かは弱まりました。しかし、グーグル、そして、フェースブックなど他のシリコンバレーの会社が急に方針転換したのは、ユーザーから大きな怒りの声がたくさん寄せられたからです。それでこれらの企業はNSAから距離を置き始めました。自分たちは強いられて仕方なくそうしたのだというイメージを打ち出したのです。


グーグル社の標語『Don’t be Evil(邪悪なマネはするな)』についてはいかがお考えですか?

グーグルは邪悪な人間が経営する邪悪な企業である-----そう、私は人々に思ってもらいたいわけではありません。グーグルの商売のキモはできるだけ多くの人々について、できるだけ多くの情報を集めることです。そして、それらの情報を蓄積し、索引を作り、個々の人物の情報をまとめ、その関心事項を類推し、広告業者その他にこれらの情報を売ることです。これは、技術的なレベルでは、NSAが従事しているのとまさしく同一の営為です。すなわち、NSAも人々についての情報を収集、蓄積し、索引を作り、彼らについての行動予測をし、これらを米国の他の政府機関に「売り渡す」のです。グーグルとNSAは基本的に同一の仕事にたずさわっているのですから、当然、NSAはグーグルを巧みに利用し、その情報を拝借しました。NSAにとってそれは好都合このうえないことですから、こうしたやり方は今後もずっとなんらかの形で続くでしょう。


将来について何か懸念は抱いておられますか?

目下のところ、明らかに暗黒世界への傾斜が現れています。今オーウェルの『1984年』のような本を読めば古風に感じられます。その監視手法が生ぬるく思われるのです。しかし、インターネットには2つの働きがあります。ひとつは、それは力を中央に集中します。世界のどこであろうと、インターネットはそれを、すでに力の中心であった地点と結びつけるからです。一方、インターネットはまた、これまで例のない、もっとも大きな、世界規模の政治教育をほどこすことができます。以上2つのうちのどちらが優位を占めるのかはまったく見通せません。しかし、大事なことは努力し、正しい方向に物事をみちびくことです。われわれは今、少なくとも幾分かは暗黒世界へ歩を進めつつありますが、その結果のあり様はきわめて暗澹たるものです。


インターネットの役割、機能は現在、損なわれているのでしょうか?

それは再構築が必要ですね。現在インターネットで用いられている技術の大半はもう15年から30年ぐらいの歳月を経ています。それなりの時間が経過したわけですから、強大な力を持つグループが柔軟に対応し、うまい利用法や制御法をひねり出すには十分でした。ところで、ビットコインのブロック・チェインはご存知ですか。いわば、広く分散された電子版の帳簿で、ビットコインのネットワーク上のすべての取り引きを記録しています。これがここ5年ほどでもっとも理論的に興味深い展開です。ただし、大部分の人が考えているのとはちがった理由からですが。

ブロック・チェインは、要するに、ある特定の時間における文書公開をグローバルで証明できます。つまり、いったん何かがブロック・チェインにおさまると、それが時間軸のどの瞬間に起こったのかを正確に刻印します。そして、それを取り消したり改変したりすることはできません。これはオーウェルの託宣を無効にするものです。あの「過去を支配する者は未来を支配し、現在を支配する者は過去を支配する」という言葉をです。


ふり返ってご覧になられて、ウィキリークスで別のやり方があったと感じられたものはございますか?

ささいなことではたくさんあります。大きな企ての後でこう言えないとしたら、経験から何も学んでいないということになるでしょう。けれども、肝心な事柄の多くについてはありません。資源の制約があるわけですから。考えてみてください。銀行口座の凍結あるいは実質的軟禁状態、世界的な人狩り、スタッフを「敵性戦闘員」と宣言し、恣意的に誘拐や暗殺の対象にふくめるといったやり方-----これらに対処しなければならない事情を。それは確実に活動の足かせとなります。これらの足かせがもしなかったら、やれることはまだいろいろあったでしょう。


中核的な企ては達成されたとお感じですか?

これからもやれることはたくさんあると思っています。すでにウィキリークスはいくつか重要な仕事を成し遂げてはいますが。インターネットを、5年前のきわめて不毛、浅薄で非政治的な空間から政治的な空間へ、若い人々が歴史に参与できると感じられる空間へ変貌させることに寄与できたら、それはおそらくもっとも意義のある道のりということになるでしょう。


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[訳注と補足など]

■訳文で「暗黒世界」としたのは、原文では dystopia です。

これは辞書をひくと「暗黒郷」となっていたりしますが、「暗黒郷」はどうも日本語として熟していないように感じられます。
カタカナ英語で「ディストピア」とするのも、これまた一般的ではないと感じます。
そんな次第で今回は「暗黒世界」としておきました。


■訳文中の「敵性戦闘員」も日本語としては違和感を覚えますが、一応これはその筋の専門用語ということで、カッコつきで使いました。

「敵性戦闘員」をめぐっては、以下のサイトが参考になります。

「敵性戦闘員」という不思議な呼称
http://blogs.yahoo.co.jp/ganho31/6511649.html