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倉本裕基の音楽

2009年06月24日 09時58分56秒 | エッセイ(邦楽&ポップス)

 以下の一文は、いわゆる「癒しの音楽」の第一人者とも言われている作曲家・ピアニスト、倉本裕基が、日本でのブレイクを始めたころ、新しい意欲的なソロ・アルバムが発売されることになった時、依頼されたエッセイ原稿です。私の言う「発売する側の都合」によって書かれた原稿には違いありませんが、私にとっての「癒し音楽」「倉本のピアニズム」「音楽ジャーナリズム」それぞれへの思いは、素直に書かれています。決して「売る側の都合」に合わせた原稿などではありません。この文章、ポピュラー系の雑誌の広告、全国キャラバンを始めたコンサート会場でも配られましたから、「倉本ファン」を認じている数十万人のファンの方は、どこかで見かけたかもしれませんが、このクラシック音楽を主なテーマとするささやかな私のブログへの、数百人の来訪者にとっては、初めて耳にする名前なのかもしれません。
 倉本氏には余計な記述かも知れませんが、昨年の秋(だったと思います)、彼の母校である栃木県立宇都宮高校の卒業生と在校生から構成された管弦楽団の伴奏で、若き日の思い出の曲と倉本自身が言うグリーグの「ピアノ協奏曲」を、倉本自らが弾くという「宇都宮高校管弦楽団」の創立○周年記念演奏会を聴きました。とても率直で、自分に正直な音楽が、とてもすがすがしかった。そういう音楽が、いわゆる「プロ」の世界とは別の場所で、営々と続けられているということに、久しぶりに気付かされました。
 そういえば、私が子供時代を過ごした家は、私が中学生のころになって、すぐ向かいに、「市川交響楽団」を創設してその後も指導を続けられた村上氏が引っ越して来られました。毎日、ピアノのレッスンの音が聞こえ、週末になると、アマチュアオーケストラの方たちが、かわるがわる練習に来ていたのを思い出します。それもまた、音楽に自然に接していた、とてもなつかしい思い出です。
 だいぶ脱線してしまいました。以下の、2004年5月20日に書かれた原稿を、お読みください。


■倉本ワールドの美しい風景

 倉本裕基のピアノ・リサイタルには、不思議な魅力がある。倉本は、ピアノが好きで好きでたまらないといったふうに、ひとり、一心不乱にピアノと対話を続ける。少しずつ彼自身の心の揺れ動きを開放させて行き、やがて、会場全体を大きな「ゆらぎ」の中に包み込んでしまう。倉本の音楽を中心に大きな輪が広がり、あたりの空気を澄んだものへと変えていく。ライトを浴びたステージのピアノと倉本は、どこか遠くの風景のように、聴いている私たちの前に漂い始める。……そんな倉本の、静かな、そして幸福な「ひとりぼっちの時間」を、そっくりそのままマイルームでひとりじめできるのが、この全曲新録音によるCDだ。倉本ファンはもちろんのこと、そうでない人もどこかで聞き覚えのある倉本の名曲が、新しいアレンジのピアノ・ソロ・バージョンに姿を変えて聞こえてくる。これは、ピアノという楽器の魅力を知り尽くした倉本ならではの世界だと思う。
 倉本は自身のプロフィールに「好きな場所:空気のきれいなところ。静かなところ。適温、適湿の場所」と書いているが、正に、そうした場所を描いた美しい風景画のような音楽がどこまでも続き、私たちは、その絵の中に、心地好い散歩の気分で分け入って行く。ある時は桜のトンネルをくぐり、ある時は遠く海岸線を眺めながら、ある時は落ち葉を踏みしめる音に耳を傾けながら……。倉本の音楽は、ラジオから聞こえてくるドラマが、どんな強烈な映像よりも豊かな想像力に満ちているということを知っている人の耳に、するりと入り込んでくるのだ。
 最近、私たちのまわりには、声の大きすぎる人、押し付けがましい人、暑苦しい人が大勢いる。いつから、こんな国になってしまったのだろう。けれど、静かな、空気のきれいなところで、そっと目を閉じ耳を澄ましてみれば、美しい時代の美しい風景が蘇ってくる。ひとりひとりの目の裏には、幼い日々の思い出の光景が浮ぶかも知れない。「私たちが失い始めた清洌な青春を思い出させてくれた」と日本中を沸かせたテレビドラマ『冬のソナタ』を生んだ韓国の若者たちが、私たちよりも先に、倉本ワールドを絶賛したと言われているが、これは、決して偶然ではないし、興味深い現象だ。倉本の音楽には、スイッチONで「癒しの音楽」が与えられるような世界とは違って、自然ににじみ出てくる「やすらぎ」がある。もっともっと、広く日本の様々の世代の人々に聴いていただきたいアルバムの登場である。



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