goo

吉川霊華の軸――山田俊幸氏の「病院日記」(第15回)

2011年11月10日 19時03分10秒 | 山田俊幸氏の入院日記



 もう退院して元気を回復しつつある山田氏が、病床から10月5日に送信してきたものです。退院後は忙しいようで、何も送ってきませんから、はやく滞貨一掃してしまわないと、私のブログ本来の姿に戻れませんので、急ピッチで転載を続けます。あと5回分で終わりだったと思います。



寝たまま書物探偵所(15)・・・吉川霊華の軸 by 山田俊幸

 丸橋さんが、えびな書店店主が書いた本をもってきてくれたことを前回書いたが、その時、一緒に『視覚の現場・四季の綻び』という雑誌の第10号もいただいた。丸橋さんが関東大震災について書いている号だが、中に吉川霊華について書いているのが目についた。
 吉川霊華は魅力的な日本画家で、その線描の美しさは比類がない。鏑木清方の文章で知り、たまたまデパートの古本市で出会ったのは幸運だった。たしか、銀座松坂屋の古本市で、少し前に知りあった丹波屋さんという書画屋さんに出たのだと思う。画題は重苦しくけだるい気分に満たされた貴人が琵琶を弾ずる絵で、決して元気の出る絵ではないが、好ましい。自題共箱で、霊華らしく難しい題がついていたが、今は病院ゆえ確認もできない。そんなものを皮切りに、さほど人気のなかった霊華を、出るたびにぽつぽつと集めていった。競争相手もいなかったと思う。買えるとはいっても、渓仙と比べるとさすが東京画壇の線の画家だ。淡彩でもそれなりの値はしていた。
 それと同時に、霊華が私淑したという冷泉為恭、浮田一恵の資料も読みはじめた。為恭の軸は高価で買えなかったが、一恵だけは法然上人絵伝という巻物を得た。そんな中で、霊華の全画集も高価で手が出なかったが、古い霊華画集の類はいくつか、なんとか手に入れることができた。そんなこともあって、いっとき、飯田呉服店の売り立て図録を、錦糸町西武の源喜堂のコーナーから全部集めてもらったこともある。渓仙と霊華の作品目録を新作の売り立て目録と骨董の目録のコッピーで作ろうと思ったのだ。その類もせっせと集めた。今から思うと異常な執着だった。だが、わたしの研究の流儀というのは、そうしたものだったのだ。そういう意味では、論文でも出来るくらいの資料は手に入れていたが、それに手をつけなかったのは、わたしの気まぐれ癖と怠惰以外のなにものでもない。軸は六軸くらいにはなったはずだ。
 古い霊華の画集を見ると、収集家の名前が記されている。最高の霊華コレクションは鈴木新吉らしいが、天金という銀座の天麩羅屋もだいぶ集めていたらしい。だが、いつ頃のことか、店の火事で焼いてしまったという。この話を書いているのは、天金の息子だった池田弥三郎さんだ。随筆で読んだことがある。池田弥三郎さんは、学生時代、講義を受けたので、知っていれば霊華のことをとうぜん聞いたはずだが、わたしが霊華を知ったのは卒業後だった。
 戦後、あるいは画集の編纂時だったのかもしれないが、霊華の文集をまとめた人がいる。私家版のようだったが、それも手に入れた。いつか使うと長い間置いていたが、残念だが大阪処分で救い出すことはできなかった。一冊二十円として市場で売られた。よく知られた霊華の関わる表紙絵は、『早稲田文学』にある。それとは別に、口絵の仕事をした一冊を手に入れたことがある。キュウセイさんに薦められたのではなかったか。署名は今は分からないが、これはまだあるはずだ。霊華のこういう仕事は珍しい。また、顕彰会の依頼だったのだろう。忠臣蔵の一場面なども描いている。
 極め付きの霊華の珍品は、大阪の大学に赴任した時、ピエかなにかで知った京阪守口のデパートの古本市で手に入れたものだ。吉川霊華と平福百穂のハガキを四葉ほど張り込んだ紙で、百穂のハガキはなんとか読めるが、霊華のそれはまったく歯が立たなかった。情けないが仕方がない。もったいないだけである。
 『視覚の現場・四季の綻び』に霊華の箱書きについて書いているのは、鶴見香織という人。東近美の人らしい。知らない人だが、霊華の軸を三百数十見たという。それで箱書きの謎に突き当たったのだ。霊華は今は人気がないが、当時はそれなりの画家だ。贋物も多いと聞く。わたしのものも真贋は判然としない。研究は大変だろう。この人、青木茂さんなら知っているかもしれない。青木さん、知り合いなら、資料提供しますと、伝えてください。と言っても、病院の声、青木さんに届くかどうか。


goo | コメント ( 0 ) | トラックバック ( 0 )
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。
数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。