退屈しないように シニアの暮らし

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さて何をしようか

幸福な世界 2

2015-05-10 07:22:01 | 韓で遊ぶ


涙の弁当

今日、彼は放送局に来ています。
ある朝の番組で、長く消息が途切れ、会えなくなった人を探してくれるというのでした。彼は、しわが深くなったであろう恩師に会おうと来ていたのでした。小学校を卒業して30年ぶりのことでした。
「10年と言うと、国も変わるといいますが、30年とは、、。さあ、30年の間、恋しかった先生、、まず、お呼びしましょうか。」
ついに、あんなにも恋しかった先生がゆっくりと入って来ました。
30年の歳月が流れましたが、決して互いに忘れることができなかった師匠と弟子が互いに走りより手を握りました。
「先生、私を覚えていますか。」
「もちろん、覚えているとも。イビョンソク。」
銀髪がきれいな先生は穏やかに言いました。
二人の目にはいつの間にか涙が浮かびました。
「お二人は、互いに贈り物を準備して来ているとおっしゃいましたが。さあ、何でしょうか。」
二人はにっこり笑って自分の贈り物をみせました。
ゆがんだブリキの弁当と綿の蒲団一組。
その特別な場所に年老いた弟子は古いゆがんだブリキの弁当を、先生は綿の蒲団を一組持って来たのでした。
「ブリキの弁当と蒲団一組。お二人も本当に変わった贈り物を持って来たようですが、何か特別な訳でもあるのでしょうか。」
二人は30年前の記憶をたどりました。
先生の記憶の中でビョンソクはとても貧しい子供でした。
子供たちが一ヶ所に集まって弁当を食べる昼の時間になると、ビョンソクはいつも外に出て来て花壇に座っていました。お日様で空腹を満たすように、ビョンソクは毎日そうやって昼の時間を過ごしました。その時、見上げていた空がどんなに青かったことか、、、。
その日も空腹に疲れてコクリコクリと居眠りをしていると、急に空から水が降って来ました。
「あれぇっ。」
ビョンソクはびっくりして立ち上がって上を見ました。
担任の先生が、食事後、弁当をすすいだ水を何気なしに花壇に捨てたのでした。
「これは、濡れちゃったわね。ごめんね、ビョンソク。先生が、ビョンソクがそこにいるとは思わなかった。で、ビョンソクは昼ごはんを食べないで、そこで何をしている。」
「あ、はい、、、そ、、それが、、、。」
ビョンソクは答えることもできず口ごもり、先生におなかから出るグーというという音を聞かれるかと、ただ走って行きました。
次の日の昼の時間、先生が近づいてきて弁当をひとつ差し出しました。先生はその時から毎日、弁当を二つ包んできて、ひとつを彼に渡したのでした。愛がいっぱいに盛られた黄色いブリキの弁当。
翌年、転勤していく日まで、弁当はもちろん、運動会の時には運動靴を、秋になれば手袋を他の子供たちに知られないように準備してくれた先生、、、。
ビョンソクは学校で寝ることもありました。一部屋に8人の家族が寝るのが大変で、教室でこっそり寝て、朝、家に帰ることもしましたが、そうしていて当番に見つかって走り出したこともありました。ところが先生はその時のことも知っていたのでした。
教室で寝ていた弟子の身の上が、忘れられないつらさとして心に残っていた先生は、30年ぶりの出会いに綿の蒲団を持って来たのでした。
つらく、ひもじい頃をよく生き抜いて成長した弟子の前に、先生が持ってきた綿の蒲団は、30年前に弁当を差し出してくれた先生の心のように、暖かくて涙の出るような贈り物でした。
コメント
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