退屈しないように シニアの暮らし

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さて何をしようか

幸福な世界 2

2015-05-07 05:53:09 | 韓で遊ぶ


美しい旅行者

彼の仕事は旅行ガイドです。
彼は仕事として世界を回って10年。彼は若い頃から旅行が好きでしたが、それが仕事となってからは、本当に大変なことが多かったのでした。
特に、嗜好がそれぞれ違う旅行者が10人、20人集まって1週間、10日間旅行するとなると、その間には忘れられない人もいるし、二度とは会いたくない人もいるものです。
そんな彼がパリツアーに行った時のことです。
比較的若いカップルの中に70歳の老夫婦が入っていました。皆、始終その老夫婦の同行を快く思わない気配でした。日程に狂いが生じるであろう事は明らかだったからです。
それに、おばあさんは少し痴呆の症状があって、時々、話にもならないような無理を言ったりし、移動しなければならない時間に来なくてヒヤヒヤしたりもしました。
「あぁ、どうして、ああなのかしら、ちぃっ、、、」
道路の向かい側で、女性たちは不平を並べていました。
「あぁ、日程が狂ってしまったわ。」
一行の不満はだんだん大きくなり、おじいさんは若い同行者たちにすまなくて身の置き場がありませんでした。
一騒動があった日の夕方、おじいさんが一行をある露天カフェに招待しました。面倒だという気持ち半分と、好奇心半分で、ただのコーヒーでも飲もうと集まった一行の前でおじいさんは丁重に頭を下げました。
「実は、私が若かった頃、家内に約束したことがあります。私たちが70歳になった年に、必ずパリに行かせてあげるということでした。」
若い頃にパリ留学を夢見る才媛だったおばあさん。貧しい苦学生だったおじいさんは、そんなおばあさんを愛するあまり、どうしてもパリに行かせることができませんでした。
「だめな夫に出会ったために苦労して生きてきて、余裕ができたら病気になったんですよ。」
おじいさんは話をやめてうつむきました。
「今日は、家内の誕生日なんですが、、、」
おじいさんはそれ以上言葉を続けることがでず、事情を聞いたカップルたちは濡れた目で老夫婦の美しい旅行を、そしておばあさんの誕生日を祝ってあげました。
黄昏のパリ旅行は、ばら色の未来を喜んで捨てて伴侶になってくれたおばあさんに対する、おじいさんの生涯最高の贈り物だったのでした。
コメント
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