退屈しないように シニアの暮らし

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さて何をしようか

幸福な世界 2

2015-05-06 06:31:12 | 韓で遊ぶ


蒲団一組

夫婦は結婚12年目にして小さな家を手に入れました。
成功した友達に比べれば、とても粗末な鳥の巣のようなものでしたが、世の中のものをすべて手に入れたように胸がいっぱいで、家の中の隅々を掃いて家具を磨き上げて、その夜は遅くまで眠ることができませんでした。
「お前、、、家を持ったことが、そんなにもうれしいか。」
妻は笑いながら答えました。
「もちろんよ、うれしいわ。ずっと夢見ていたことだもの。」
大変だとも思わないで、一日が過ぎていきました。やっと荷物の整理を終えて横になって、他人の家の玄関横の部屋を借りて転々とした頃の事が、走馬灯のように思い浮びました。
「あなた、あの家、覚えている。昔、住んでいたあの玄関横の部屋。」
「あ、覚えているよ。」
「私たち、そこに行って見ましょうか。」
匙一本を持って甘い新婚生活を夢見た、貧しい頃に借りた一部屋。そこは、妻の記憶の中にも鮮やかに残っている思い出の場所でした。夫婦は、次の日、市場に行き、やわらかくて暖かい蒲団を一組買って、新婚暮らしを始めた坂の上の町の玄関横の部屋を訪ねて行きました。
階段を上りながら妻が言いました。
「こんなに高かったかしら。」
夫も同じように言いました。
「こんなに高いとは思わなかったな。」
夫婦が昔住んでいた家に着いた時、空は暗くなってきて、手のひらを二つ合わせたほどの窓から、オレンジ色の光りが漏れて来ていました。オムツがひらひらゆれて赤ちゃんの泣く声が聞こえる家。まるで時間が逆に回ったように思えた夫婦は、持ってきた蒲団をその部屋の縁側にそっと置いて帰りました。その日、その部屋の若い奥さんが見つけた蒲団の包みの中には、蒲団よりも暖かい手紙が入っていました。
「私たちは10年前にこの部屋にすんでいた者です。どんなに寒くても、家に帰って来て蒲団をかければ、この世の中のどこよりも暖かかったものです。」
坂の上の町の階段を下りながら、夫婦は目を合わせて笑いました。
昔の家を訪ねて行き、顔も知らない人たちに蒲団一組をプレゼントして下りてきた夫婦は、改めて悟りました。その蒲団は、玄関横の部屋の家族の冷たい足よりも、夫婦の心をやさしく包みこむ蒲団として生涯、残るものだという事を。
コメント
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