退屈しないように シニアの暮らし

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さて何をしようか

幸福な世界 2

2015-05-04 05:52:34 | 韓で遊ぶ


手紙

雨がしとしと降る日のことでした。
彼は粗末な小さな部屋の中で、妻の写真を心うつろに眺めていました。
妻が長い病気の末に亡くなってから1年、心にしみる恋しさに、絶望の中でもがいていた男はとうとう決心しました。
妻について行くことにしたのです。彼はめちゃくちゃに散らかって、妻のいない場所がより大きく見える家の中をきれいに整理しました。
「なあ、俺だめなやつだろう。すまないな。もうこれ以上は耐える力もない。ううう、、」
彼はがらんとした部屋の中で、妻の写真を見て涙を流しました。
その時、寝ていた息子が目をこすりながら起きて来ました。
「パパ、何してるの。」
父のすすり泣きに目を覚ました息子が、父のそばに近づいてきました。
やっと6歳。父の絶望を、そして絶望の末の選択を理解するには、あまりにも幼い息子です。
「サンウや、おばあさんの言うことを良く聞いて、パパに会いたくても我慢しないとだめだよ。そうすればいい子だ。」
子供はいい子になりたくてうなずきました。
彼は、そう固く言い聞かせた後、出張に行くと言って子供を妻の実家に預けました。
何も知らないおばあさんとサンウは、久しぶりに会えてうれしい気持ちでした。
「サンウ、おばあさんに挨拶しないと。」
「こんにちは。」
ですが、彼の悲しみを読むかのように、空からは強い雨がザーと降っていました。
子供を預けて、重い気持ちで家に帰ってきた彼は、心の中で妻を呼びました。
「なあ、もう少し待っていてくれ。お前のところに、、、お前のところに行くから。」
薬のビンを持ち、男は心の中で話しながら妻の写真の前に座りました。
心の準備を終えた後、妻の痕跡を片付けていた男は、たんすの中、奥深いところに、妻の匂いがしみこんだ日記帳を見つけました。日記帳をひろげようとした瞬間、ポロリと手紙が落ちました。
手紙は、妻が死を予感した後に男に残した遺言のようなものでした。
「サンウの誕生日には写真館に行って写真を一枚撮ってください。そして、化粧台の引き出しにそれによく合う額が入っているので、額に写真を入れて居間にかけてください。同じものを20個買って10個残っているので、20歳になるまでそうしてやってください。戸棚にあるワインはあなたが飲んではだめです。サンウが生まれた年のものだから、新婚旅行に行く時に持たせてください。」
「夏に出勤する時には、日焼け止めを塗るのを忘れないで下さい。そうしないと皮膚が痛んで年よりも老けて見えます。」
「春、秋は虫下しを飲まなければだめよ。あなたもサンウも子犬のようだから。」
「そして一日に一回はサンウを抱きしめて、愛していると言ってやってください。」
ここまで読んで男は涙があふれてしまいました。
妻の言葉は続きました。
「永久歯が出たら、歯科へ行ってフッソ治療を受けるようにしてください。」
「新しい友達ができたらどんな子か、必ず会ってください。」
男の自殺の決心を翻したのは、手紙の一番、最後に書かれた文章でした。
「私が一番、願うことは、あなたが幸福に暮らすことです。」
妻の顔が浮かびました。男は妻の手紙を胸に抱いて、しばらく泣き、そして涙を拭きました。そして、これ以上泣かないと決心しました。男は妻の手紙を心の中に大事に畳んで置き、そしてサンウをつれて写真館に行きました。
写真館のおじさんはサンウの顔をあっちこっちに向けさせました。
「頭を左側に、もう少し、もうちょっと、いいね。そのまま。」
男は、これからは弱い心にならないと決心し、居間の壁にサンウの写真をかけながら明るく微笑みました。
これからは、妻があれやこれやと念を押した事をやってあげないとならないから。男はサンウとその写真を見ながら両手をぎゅっと握りました。
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幸福な世界 2

2015-05-04 05:52:34 | 韓で遊ぶ


手紙

雨がしとしと降る日のことでした。
彼は粗末な小さな部屋の中で、妻の写真を心うつろに眺めていました。
妻が長い病気の末に亡くなってから1年、心にしみる恋しさに、絶望の中でもがいていた男はとうとう決心しました。
妻について行くことにしたのです。彼はめちゃくちゃに散らかって、妻のいない場所がより大きく見える家の中をきれいに整理しました。
「なあ、俺だめなやつだろう。すまないな。もうこれ以上は耐える力もない。ううう、、」
彼はがらんとした部屋の中で、妻の写真を見て涙を流しました。
その時、寝ていた息子が目をこすりながら起きて来ました。
「パパ、何してるの。」
父のすすり泣きに目を覚ました息子が、父のそばに近づいてきました。
やっと6歳。父の絶望を、そして絶望の末の選択を理解するには、あまりにも幼い息子です。
「サンウや、おばあさんの言うことを良く聞いて、パパに会いたくても我慢しないとだめだよ。そうすればいい子だ。」
子供はいい子になりたくてうなずきました。
彼は、そう固く言い聞かせた後、出張に行くと言って子供を妻の実家に預けました。
何も知らないおばあさんとサンウは、久しぶりに会えてうれしい気持ちでした。
「サンウ、おばあさんに挨拶しないと。」
「こんにちは。」
ですが、彼の悲しみを読むかのように、空からは強い雨がザーと降っていました。
子供を預けて、重い気持ちで家に帰ってきた彼は、心の中で妻を呼びました。
「なあ、もう少し待っていてくれ。お前のところに、、、お前のところに行くから。」
薬のビンを持ち、男は心の中で話しながら妻の写真の前に座りました。
心の準備を終えた後、妻の痕跡を片付けていた男は、たんすの中、奥深いところに、妻の匂いがしみこんだ日記帳を見つけました。日記帳をひろげようとした瞬間、ポロリと手紙が落ちました。
手紙は、妻が死を予感した後に男に残した遺言のようなものでした。
「サンウの誕生日には写真館に行って写真を一枚撮ってください。そして、化粧台の引き出しにそれによく合う額が入っているので、額に写真を入れて居間にかけてください。同じものを20個買って10個残っているので、20歳になるまでそうしてやってください。戸棚にあるワインはあなたが飲んではだめです。サンウが生まれた年のものだから、新婚旅行に行く時に持たせてください。」
「夏に出勤する時には、日焼け止めを塗るのを忘れないで下さい。そうしないと皮膚が痛んで年よりも老けて見えます。」
「春、秋は虫下しを飲まなければだめよ。あなたもサンウも子犬のようだから。」
「そして一日に一回はサンウを抱きしめて、愛していると言ってやってください。」
ここまで読んで男は涙があふれてしまいました。
妻の言葉は続きました。
「永久歯が出たら、歯科へ行ってフッソ治療を受けるようにしてください。」
「新しい友達ができたらどんな子か、必ず会ってください。」
男の自殺の決心を翻したのは、手紙の一番、最後に書かれた文章でした。
「私が一番、願うことは、あなたが幸福に暮らすことです。」
妻の顔が浮かびました。男は妻の手紙を胸に抱いて、しばらく泣き、そして涙を拭きました。そして、これ以上泣かないと決心しました。男は妻の手紙を心の中に大事に畳んで置き、そしてサンウをつれて写真館に行きました。
写真館のおじさんはサンウの顔をあっちこっちに向けさせました。
「頭を左側に、もう少し、もうちょっと、いいね。そのまま。」
男は、これからは弱い心にならないと決心し、居間の壁にサンウの写真をかけながら明るく微笑みました。
これからは、妻があれやこれやと念を押した事をやってあげないとならないから。男はサンウとその写真を見ながら両手をぎゅっと握りました。
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