ジャコシカ72

2018-09-10 19:49:21 | ジャコシカ・・・小説


 愚かしい芝居は観客席から観ているのさえ耐え難い。不本意にもその場に居合わせることにでも

なったら、別のことを考えているか眠っている振りをするしかない。

 だから、こと男と女の問題については、あやの優美を見る眼は醒めていた。

 一人の女として見れば、優美は師でも上司でもなかった。

 桐山はその後声をかけてこなかった。

 優美の態度にも変化はなかつた。

 あやはほっと胸をなで下ろしていた。

 食事に誘われてから3カ月が過ぎ、季節は夏真っ盛りになり、店は夏物で活況を呈していた。

 あやはあの誘いのことは、完全に忘れていた。桐山にとってあれは、ほんの一瞬の軽い気まぐれ

だったのだろう。

 
 忙しいシーズンの中の休日は待ち遠しい。

 それなのにあやはその日店に出た。

 客からの注文品の手直しが、明日開店と同時刻に渡さなければならなくなったのだ。

 休日出勤はめずらしいことではないし、自分で受け自分でなければ片付かない仕事なので止むを

得ない。

 いつの間にかそんな立場であり、そんな仕事をしているのだと自覚させられる。

 休日のミシン仕事は7階の工房を使う。

 シャッターを下ろした店の工房に一人でいると通りの騒音は遠ざかり、自分が街から遠く離れた

別の世界に隔離された気分になる。

 その感覚をあやは気に入っていた。
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