あの汽車に乗る者は光と闇の点滅の中で煤(すす)臭い空気にむせながら、変な所に引きこまれ、迷いこ
んでいくのを感じるのだという。
今度はそのトンネルの道で途中下車をすることになったのだ。
何だか懐かしい所に帰って行くような気がした。
煙にむせながら汽車はほんの束の間で二人をホームに下ろした。
半分トンネルの中に残したホームの、直ぐ目の前には次のトンネルが口を開けている。
駅舎も無く駅員もいないホームを降りると、そこから海までは急な坂ばかりだ。
入江の家は秘境の隠れた家のただずまいだが、そこへ行くために降りる駅も、その場所に相応(ふさわ)し
い様子をしている。
初めて下り立った人は誰でも、呆然となる。
「いったいここは何処だ」
そんな不安がこみ上げてくる。
高志はいかにもぴったりの始まりに納得して、妙に気持ちが昂るのを覚えた。
何だか子供の世界に戻って行くような気さえした。
前日までに積もった雪は、鉄さんの予想通りまださして深くはなく、せいぜい踝(くるぶし)の上ほどで苦
にはならなかったが、坂の急勾配には泣かされた。
何度も足を取られて尻もちを突かされ、時には崖下に墜落しそうになった。
直にこの道は歩けなくなる。春までは狐や鹿の専用通路で、人は近付けないと言う鉄さんの言葉
には、素直に肯くことができた。
んでいくのを感じるのだという。
今度はそのトンネルの道で途中下車をすることになったのだ。
何だか懐かしい所に帰って行くような気がした。
煙にむせながら汽車はほんの束の間で二人をホームに下ろした。
半分トンネルの中に残したホームの、直ぐ目の前には次のトンネルが口を開けている。
駅舎も無く駅員もいないホームを降りると、そこから海までは急な坂ばかりだ。
入江の家は秘境の隠れた家のただずまいだが、そこへ行くために降りる駅も、その場所に相応(ふさわ)し
い様子をしている。
初めて下り立った人は誰でも、呆然となる。
「いったいここは何処だ」
そんな不安がこみ上げてくる。
高志はいかにもぴったりの始まりに納得して、妙に気持ちが昂るのを覚えた。
何だか子供の世界に戻って行くような気さえした。
前日までに積もった雪は、鉄さんの予想通りまださして深くはなく、せいぜい踝(くるぶし)の上ほどで苦
にはならなかったが、坂の急勾配には泣かされた。
何度も足を取られて尻もちを突かされ、時には崖下に墜落しそうになった。
直にこの道は歩けなくなる。春までは狐や鹿の専用通路で、人は近付けないと言う鉄さんの言葉
には、素直に肯くことができた。