目指せ!映画批評家

時たまネタバレしながら、メジャーな作品からマイナーな作品まで色んな映画を色んな視点で楽しむ力を育みます★

ダークナイト ★★★★

2008-08-18 00:25:19 | ★★★★
ダークナイトはアメリカンコミックヒーローである
バットマンの実写映画「バットマン ビギンズ」の続編です。
「バットマン ビギンズ」のDVDを予習として観ることを強くおすすめします。

アメリカでは7月18日に公開された後、初登場一位、
四週連続一位、既に興業収入で四億ドルを越える
大ヒット(タイタニックに次いで歴代興業収入第二位!)になっています。
スターウォーズやETを越えてるわけですね。
これはすごいことです。

「ブロークバック・マウンテン」で2005年のアカデミー賞主演男優賞に
ノミネートされたことのあるジョーカー役のヒース・レジャーは
今年の1月22日に急逝しており、遺作としても
大変大きな注目を集めているそうです。


前作の詳しい解説はまるでないままに本編が始まるので、予習していなければ、
観客はおいてけぼりになることは間違いありません。
ちゃんと前作のラストの伏線を回収するところから物語が始まります。

また、なんと全編で152分もある大作になっています。
観るときは長い作品であることを頭に入れて鑑賞したほうがいいと思います。
ただ途中からは長さを感じさせない作品ではありますが。

前作からレイチェル役以外、キャストも監督クリストファー・ノーランも
引き継いでおり、ゴッサムシティを舞台にバットマンの活躍が描かれます。

ただ、この映画はバットマンシリーズの続編ではありますが、
登場する悪役(敵役というよりは悪役という表記が似合う)
白塗りの怪人ジョーカーがあまりに強烈で、
単なるヒーローアクション映画を越えたジョーカーの映画、
という印象が強いです。



さて、バットマンというキャラクターはダークヒーローです。

ゴッサムシティで巨万の富を持つウェイン産業の御曹司である
ブルース・ウェイン(クリスチャン・ベール) が通り魔に両親を殺害され、
世界を放浪し、善とは何か、悪とは何かについて苦悩した末に
生まれた正義の執行者がバットマンです。

正義を貫き、街に平和をもたらすためにはより強い恐怖で、悪を裁く。

悪に対して正義の恐怖を植え付けることで、街に平和をもたらそうと、
ブルースにとっての恐怖の象徴であるコウモリの姿をかたどった
コスチュームで、法で裁くことができない犯罪者を捕まえる。

警察という行政手段を無視し、法を越えて独自の倫理観と道徳で犯罪者に
立ち向かうバットマンは当然、道義的社会的には犯罪者であり、
そういう意味でバットマンはダークヒーローなのです。

同じアメリカンコミックヒーローにスーパーマンがいますが、
彼の場合も同様に悪を許さない正義の味方として描かれています。

ただ、スーパーマンとバットマンが大きく違う点に
スーパーマンは違う星からやってきた物理法則を無視する
スーパーパワーを持ちながらも、倫理観の非常に高い宇宙人であるのに対して、
(育ての親は地球人ですが…)バットマンは肉体を鍛えて常人をはるかに
越える身体能力を備えてはいますが、
善悪に迷う普通の人であることが挙げられます。

また、スーパーマンは世界中の事故・事件に首を突っ込む割に
マッハのスピードで飛び去るし、
素顔を晒していますが超能力で顔を見た相手に
素顔を認識・記憶させていません。
自分から進んで明かさない限りは正体不明です。

バットマンは狭いゴッサムを平和にしたいので
活躍の舞台は基本的にゴッサムシティです。
(今回、物語の展開の都合で海外にも行きますが)

また、バットマンの素顔であるブルース・ウェインは
世界的な富豪であり有名人なので、
仮面をぬぎさることは即正体の判明を意味しますし、
正体が判明してしまえば本業に差し支え、
幼馴染みのレイチェル(マギー・ギレンホール)や
執事アルフレッド(マイケル・ケイン)に危害が及ぶために
正体がバレることは絶対に避けなければいけません。
(ビギンズではあっさりとバレる場面もありましたが…)


バットマンは善悪に悩みながら犯罪者を裁きはしますが、
生傷も絶えませんし、火傷だってしますし、
神経ガスを食らったら大ダメージに寝込んでしまいます。

グライダーで空を飛翔したり、ビルからビルを
飛び回ったりすることも出来ますが、墜落して怪我もします。

眼球に拳銃を撃たれても、眼球が弾丸を弾き返し、
落下する旅客機を空中で受け止めるスーパーマンとはわけがちがいます。

ハルクやスパイダーマンにしてもスーパーパワーを持つヒーローです。


バットマンはヒーローではありますが、ただの人間であり、
そこが多くのアメリカンコミックヒーローとは一線を画しているわけです。

いくら巨万の富を持つウェインの資産により
突出した科学的装備に身を包んだバットマン個人の力でも、
所詮普通の自警団気取りの人間1人に都市の犯罪撲滅などできるわけもなく、
どうしても協力者が必要になります。

前作「バットマン ビギンズ」では汚職はびこるゴッサム市警にあって、
正義を貫いているゴードン刑事(ゲイリー・オールドマン)の
協力を得ていましたが、続編では二人に強力な協力者も現れます。

今回の見所はゴードン刑事と協力者である正義の検事ハービー・デント
(アーロン・エッカート)、
バットマンと犯罪者ジョーカー(ヒース・レジャー)の
四者四様の正義と悪の価値観の揺らぎ、ぶつかり合いです。

あまりメイン登場人物が多いと、往々にしてドラマ自体は
希薄なものになりがちですが、今作では各キャラクターの
ドラマを見事に描ききっていて、 好感が持てます。

悪とは何か、正義とは何かを観客に対しても
絶えず問いかけてくる彼らの鬼気迫る演技は
作品に心地よい緊張感を与えています。

ただ、あまりに克明に悪を描いたためにストレスフルな展開です。
悪へのアンチテーゼとしてのバットマンの存在自体への
カウンターとしてのジョーカー。

一作目ラストでゴードン刑事がジョーカーの存在について言及しています。

警察が自動小銃で武装すれば、犯罪者は更に強力な武装を手に入れるように、
バットマンという存在が現れれば
更に強力なカウンターとしてそれは現れる、という台詞。

凄惨なイタチごっこにしかならないのでは、
というゴードン刑事の危惧は今作で顕在化します。

今作のジョーカーはティム・バートンが映画化し、
大ヒットした映画「バットマン」に登場した
ジャック・ニコルソン演じるジョーカーとは
一線を画したキャラクターとなっています。

今作のジョーカーは他のキャラクターにいくつもの選択を迫り、
倫理観を揺さぶり続けます。

そこには「あなたならどうする?」という観客に対する
痛烈な問い掛けが存在しており、
善悪について無分別な子どもには観せるべきではない、
という声が世界中の国々で社会問題として膨らんでいます。

両親の殺害への関与を匂わせた人間への復讐を「助けないことで」
正当化した前作のバットマンですが、
今作ではバットマンという正義の発現に対しても懐疑的ですらあり、
正しい方法、つまり司法の執行=デントの台頭によって
正義が実現されるべきだ、と考えています。

復讐という独善的な正義の発露や利己的な生、排他的な生の在り方を否定し、
民衆1人1人が人間の正義を信じ、希望を持つことが
真の正義を指し示すと考え始めるわけです。


もちろん、バットマンの見所の一つである
道具の数々は今回もきちんと登場します。

前作でそれまでのイメージを覆すデザインと設定で
登場したバットモービルですが、
今回も街中を爆走してくれますし、
更なるギミックも披露してくれます。

また正義の執行のために凄まじいテクノロジーを駆使し、
まさに一歩間違えば悪の権化となるほどの力を使い、悪と戦います。
ブルース・ウェインの活動に理解を示し、
兵器開発に協力してきたウェイン産業の
取締役ルーシャス・フォックス(モーガン・フリーマン)も苦言を呈し、
辞職を示唆するほどのテクノロジーです。

苛烈を極める悪との戦いの壮絶なラストはぜひ劇場で。


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