対話とモノローグ

        弁証法のゆくえ

探究の三段階論

2018-06-13 | アブダクション
『弁証法の系譜』(上山春平著、こぶし書房、2005)をパースに着目して読み直している。「探究の三段階」という表現があることを知った。1905年ころの草稿だという。「私は、いま、探究の三段階における推論過程の正当な根拠に関して、私の到達している結論を述べたいと思う。」
「探究の三段階における推論過程」とは、「アブダクション→ディダクション→インダクション」のことである。パースの最終の定式は次のようなものである。
(引用はじめ)上山が要約したパースの定式をピックアップして引用。
「アブダクション」は、探究の第1段階であり、仮説形成(新しい理論の発見、新しい着想)の過程である。この過程は、現象の観察を起点とし、仮説の発見をへて、仮説の定立におわる。
「ディダクション」は探究の第2段階であり、「アブダクション」の提供する仮説をテストするために、それを論理的推論の前提にくみかえ、そこからあらゆる可能な結論をひきだす過程である。
「インダクション」は、探究の第3段階であり、「アブダクション」の提供する仮説から、「ディダクション」によってひきだされた可能な論理的結論を、事実とつきあわせて、仮説の真理性を確証する過程である。
(引用おわり)
この探究の三段階論はアインシュタインの思考モデルと対応すると想定しているものである。ホルトンはアインシュタインの思考モデルを「EJASE過程」と呼んだが、仮説が確証されることに着目すれば、最後にAを追加して「EJASEA過程」と呼ぶのもよいだろう。このように見ると、探究の三段階と思考モデルは次のような対応になる。思考モデルでは、Aは「公理」となっているが、ここでは「仮説」と考えている。

アブダクション(仮説)  EJA
ディダクション(演繹)  AS
インダクション(帰納)  SEA


単純な対応だが、便利な点は、連結が見やすいことである。仮説Aを段階ごとに確認できる。
このように探究の三段階の定式は受容できるが、パースのアブダクションの定式は、この三段階論においても維持されているのだろうか。疑問としなければならない。

パースのアブダクション(仮説)は、規則と結果から事例を推論するものである。
(1)この袋の豆はすべて白い(規則)、
(2)これらの豆は白い(結果)、
(3)ゆえに、これらの豆はこの袋の豆である(事例)。
これに対して、ディダクション(演繹)は、規則と事例から結果を推論するものである。
(1)この袋の豆はすべて白い(規則)、
(2) これらの豆はこの袋の豆である(事例)、
(3)ゆえに、これらの豆は白い(結果)。
この1アブダクションと2ディダクションをつないでみよう。

1規則・結果・事例――2規則・事例・結果。

三段階論のアブダクションは仮説の形成であり、この仮説はディダクションの出発点となっている。それは「規則」に対応するはずである。しかし、パースの定式の第3項目は「事例」になっていて、ディダクションの第1項「規則」とつながっていない。

パースのアブダクションの定式に立ち入ってみよう。