対話とモノローグ

        弁証法のゆくえ

矛盾の排除

2011-02-27 | 場との対話

 栗原隆氏の『ヘーゲル 生きてゆく力としての弁証法』(NHK出版 2004年)は「論理的なものの三側面」を基礎にしている。それは悟性・否定的理性・肯定的理性の三段階を踏襲している。わたしたちはこのような理性の直列構造を否定し、否定的理性と肯定的理性の並列構造を想定し、「ひらがな弁証法」を構想している。

 栗原氏の見解を取り上げ、わたしたちの立場を対置しておこう。栗原氏の本のなかに興味ある展開がいくつかあるのである。

  1 懐疑論(懐疑論の核心 ―― Zwei)
  2 展開論(ヘーゲルの展開論と自己表出)
  3 矛盾論
  4 規定的否定論

3 矛盾論

 栗原隆氏はヘーゲルの矛盾は論理的なものではなく、懐疑論を継承することから形成されたものであると述べている。

ヘーゲルの考える矛盾とは必ずしも、論理学でいう矛盾の意味ではない。どうしてヘーゲルは、必ずしも矛盾ではないものに、反対でさえないものに、矛盾・対立を見たのであろうか。それは、ヘーゲルが、弁証法的否定の論理を構想する際に、懐疑論に対立や矛盾を構成する作用を見て、これをモデルにしたからに他ならない。 

 このような指摘は心強い。なぜなら、わたしたちもまた、ヘーゲルの矛盾を論理的な矛盾ではなく、スピノザの規定論とカントの二律背反の継承から形成されたと考えているからである。

 わたしたちは弁証法と矛盾はまったく関係がないと考えている。弁証法と矛盾が関係するのはヘーゲルからである。わたしたちはヘーゲルの弁証法の考え方から矛盾を排除して、対話を導入することを試みている。

 わたしたちは「矛盾」の排除を、次の二つの層で考えている。

  1 弁証法を矛盾律を大前提にして構築する

  2 「論理的なものの三側面」の規定を排除する

 弁証法を矛盾律を大前提にして構築することは、ポパーの「試行錯誤の理論」と同じ地平で弁証法を構築していくことを意味する。

 また、「論理的なものの三側面」の規定を排除することは、「矛盾」を弁証法から完全に切り離すことを意味する。ヘーゲルの「矛盾」は「論理的なものの三側面」の規定と対応しているからである。