なにか幽けきゆめをみたりし あかつきにおとろへし藤の花揺れながら
人形はかたりかたりと首たふれ 唄へり淡きテレヴィのおもて
寺院シャルトルの薔薇窓をみて死にたきはこころ虔しきためにはあらず
黄金の杖もつ司教のみちびけるふはふはと白き少年の列
月の夜にわれゆき合へり薔薇に手を灼きて死にけるかのメフィスト……『薔薇窓』、
あやまちて切りしロザリオ転がりし玉のひとつひとつ皆薔薇
死神はてのひらに赤き球置きて人間と人間のあひを走れり
胡桃ほどの脳髄をともしまひるまわが白猫に瞑想ありき
少年はうつむきて流れき山川に茨の枝の暗渠あるところ
茨は青酸の結晶にあらざるか 雪やはらかに降りゐるいま……『原牛』、
にぶきもののおとどこかにあらざりか春夜とてつもなきものおとの
美しき把手ひとつつけよ扉にしづか夜死者のため生者のため
鈴つけし大き白猫のぞきたるまひるの扉故なく忌みたり
病棟に猫ゐしことの恐怖よりしづかなる睡りわれを襲ひぬ……『葡萄木立』、
赤き花抱きよぎれる炎天下いくたびか赤き花のみとなる
両眼をとぢておもへばすなはち盲目とは密雲の如きか
天使は不図おそろしき顔をしたり柱の陰よりこちらを向きて
脳の真中に薄明の谷ありありと ひるのまどろみ ゆふのまどろみ
まざまざと鳥の羽など生えてゐる天使くろがねの鍵をもちて急ぐ
月蝕の夜の室内に坐りをり仄暗き投網にかかれる如く……『朱霊』を収録。
葛原妙子さんの歌集で、既発表のものからの自選歌集。
以前須永朝彦さんの作品のエピグラフに使われているのを見て、気になっていたのを思いだし、読んでみました。
登場するモチーフ、世界観がかなり好み♪
ただゴ○○○を詠まれてるのは、ちょっと…;;
<13/5/9>