ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

戦略論39~マハンの海軍戦略

2022-08-07 13:45:43 | 戦略論
●マハン

◆生涯

 産業革命で石炭を使った蒸気機関を艦船の動力に利用し、船舶の大型化・高速化が進んだ。搭載する大砲も威力を増した。列強は、海軍の増強に力を入れ、大西洋、インド洋、太平洋等の大洋を行きかう各国の艦船が、植民地の獲得を争った。
 1870年代から世界は帝国主義の時代に入った。イギリスに続いて、ドイツ、アメリカ、フランス等が資本主義の生産力に裏付けられた軍事力を用いて勢力を拡大する帝国主義政策を展開した。
 この時代に、海軍戦略(naval strategy)を発展させた軍事理論家の代表的存在が、アルフレッド・セイヤー・マハンである。
 マハンは、アメリカ海軍の軍人・海軍戦略家・歴史家だった。1840年生まれで、1914年の没である。海軍勤務の後、海軍大学校で戦史と戦略を教える教官、後に校長になった。退役後、海軍参謀部、ハーグ平和会議の代表などを歴任した。最終階級は海軍少将である。アメリカ史学協会会長も務めた。

◆マハン以前

 マハンの出現まで、近代西洋文明における戦略論は陸上戦力を中心に書かれた。19世紀末になって初めて海洋戦力の重要性を唱える海軍戦略の理論書を著わしたのが、マハンだった。
 しかし、古代からの世界の戦争史では、海戦は重要な位置を占めてきた。西洋文明を中心に振り返っても、古代のギリシャ対ペルシャのサラミスの海戦、ローマ対エジプトのアクティウムの海戦、16世紀のオスマン対スペインのプレヴェザの海戦、オスマン対ヨーロッパ連合のレパントの海戦、イギリス対スペインのアルマダの海戦、19世紀のナポレオン戦争におけるトラファルガーの海戦等、海戦の勝敗はしばしば国家の興亡、文明の盛衰の転機となった。だが、海戦は軍事の実務として行われてきたようで、海軍戦略の理論書は、古代から近代までどの文明でも現れなかった。これは軍事思想の発達で世界の歴史に冠たるシナ文明でも同様である。
 シナ文明は、15~16世紀の明の時代に、世界最大規模の海軍を持っていた。鄭和は、15世紀の前半に7回にわたって大艦隊を率いて南海諸国を巡航した。インド洋を渡ってアフリカ東岸にまで至った。インド洋への第1次航海の際の旗艦は、マストが9本あり、全長125メートルの巨大な木造帆船(ジャンク船)だったと言われる。15世紀末に大西洋を渡ったコロンブスのサンタマリア号は全長27メートル、喜望峰を回ったヴァスコ・ダ・ガマのサン・ガブリエル号は全長26メートルというから、鄭和の船は、その5倍近い長さだった。当時のシナ文明の海軍は世界史上最強の海軍だった。だが、シナ人は海軍戦略の理論書を残さなかった。
 マハンの登場によって、ようやく海軍戦略の重要性が理論的に提示されたのである。

◆著書

 マハンの著書としては、彼の講義録をまとめた『海上権力史論』(1890年)が有名である。海上権力は、シーパワー(sea power)の訳語である。パワーは「権力」の他に「強国」を意味するから、シーパワーは、強い海軍力を持つ国家を意味し、海洋国家、海軍強国等とも訳し得る。
 マハンは『海上権力史論』の他、『1793~1812年のフランス革命および同帝国に及ぼした海軍力の影響』『ネルソン伝』等を通じて、海軍力の歴史的役割とその支配的な影響力を明らかにした。彼の研究は、海軍兵学だけでなく近代の国際政治の上にも強い影響を与えた。

 次回に続く。

************* 著書のご案内 ****************

 『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1
 『人類を導く日本精神~新しい文明への飛躍』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/cc682724c63c58d608c99ea4ddca44e0
 『細川一彦著作集(CD)』(細川一彦事務所)

************************************

最新の画像もっと見る

コメントを投稿