ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

米国対イラン戦争に備えよう

2019-07-15 13:31:22 | 国際関係
 6月13日ホルムズ海峡近くで日本とノルウェーのタンカー2隻が何者かによって攻撃を受けた。安倍首相がイランを訪問し、米国とイランの間の緊張の緩和を図っていたまさにその時の出来事だった。20日には米国の無人偵察機グローバルホークがイラン付近の海上で撃墜された。これによって、米国とイランの間の緊張が一層高まった。米国とイランの主張は真っ向から対立しているが、いずれもイランの革命防衛隊の関与が疑われている。今度は今月11日に、イギリスのタンカーがイランの革命防衛隊によって拿捕しようとした。イギリスの護衛艦がタンカーを守ったが、もしそのような機動力を持たない国のタンカーが狙われたら、大きな事件になる。とりわけわが国にとっては、ホルムズ海峡はまさに生命線である。ホルムズ海峡で紛争が起こったり、この海峡が封鎖されるような事態が生じたら、死活問題になる。遥か遠い彼方の事案ではなく、すぐそこで起こっているのと同じか、それ以上の影響力を持つ事案であることを、日本人はしっかり認識する必要がある。
 さて、ここ1か月の間に、米国・イラン情勢について様々な報道がされて来た中で、私は6月28日付の産経新聞に掲載された湯浅博氏の記事は、情勢を大きくとらえた優れたものと思う。
 湯浅氏は「実際に、中東地域に戦火が広がれば、過去の経験則からしてアジア太平洋の米軍基地はガラ空きになる恐れがある。そこには、米国とイランの軍事衝突を「戦略的好機」ととらえる武装組織のほか、何より全体主義の第三国が息をひそめて凝視している」と書いている。
 この「全体主義の第三国」とは、もちろん中国である。米国との貿易戦争で追い込まれている中国にとって、米国がイランに力をシフトすれば、状況を切り返す好機が生まれる可能性がある。
 湯浅氏は「今、米国とイランが軍事衝突を起こせば、過去20年と同じ優位性を中国に与えることになるだろう」と書いている。これは長期的な観点に立って述べているもので、「過去20年」とは、2001年のアメリカ同時多発テロ事件、いわゆる9・11以後のことを言っている。正確には、17年と10か月ほどの期間のことである。
 湯浅氏は、「米軍が9・11をきっかけとして、アフガンからイラク攻撃に転戦したことで、中国には願ってもない展開となった」。当時、ブッシュ政権は南シナ海における「中国の軍事的な台頭を意識して、すでに対中封じ込めを意識してた」。ところが、米国が中東に力をシフトしたことで、中国は「強面の米軍のいないアジア太平洋で、安心して軍拡に着手した」。そのうえ、「米国は北朝鮮の核ミサイルを開発を封じる対北圧力も、中国に依存せざるを得なく」なった。
 湯浅氏は、このように、9・11以後の米中関係をとらえている。この時、米中関係の間に加わった要素は、中東、具体的にはアフガニスタン・イラク及びイスラーム・テロ勢力だった。米国・中国・中東の三つの要素の相互関係が、中国に有利に働いたわけである。
 今度は、この中東の要素がイランに置き換わっている。繰り返しになるが、湯浅氏は「今、米国とイランが軍事衝突を起こせば、過去20年と同じ優位性を中国に与えることになるだろう」と見ている。そして、「南シナ海や東シナ海における力の空白は、中国の拡張主義をさらに活発化させる。アジア協会政策研究所のネイサン・レバイン研究員は、偶発戦争が全面戦争に至れば、米国の相対的な後退により、『中国の世紀の始まりになる』と警告している」と述べている。
 湯浅氏は、下記のサイトにも関連する記事を書いている。
https://jinf.jp/weekly/archives/25303

 私見を述べると、今回、ホルムズ海峡でタンカーが攻撃されたり、拿捕されようとしたことには、イランの挑発的な意図が感じられる。これに対して米国が軍事行動を以って応えた場合、湯浅氏やレバイン氏が懸念するような事態に発展する恐れがある。
 米国に反旗を翻すイラン、中国、北朝鮮が、トランプ政権に対応するために連携して動いている可能性も考慮に入れるべきだろう。イランは中東随一の地域大国である。アフガニスタンやイラクで手を焼いた米国にとって、到底簡単に抑え込める相手ではない。イスラーム教諸国では少数派のシーア派国家だが、シリアやロシアと手を結んでいる。核兵器を完成させてはいないが、完成可能な技術水準に近づいており、背後で核保有国の中国や北朝鮮が支援していると見られる。
 また、もし将来、中国が台湾に侵攻し、これを略取しようとしたり、尖閣諸島を奪取しようとする時、米国の軍事力の多くを中東に集中させる状況を作り出したうえで、軍事行動を起こすことも考えられる。
 わが国は、米国対イラン戦争の勃発、ホルムズ海峡の通行障害、石油危機、尖閣諸島への中国による侵攻に対して、国家の存立、民族の興亡を賭けて、備えをしなければならない。
 平成28年(2016)3月29日に施行された安全保障関連法は、重要影響事態を規定した。重要影響事態は、従来朝鮮半島有事や台湾海峡有事などを想定していた周辺事態の概念を改めたもので、放置すれば日本の直接の武力攻撃に至るなど日本の平和と安全に重要な影響を与える事態を意味する。同法は、事態が発生する地域を、日本周辺に限定せず、自衛隊の活動範囲に対する地理的制約をなくした。また、重要影響事態と判断されれば、日本の安全保障に資する活動をしている他国軍であれば、米軍に限らず、どの国の軍隊でも、弾薬提供や発進準備中の戦闘機への給油などの後方支援が可能になっている。日本のシーレーン(海上交通路)に位置する中東での事態は、同法によって重要影響事態が認定される可能性がある。
 だが、米国対イラン戦争の勃発、ホルムズ海峡の通行障害、石油危機といった展開になった場合、わが国が適切な対応をできるかどうかは、わからない。戦後のわが国はそういう経験をしてきていないからである。また、安全保障関連法は現行憲法の規定のもとで立法されたものであって、わが国の国防は現行憲法によって厳しく制約されている。実際にシーレーンの通行危機が起こった時、国家の安全と国民生活の安定を保持できるかどうかには、大きな疑問がある。そこで、わが国の必須の課題が憲法の改正である。
 安倍首相は、本年(2019年)1月30日通常国会の代表質問に答えて、憲法改正の必要性を訴えた。自民・維新は前向きだが、公明・立民は憲法改正に触れもしなかった。4月に衆院憲法審査会がようやく開かれたが、ほとんど内容のある話はされていない。国民は国会で憲法改正の議論がされるように求めていかなければならない。7月21日に参議院議員選挙がある。自民党は、公約に「早期の憲法改正」を盛り込んだ。これまで以上に踏み込んだ表現である。参議院は任期6年で、半数ずつ改選がされる。憲法改正に必要な改憲勢力が3分の2以上の議席を維持できないと、以後、3年間は憲法改正ができなくなる。その間に、米国対イラン戦争が勃発したり、中国による尖閣諸島侵攻が起こった場合、憲法を改正して対応することはできない。日本国民は、このことをよく考えて、参院選挙に臨むべきである。このたびの国政選挙で、国民は日本と自らの安全と繁栄のために正しい選択をして、憲法改正反対勢力を国会から除いていかねばならない。

************* 著書のご案内 ****************

 細川一彦著『超宗教の時代の宗教概論』(星雲社)
https://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/d4dac1aadbac9b22a290a449a4adb3a1

************************************

最新の画像もっと見る

コメントを投稿