ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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「郵政改革案」への疑問1

2010-04-08 12:31:24 | 時事
 民主党連立政権は「郵政改革案」をまとめ、今月20日に国会に提出する予定だという。「改革」と称しているが、根本的にどうしたいのか、私は首をかしげている。
 4月7日の産経新聞「今日の突破口」に、ジャーナリストの東谷暁氏が「とても納得できない」と郵政改革案の問題点を指摘している。私が疑問を感じる点も多く挙げている。
 私は、小泉ー竹中政権の郵政民営化案に反対だった。アメリカの要望による民営化であり、市場原理主義のゴリ押しである民営化に対し、民利国益という点から反対した。民営化のプロセスでの「かんぽの宿」の叩き売り等についても、折々に批判してきた。こうした私が郵政問題で学ぶことが多いのが、東谷暁氏である。
 東谷氏は、郵政民営化に対し、きちんとした論拠もって反対した数少ない有識者の一人である。氏の著書「民営化という虚妄」(祥伝社)は、郵政論議に重要な一石を投じた。平成17年3月の刊行当時、郵政民営化には推進論も反対論もさまざまあり、極めて分かりにくい状況だった。問題の根本を初めて整理してくれたのが、「民営化という虚妄」だった。ここにその内容を書くと長くなるので、その説明は次回に回す。

 小泉ー竹中政権によって郵政民営化が行われた。その後、昨年9月、衆議院選挙が行われ、自民党が大敗し、民主党が歴史的な政権交代を行った。民主党は国民新党・社民党と連立を組んだ。このとき、国民新党の基本政策である郵政民営化の見直しを、連立政権の政策の一つにした。国民新党の亀井静香代表が、郵政改革・金融改革担当相となった。
 連立政権は、同9月郵政民営化見直し案の骨子を発表した。持ち株会社の日本郵政が、郵便局会社と郵便事業会社の2社を吸収合併し、傘下にゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の金融2社を残す体制とすることが柱だった。国には日本郵政株を3分の2超、日本郵政に対しては金融2社の株式を3分の2超、それぞれ保有することを義務づける。この時点では、郵便、貯金、簡易保険の郵政3事業に対し国が絶対的な支配権を持つ形とし、小泉政権以降の郵政民営化の流れを抜本的に転換するという方針だった。
 昨年12月、亀井大臣のもと、日本郵政と傘下のゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の株式売却を停止する日本郵政株式売却凍結法が成立した。亀井氏は「4年前の暴挙である郵政民営化の心臓部を凍結した。見直しの第一歩が始まった」と評価した。私は、郵政民営化に関し、特に株式の売却の危険性を感じていたので、この凍結法は評価している。しかし、このたび亀井大臣が出した改革案には、疑問点がある。その一つが、ゆうちょ銀行の預入限度額を、現在の一人当たり1千万円から2千万円に引き上げるという案である。

 見直し案を実施すると、金融業務のユニバーサル(全国一律)サービス、非正規社員約10万人の正規採用などで年間4千億円超のコスト増が出る。利益の約6割を稼ぎ出す金融事業の収益拡大のためには、限度額の引き上げが不可欠というのが、その発想だという。だが、限度額の引き上げは、地方銀行や信用金庫等から資金がゆうちょ銀行に流れ、これらの地域金融機関に大打撃となるだろう。倒産する金融機関が続出するのではないか。それで地域経済の活性化になるのか。
 民主党連立政権には、集めた資金を公共事業に流用する計画もあるようだ。しかし、日本郵政が民間企業のままで、市場から集めた資金の運用について政府が指示することは可能なのか。またそれが事業体の経営として健全なのか。現政府は、子ども手当や高校無償化などバラマキ政策ばかりで、成長政策がない。自民党政権以上に財政赤字を増大させることは確実である。預入限度額の引き上げは、民主党がバラマキ政策で有権者の票を集め、政権を維持する方策なのではないか。
 そのほかいろいろな疑問があるが、東谷氏が問題点を多く指摘しているので、次にその記事を掲載する。

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●産経新聞 平成22年4月7日

今日の突破口

ジャーナリスト 東谷暁

ゴミ扱いの郵政問題

 私は小泉政権の郵政民営化に反対したが、いまの連立政権による「郵政民営化の見直し」にはとても納得できない。そもそも最初は弊害を生み出した民営化の「見直し」であったものが、いつのまにか郵政「改革」と呼ばれるようになったことにもあきれている。
 たとえば、先日、すったもんだの揚げ句に、郵貯の上限が2千万円に引き上げられたが、その数値の妥当性を示す根拠は何も挙げられていない。また、この引き上げが、不況であえぐ地域金融機関にどれほどの影響を与えるかの予測すら提示されていない。
 郵政担当相や総務相は、引き上げによって得られた資金を、公共投資に回すことを示唆しているようだが、郵政を民間企業のままにしておいて、そこまで政府の指示に従わせることが果たしてできるのかは疑問だろう。
 ところが、その一方では、ゆうちょ銀行や、かんぽ生命保険の親会社による株式保有は3分の1にして、なるだけ多くの上場益を得ようというのだ。しかし、公共投資で資金運用する金融機関の株式を将来の利益で価格が決定される市場に放出するというのは株主に対する裏切りだろう。
 要するに、いまの郵政「改革」は、郵政を公益性の高い事業体としてとらえるのか、利益を追求する一般企業にしてしまうのか、そんな基本的なことすら、まだ姿勢が定まっていないのである。
 いまの郵政に関する報道も混乱が多く、しばしば小泉政権の民営化が生みだした問題と、今度の「改革」で生まれる問題を取り違えている。小泉政権が民営化で資金の流れが「官から民へ」変わるといったのは、いまの財政赤字のもとではうそに等しく、事実、民営化されてからのほうが郵貯による国債の保有率も上昇している。
 また、「ゆうパック」が惨憺たる状態に陥ったのは民営化が後退したからではなく、乱暴な民営化が従来の郵便局のシステムを破壊したからだ。さらに、「かんぽの宿」の異常な価格でのたたき売りは、同施設がまったく見込みのない事業だからなどではない。
 先月発表された会計検査院の「報告書」でも、「かんぽの宿」は、他のホテルや旅館に比べてはるかに安い宿泊料を10%上げて、削減の余地が大きい経費を10%下げるだけで、黒字に転化する可能性は高いと予測している。
 民営化が決定されてから「かんぽの宿」の簿価は急激に下落したが、報告書は、減損会計を適用したからと述べた西川前社長による説明も、まったく「合理的」ではないと指摘した。低い簿価を妥当だといいつのった民営化支持者も多かったが、この異常な簿価引き下げは「会計スキャンダル」だと指摘した私には、きわめて納得のいく結論だった。こうした混乱や欺瞞を正しつつ改善するのが「見直し」であったはずである。
 政策決定が非合理的であることを説明する政治学の理論は「ゴミ箱モデル」といわれている。まったくばらばらにほうり込まれたゴミが、ゴミ箱のなかで一緒くたに処理されるというわけだ。
 考えてみれば、いまの民主党を中心とする与党は「ゴミ箱」のようなものではないか。そして日本国民の大きな課題である郵政問題は、まるでゴミのように粗雑に処理されようとしているのである。(ひがしたにさとし)
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 東谷氏が指摘している主な点を、次のように整理できよう。

① 郵政を公益性の高い事業体とするのか、利益を追求する一般企業にするのか、基本的なことすら未定。
② 郵貯の上限を2千万円に引き上げるという数値の根拠が不明。
③ 引き上げが地域金融機関に与える影響に関する予測が提示されていない。
④ 民間企業のままで、政府が資金を公共投資に回すよう指示して従わさせられるかは疑問。
⑤ ④の一方、親会社による株式保有は3分の1に抑えて、できるだけ多くの上場益を得ようというのは矛盾。
⑥ 公共投資で資金運用する金融機関にして、株式を市場に放出するのは、株主への裏切り。
⑦ 「ゆうパック」の惨憺たる状態は、乱暴な民営化が従来の郵便局のシステムを破壊したため。その混乱の是正が未了。
⑧ 宿泊料10%上げ、経費10%下げで黒字転化可能な「かんぽの宿」をたたき売りした問題が未解決。
⑨ 民営化決定後に「かんぽの宿」の異常な簿価引き下げをした「会計スキャンダル」が未解決。

 いかにいい加減な形で、連立政権による「郵政改革」がされようとしているか、わかるだろう。しかし、郵政問題を根本的なところから理解するには、補足が要る。その点を次に書く。

 次回に続く。

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