ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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人権145~西と東のナショナリズム

2015-04-26 08:47:27 | 人権
●西/東とシビック/エスニックという分け方
 
 次にナショナリズムの類型について述べる。はじめに代表的な論者の類型論を検討し、その後に私の所論を提示する。
 ナショナリズムの先駆的な研究をした歴史学者のハンス・コーンは、ナショナリズムを「西(West)のナショナリズム」と「東(East)のナショナリズム」に分けた。
 コーンの「西」は、イギリス、アメリカ、フランス、オランダ、スイス等の西欧世界を意味し、「東」はドイツを含む東欧、中欧、アジア等の西欧以外の世界を意味する。
 コーンによると、西のナショナリズムは、17世紀イギリスのピューリタン革命で始まったもので、個人の自由を尊重し、また合理的である。それが、フランスの1789年市民革命と1848年二月革命を通じて、東欧、中欧に波及した。東のナショナリズムは、個人の尊厳よりも集団の権力を強調し、また非合理的である。西のナショナリズムは市民階級による政治的運動として始まったが、東のナショナリズムは学者や詩人による文化的運動として始まった。ドイツを含む東欧、中欧では、市民階級がまだ成長しておらず、政治的発言力が弱かったからである。
 このように説いたコーンの西/東という分類は、コーンに続く研究者に強い影響を与えた。ナショナリズム論の論者の多くは、この分類を継承している。私は、西/東という地理的な名称による分け方は、空間的でわかりやすいが、西/東の分岐点がはっきりしないし、特徴を端的に示していない弱点があると思う。
 アンソニー・スミスは、西/東という分類に別の要素を加えている。スミスは、ネイションを「市民的・領域的なネイション」と「エスニック・系譜的ネイション」に分ける。「市民的・領域的なネイション・モデル」は「西欧型」ともいう。この型は、「ある種のナショナリズム運動」すなわち「独立以前における反植民地運動、独立以後における統合運動」を生み出す傾向があるとする。他方、「エスニック・系譜的なネイション・モデル」は、ドイツを中心とした「東欧型」ともいう。この型は、「独立以前は分離主義的あるいはディアスポラ的な運動」、「独立以後は領土回復主義あるいは『汎』運動」を生み出す傾向があるとする。スミスは、この「類型論」によって「多くのナショナリズムの基本的論理が捉えられる」と述べている。
 スミスは、こうしたネイションの類型論をもとに、ナショナリズムの分類を行い、ナショナリズムを「領域的ナショナリズム」と「エスニック・ナショナリズム」に分ける。「領域的ナショナリズム」は、「市民的・領域的ネイション」に対応する。「エスニック・ナショナリズム」は「エスニック・系譜的なネイション」に対応する。
 スミスは、これらについて独立以前、独立以後という分け方をしているので、その主旨を示すと、スミスは、領域的ナショナリズムの独立以前の型として、反植民地型ナショナリズムを挙げる。「まず外国の統治者を追放し、ついで旧植民地を新しいステート・ネイションに置き換えようとする」ものである。独立以後の型としては、統合型ナショナリズムを挙げる。「しばしば異なるエスニック集団を結合して新しい政治共同体に統合し、また旧植民地国家から新しい「領域的ネイション」を作り出そうとする」ものである。
 スミスの領域的なナショナリズムとエスニックなナショナリズムという分け方は、地理的な西/東と異なり、思想・運動の特徴を表現できている。ただし、前者はシビック(市民的)なナショナリズムと呼んだ方が、性格の対比が明瞭になる。そこでこれをシビックなナショナリズムとすると、シビック/エスニックという対になる。私見を述べるため、家族型の理論を加えると、自由至上の価値観を持つ絶対核家族のイギリス、アメリカと、自由・平等の価値観を持つ平等主義核家族のフランスは、自由を価値とする個人主義が強く、これをシビックなナショナリズムと見ることができる。これに対し、権利・不平等の価値観を持つ直系家族のドイツ、日本、権威・平等の価値観を持つ共同体家族のロシアでは、権威を価値とする集団主義が強く、これをエスニックなナショナリズムと見ることができる。
 次に、スミスは、エスニック・ナショナリズムには、独立以前の型として、分離型とディアスポラ型があるとする。これらは「より大きな政治的単位から分離し、あるいは分離したうえで指定されたエスニックの故国に結集し、その場に新しい政治的『エスノ・ネイション』を創設する」ものだという。「エスノ・ネイション」は、エスニックなネイションを一語にしたものである。スミスは、独立以後の型には、民族回復型と「汎」型のナショナリズムがあるとする。これらは「『エスノ・ネイション』の現在の境界線の外側にいるエスニックの『同族者』と彼らが居住する土地を包含したり、また文化的にもエスニック的にも近似性の高いエスノ・ナショナル諸国の連合を通じて、さらにもっと大きな一つの『エスノ・ナショナル』国家を形成することによって拡張しようとする」ものだという。このうち、スミスのいう「汎」型として、汎ゲルマン主義や汎スラブ主義、汎アメリカ主義等が挙げられよう。

 次回に続く。

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