ほそかわ・かずひこの BLOG

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キリスト教231~各教派における見解と意見対立

2019-07-30 13:42:06 | 心と宗教
●各教派における見解と意見対立

 PRCが行うような意識調査は、一般の国民に対して意見を問うものだが、その回答の傾向と、キリスト教の各教派やその聖職者、神学者の見解は必ずしも一致しない。
 米国では少数派だが、世界的にはキリスト教の最大の教派であるローマ・カトリック教会から見てみよう。PRCの先の調査では、カトリックの信徒は同性愛に「容認」が70%で、主流派プロテスタントの「容認」66%より、同性愛に対して肯定的な意見が多く、同性結婚に「賛成」が57%で、これは主流派プロテスタントと同率だった。だが、これは米国特有の傾向であり、ローマ・カトリック教会が同性愛・同性結婚に肯定的な教義を打ち出しているのではない。
 ローマ・カトリック教会において、同性愛行為は自然法に反し、性行為を生命の恵みから遠ざける罪深いものである。肛門性交、自慰、姦淫等の性的に逸脱的行為とし、いかなる条件下においても容認されないとする。人間の両性の相補性、すなわち男女の結合を神の意思であるとし、同性愛行為はこの意思に反するものとする。また、同性結婚の法制化に反対している。
 2005年に教皇になったベネディクト16世は、人工妊娠中絶、同性愛、避妊等についていずれも断固反対の立場を示した。彼の指導のもと、教理省は同性愛者が聖職に就くことを禁じるための手引き書を発表し、「根深い同性愛傾向を示す者」「いわゆる『ゲイ・カルチャー』を支持する者」「過去3年間にそうした傾向を示した者」は、神学校への受け容れを禁じ、また聖職にも任じないことを明らかにした。
 ただし、カトリック教会は、同性愛者への迫害や差別には反対している。カトリックのカテキズムに定められた公式の教義は、同性愛行為に及べば宗教上の罪となるが。同性愛の欲求を持っているというだけでは罪ではなく、むしろ尊重されるべきとしている。同性に惹かれる者がいる現実を認め、同性愛者は敬意と憐み、思いやりをもって受け入れられねばならないとし、彼らに対する不当なあらゆる差別が排除されるべきであるとして、同性愛者への迫害や暴力に反対している。現在の教皇フランシスコも同趣旨の発言をしている。
 ヴァチカンの公式見解に対しては、一部の聖職者や神学者などには、同性愛・同性結婚を認める方向に見直しを求める意見もある。公式見解に異論を唱え、同性愛者に対して同性愛行為がカトリックの教義に反しないという誤まった認識を与えているとか、同性愛の問題について教会の立場とは異なった説教を続けていたとの理由で、カトリック教理省によって懲戒を受けた聖職者もいるとされる。
 カトリック教会では、教会の見解は決定的で検討の余地のない、権威ある教義と見なされており、世界的には、カトリック信者の大多数は、同性愛・同性結婚に関する公式見解を支持しているものと見られる。だが、米国では、カトリック信者は、同性愛・同性結婚に肯定的な意見を持つ者が過半数となっている。これは、個人の自由と権利を尊重する米国社会の特徴の現れだろう。
 ロシア正教では、モスクワ総主教キリル1世が、同性愛について、宗教上の罪として反対するが、同性愛者に対する迫害・差別は認めないとする見解を出している。
 主要教派の内で最も意見の対立が見られるのは、英国国教会の系統に属する聖公会である。同性愛について保守派とリベラル派の見解の違いが大きく、組織の大規模な分裂さえ起こっている。米国聖公会やカナダ聖公会では、同性愛を肯定し、同性結婚を祝福したり、公然たる同性愛者に主教が按手したりしている。こうしたリベラルな姿勢に対して、神学的伝統を守ろうとする保守派が反発して多数離脱し、2009年6月に北米聖公会が樹立された。
 こうした時期に、ローマ・カトリック教会は、2009年10月、同性愛者の按手及び結婚祝福、女性聖職者に対して不快感を持つ人を受け入れるという使徒憲章を公布すると発表した。聖公会側は、この発表により、同会の保守的な信徒が、同性愛・同性結婚・女性聖職者を認めないカトリック教会へ移る恐れがあると感じたのだろう。カンタベリー大主教ローワン・ウィリアムズは、急遽同年11月、ローマ教皇ベネディクト16世とヴァチカンで会談を行った。ヴァチカンはこの会談を「心のこもった」とし、ウィリアムズ大主教は「友好的」と評価したが、共同声明は出されなかった。大主教は「憲章の発表の扱われ方に懸念している」「明らかに多くの国教会信徒は、わたし自身を含め、当面やっかいなことになったと感じている」と述べた。バチカン・ウォッチャーのブルーノ・バルトローニは、会談の結果、カトリック・聖公会の双方がエキュメニズムは失敗したと認めたと見て、カトリック教会は女性司祭や司教の問題で決して妥協しないことを明らかにしたことにより、「聖公会の保守派がカトリック教会に行くことになるだろう」と述べた。
 当時、キリスト専門サイト『クリスチャン・トゥデイ』は、「現在、国教会の450小教区(教会)が離脱しローマへの帰属を検討中という」と伝えた。記事は、カトリック教会への移行には、教会堂などの財産問題があり、カトリック教会側が買い取ろうとしても国教会側に売却の意思がなければ賃借という案もあるが、修理や維持の費用をどうするかなども難題だと報じた。
 プロテスタントの教派では、アメリカ福音ルター派教会において、同性愛に対する認識を巡り、分裂が顕在化していると伝えられる。

 次回に続く。

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