●丹羽氏の高橋案・田村案への論評
丹羽氏は、高橋洋一氏、田村秀男氏の政府紙幣発行論をどのように論評しているだろうか。
丹羽氏は、平成21年(2009)4月、「政府紙幣発行問題の大論争を総括する」という論文を発表し、自らの見解を明らかにしている。
「実は、政府紙幣を新規に発行するという高橋氏・田村氏の政策案には、見逃しえない問題点がある」と丹羽氏は指摘する。「ちょっと考えればすぐわかるように、現行の日銀券と併行的に、新規に政府紙幣を実際に発行・流通させるためには、国内に無数に存在する種々様々な自動販売機やATMなどを全てやり換えねばならない。このことをとってみただけでも、諸種の社会的トラブルがきわめて数多く発生するであろうということは、明らかなところであろう。しかも、現在の日銀券の流通額が約76兆円程度のものなのであるから、それに加えて新規に政府紙幣を数十兆円、数百兆円も発行・流通させることは無理である。高橋洋一氏が提言している25兆円でも、かなり難しい。そして、肝心の景気振興政策の規模そのものが、その額に制限されてしまい、しかも線香花火のように短期的に一回だけ実施される施策にすぎないというのであれば、現下の大不況を克服するには、あまりにも非力である。ましてや、800兆円を超す国家負債の処理ということにまでなると、まったく役に立たない」と言う。
丹羽氏は、自らについて、「私自身(丹羽)は、十数年も以前から、『国(政府)の貨幣発行特権』(seigniorage、セイニャーリッジ権限)の発動によって国の財政危機を救い、わが国の経済の興隆をはかれと提言し続けてきた者であり、いわば元祖である」と述べる。そして、次のように言う。
「しかし、私は、『国(政府)の貨幣発行特権』を活用するやり方としては、政府紙幣を刷らないで、しかも、トラブル的な問題も起こさずに政府財政のための『打ち出の小槌』となるような、『スマートで容易な方式があるよ!』と指摘・詳述し、それを採用・実施することこそが『救国の秘策』のための秘策であると、今日まで提言し続けてきたのである」と。
ここが重要な点で、丹羽氏は政府紙幣つまりお札を印刷して流通させるという案ではない。
「『スマートでトラブル的な問題も起こさない容易な方式』とは、国(政府)が無限に持っている無形金融資産である貨幣発行特権のうちから、所定の必要額ぶん(たとえば、500~600兆円ぶん)を、政府が(ある程度はディスカウントでもして)日銀に売り、其の代金は、日銀から政府の口座に電子信号で振り込むことにするというやり方である。しかも、このことは、現行法でも、十分に可能なことである。この方式であれば、新規の「政府紙幣」をわざわざ印刷・発行するようなことをしなくても、そして、言うまでもなく、増税をするわけでもなく、政府の負債を増やすこともなく、事実上、政府の財政財源のための無限の「打ち出の小槌」が確保されることになるのである」
それゆえ、政府貨幣発行特権の発動には、政府紙幣を印刷する政府紙幣発行論と、電子信号振込み論がある。前者と後者は混同されてはならない。
丹羽氏は、次のようにも書いている。「実は、私自身は、『国(政府)の貨幣発行特権』という『打ち出の小槌』を財政財源として活用するための、私自身が推奨・提言してきたやり方を、単なる緊急処置的な劇薬の一回限りの投与だなどとは、毛頭、考えていない。マクロ的なデフレ・ギャップ、インフレ・ギャップの正しく注意深い計測と観察を怠らずに、採用・実施するのであれば、それを長期的に常用することによってこそ、わが国の経済と財政は、きわめて健全化され、活力に満ちて興隆への軌道に乗るはずだと、私は論証し続けてきた。正統派的なケインズ主義的総需要管理政策の理論構成からすれば、そう考えざるをえないのである」と。
そして、丹羽氏は自らについて、次のように述べる。「すなわち、私は、高橋洋一氏や田村秀男氏が提言してきたようなレベルよりも、さらに踏み込んで、はるかにスケールの大きな高次元の財政政策・経済政策システムを構想し、それを実現すべきだと提言してきたわけである」と。
エコノミストであれ素人であれ、丹羽氏の主張を批評するには、高橋氏・田村氏との方法と理論の違いを認識した上で批評する必要があることを強調しておきたい。
次回に続く。
丹羽氏は、高橋洋一氏、田村秀男氏の政府紙幣発行論をどのように論評しているだろうか。
丹羽氏は、平成21年(2009)4月、「政府紙幣発行問題の大論争を総括する」という論文を発表し、自らの見解を明らかにしている。
「実は、政府紙幣を新規に発行するという高橋氏・田村氏の政策案には、見逃しえない問題点がある」と丹羽氏は指摘する。「ちょっと考えればすぐわかるように、現行の日銀券と併行的に、新規に政府紙幣を実際に発行・流通させるためには、国内に無数に存在する種々様々な自動販売機やATMなどを全てやり換えねばならない。このことをとってみただけでも、諸種の社会的トラブルがきわめて数多く発生するであろうということは、明らかなところであろう。しかも、現在の日銀券の流通額が約76兆円程度のものなのであるから、それに加えて新規に政府紙幣を数十兆円、数百兆円も発行・流通させることは無理である。高橋洋一氏が提言している25兆円でも、かなり難しい。そして、肝心の景気振興政策の規模そのものが、その額に制限されてしまい、しかも線香花火のように短期的に一回だけ実施される施策にすぎないというのであれば、現下の大不況を克服するには、あまりにも非力である。ましてや、800兆円を超す国家負債の処理ということにまでなると、まったく役に立たない」と言う。
丹羽氏は、自らについて、「私自身(丹羽)は、十数年も以前から、『国(政府)の貨幣発行特権』(seigniorage、セイニャーリッジ権限)の発動によって国の財政危機を救い、わが国の経済の興隆をはかれと提言し続けてきた者であり、いわば元祖である」と述べる。そして、次のように言う。
「しかし、私は、『国(政府)の貨幣発行特権』を活用するやり方としては、政府紙幣を刷らないで、しかも、トラブル的な問題も起こさずに政府財政のための『打ち出の小槌』となるような、『スマートで容易な方式があるよ!』と指摘・詳述し、それを採用・実施することこそが『救国の秘策』のための秘策であると、今日まで提言し続けてきたのである」と。
ここが重要な点で、丹羽氏は政府紙幣つまりお札を印刷して流通させるという案ではない。
「『スマートでトラブル的な問題も起こさない容易な方式』とは、国(政府)が無限に持っている無形金融資産である貨幣発行特権のうちから、所定の必要額ぶん(たとえば、500~600兆円ぶん)を、政府が(ある程度はディスカウントでもして)日銀に売り、其の代金は、日銀から政府の口座に電子信号で振り込むことにするというやり方である。しかも、このことは、現行法でも、十分に可能なことである。この方式であれば、新規の「政府紙幣」をわざわざ印刷・発行するようなことをしなくても、そして、言うまでもなく、増税をするわけでもなく、政府の負債を増やすこともなく、事実上、政府の財政財源のための無限の「打ち出の小槌」が確保されることになるのである」
それゆえ、政府貨幣発行特権の発動には、政府紙幣を印刷する政府紙幣発行論と、電子信号振込み論がある。前者と後者は混同されてはならない。
丹羽氏は、次のようにも書いている。「実は、私自身は、『国(政府)の貨幣発行特権』という『打ち出の小槌』を財政財源として活用するための、私自身が推奨・提言してきたやり方を、単なる緊急処置的な劇薬の一回限りの投与だなどとは、毛頭、考えていない。マクロ的なデフレ・ギャップ、インフレ・ギャップの正しく注意深い計測と観察を怠らずに、採用・実施するのであれば、それを長期的に常用することによってこそ、わが国の経済と財政は、きわめて健全化され、活力に満ちて興隆への軌道に乗るはずだと、私は論証し続けてきた。正統派的なケインズ主義的総需要管理政策の理論構成からすれば、そう考えざるをえないのである」と。
そして、丹羽氏は自らについて、次のように述べる。「すなわち、私は、高橋洋一氏や田村秀男氏が提言してきたようなレベルよりも、さらに踏み込んで、はるかにスケールの大きな高次元の財政政策・経済政策システムを構想し、それを実現すべきだと提言してきたわけである」と。
エコノミストであれ素人であれ、丹羽氏の主張を批評するには、高橋氏・田村氏との方法と理論の違いを認識した上で批評する必要があることを強調しておきたい。
次回に続く。
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