ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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インド7~ヴェーダの神々とヒンドゥー教の神々

2019-10-11 09:36:01 | 心と宗教
◆ヴェーダの神々とヒンドゥー教の神々
 ヴェーダには、インドラ、ヴァルナ、ミトラ等、多数の神々が現れた。だが、それらの神々は、現在、多くの信徒の信仰の対象となっていない。今日のヒンドゥー教で、インド全域にわたって最も多く崇拝されている神は、ヴィシュヌとシヴァである。ヴィシュヌとシヴァは、ヒンドゥー教の最高神と仰がれる。最高神とは、宇宙の主宰神(イーシュヴァラ)であり、世界の創造・維持・破壊を司る神である。ヴェーダの主要な神々は、中心的な座をこれらの神々に奪われて久しい。没落したヴェーダの神々については、後に歴史の項目で述べることにする。

◆ヴィシュヌ
 ヴィシュヌは、太陽が光り照らす働きを神格化したものである。ヴェーダでは太陽神の一つであり、それほど重要な神ではなかった。だが、アーリヤ人が定住して農耕を行うようになると、農耕には日光が不可欠であることから、太陽への信仰が強まった。そこに先住民族の太陽信仰を吸収することによって、ヴィシュヌの地位が上がっていった。プラ-ナ文献や二大叙事詩の時代には、最高神と仰がれるまでになった。7~8世紀になると、南インドでバクティ(信愛)と呼ばれる神々への帰依信仰が表れ、10世紀頃には、ヴィシュヌは至高の神として絶対的・献身的な信愛の対象となった。ヴィシュヌは、信じる者に恩寵を垂れる慈愛に満ちた神とされてインド中に広まり、その地位は確固たるものとなっている。
 ヴィシュヌは、鳥神ガルーダに乗るとされる。天空を移動する太陽と鳥のイメージが重合したものである。

・ヴィシュヌの化身
 ヴィシュヌは、悪を滅ぼして人間を救うために、いろいろな姿を取って、周期的に地上に降臨すると信じられている。これをアヴァターラという。化身、権化等と訳す。アヴァターラの思想は、非ヴェーダ的であり、非アーリヤ的なものと考えられる。
 アヴァターラには、様々な説がある。特に有名なのは10の化身説である。
 第1の化身は、魚である。世界的な大洪水が起った時に、ヴィシュヌは魚に権化して、現在の人類の祖先であるマヌの乗った船を曳航して危難を救ったとされる。ユダヤ民族のノアの方舟の神話が連想される。洪水伝説は世界各地にあるので、何か地球規模の歴史的な出来事の遠い記憶によるものだろう。
 第2の化身は亀、第3は猪、第4は人獅子、第5は矮人、第6は斧を持ったラーマである。
 第7の化身は、『ラーマーヤナ』の主人公になっているラーマである。第8は『バガヴァッド・ギーター』で活躍するクリシュナである。クリシュナは、10の化身のうち最も重要なものとされる。
 第9の化身は、ブッダすなわち仏教の開祖ゴータマ・シッダールタである。ヴィシュヌは悪人をヴェーダから遠ざけ、破滅に導くために、ブッダの姿を取ったとされる。仏教の本地垂迹説を借りて言えば、逆本地垂迹説になる。
 第10の化身カルキは未来に降臨するとされている。カルキは、永遠、時間、汚物の破壊者を意味する。西暦42万8899年に終りを迎える現在のカリ・ユガという時代の最後に出現する。その時は、ヴェーダが権威を失った末世である。カルキは、邪悪を滅し、正しい信仰を救うとされる。抜刀して白馬に乗る姿で表される。仏教の未来仏・弥勒菩薩には、カルキのイメージが投影していると考えられる。また、カルキ出現の時代は、『法滅尽経』が描く末法の世を連想させるものである。

・最も重要な化身・クリシュナ
 ヴィシュヌの最も重要な化身は、クリシュナである。ヴィシュヌは、クリシュナ信仰と一体化することで、大衆の信愛(バクティ)を受ける最高神となった
 クリシュナという語は、黒または青を意味する。『リグ・ヴェーダ』におけるクリシュナは、肌の色が黒い魔族だった。肌の白いアーリヤ人が征服・支配した先住民族である。しかし、クリシュナは、『マハーバーラタ』では、英雄として描かれ、さらに最高神の化身とされるまでになった。クリシュナを単なる化身の一つではなく、神ヴィシュヌそのものとする説もある。
 古代の諸民族では、祖先、首長、偉人、英雄、聖者等が神格化され、人間神として仰がれた。英雄クリシュナは、その典型である。特徴的なのは、被支配民族の人間が支配民族を含む社会全体において最高の信仰対象になったことである。征服された民族が支配関係を力で逆転したのではない。彼らの方が精神的に支配者集団を覆うようになったのである。
 クリシュナは、もとは人間でありながら最高神になった例として、イエスと比較されよう。キリスト教では、325年のニカイア公会議で、イエスは完全な人間であり、同時に完全な神であるという理解が確立し、キリストは人にして神であるとするニカイア信条が成立した。451年のカルケドン公会議で、イエスは完全な人間であり、同時に完全な神であるという主旨が再確認された。ニカイア・コンスタンティノポリス信条とカルケドン信条は、ローマ・カトリック教会、東方正教会、プロテスタント諸派の多くで信奉されている。
 インド人作家のニロッド・チョウドリーは、こうしたキリスト教の教義を踏まえてヴィシュヌの化身クリシュナについて、次のように述べている。「化身としてのクリシュナは、神自身であり、百パーセント神、百パーセント人間である。この意味では、キリスト教神学にいうイエスに極めて類似している。このような資格において、彼は事実上、礼拝の対象としてヴィシュヌの代わりをしているのである」、「ヴィシュヌ派では、最高神ヴィシュヌを同時にクリシュナという、より身近な英雄的人格に置き換えることで、大衆化をいっそう促進させた」と。
 こうしたクリシュナについて、フランスのインド学者・ルイ・ルヌーは、著書『インド教』で、「複雑で、いろいろな要素から作られている人物」として「インド精神のほとんどすべての面を要約している」と書いている。

 次回に続く。

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