ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

ユダヤ32~魔女狩りとユダヤ的な排除の論理

2017-04-02 08:51:19 | ユダヤ的価値観
魔女狩りとユダヤ的な排除の論理

 宗教改革の時代は、宗教的な熱狂の時代だった。その熱狂は、中世の西方キリスト教が持っていた異教への寛大さを論理的不徹底として斥けた。異教的なものの排斥は、宗教改革が起こる前から始まっていた。魔女狩りである。魔女狩りは、西方キリスト教圏における非キリスト教的なものの徹底的な排除だった。
 西欧では、キリスト教への改宗の過程で、ゲルマン民族は祖先伝来の宗教を捨てた。それまでの宗教にはアニミズム的・シャーマニズム的な自然崇拝・祖先崇拝が含まれていた。キリスト教への改宗は、自然崇拝・祖先崇拝の排除であり、セム系一神教であるユダヤ=キリスト教への帰依である。だが、中世においては、それによって自然崇拝・祖先崇拝が完全に消滅したわけではなかった。アニミズム的・シャーマニズム的な要素は文化の周縁に押しやられ、表層からは消えたものの、民衆信仰の中に残っていった。カトリック教会は、こうした信仰が社会の底辺に存続することを黙認し、それを取り込む寛大さをそなえていた。ところが、ルネッサンスとともに近代化が始まると、非ユダヤ=キリスト教的な民衆信仰が攻撃の対象となった。
 魔女狩りは、ルネッサンス期に嵐のように吹き荒れた。だが、その最盛期は宗教改革時代とともに訪れ、1600年を中心とした1世紀がピークだった。プロテスタントはカソリック以上に頑迷で熱心な魔女裁判官だった。ドイツで魔女狩りが苛烈になったのは宗教改革時代からであり、またプロテスタントによって始められた。ルターは、『食卓談話』で「私はこのような魔女には、なんの同情ももたない。私は彼らを皆殺しにしたいと思う」と述べている。ウェーバーはプロテスタンティズムの中でイギリスのピューリタリズムを特に賛美するが、ピューリタンは激しい魔女狩りを行なった。魔女狩りは、イングランドでは、クロムウェルの清教徒革命に至って絶頂に達した。西方キリスト教の宗教改革は、キリスト教内の改革を行うだけでなく、非キリスト教的な伝統的な宗教文化の抹殺を図るものだった。
 魔女狩りは、教会や国家のような公権力によって組織的に、何世紀にもわたって迫害が行われたものである。このような事例は、ヨーロッパ文明以外にはみられない。ナチスのユダヤ人迫害の先例と考えることができる。そして、私は、その背後には、ユダヤ教の排除の論理があると考えている。古代ユダヤ教は、徹底して偶像崇拝を否定し、自己民族の神以外を認めず、他民族の宗教を排斥した。ユダヤ教の影響を受けたプロテスタントは、ユダヤ=キリスト教の神を絶対化し、人間の努力による救いを否定した。また聖母マリア崇拝を偶像崇拝として否定した。こうした排他性が、非ユダヤ=キリスト教的なものとしての魔女に向けられたのである。
 イエス=キリストの教えは、隣人愛を説く。使徒パウロは、神は愛であると説いた。しかし、キリスト教徒の愛は、異教徒には及ばされなかった。いやキリスト教社会の内部ですら、他宗派には及ばされなかった。それをよく表すのが、旧教・新教の間の宗教戦争である。私は、異なるものを徹底的に排除し、破壊しようとするのは、イエス=キリストの教えというより、ユダヤ的なものではないかと思う。
 私の見るところ、異端尋問・魔女狩り・宗教戦争とユダヤ教徒への迫害には、共通の文化要素がある。その要素とは、ユダヤ教に発するセム系一神教の排他的な性格である。

●プロテスタンティズムとキリスト教の再ユダヤ教化
 
 ユダヤ教の近代世界への最大の影響は、資本主義を発展させたことである。資本主義は「近代世界システム」の統一性を保つ論理である。ヨーロッパ人による新大陸の発見や北米、南米、アフリカ、アジア等への進出は、「近代世界システム」の地理的条件を作り出したが、資本主義世界経済としてそのシステムが形成されるには、ヨーロッパにおいて資本主義が発生・発達するという経済的条件が必要だった。その資本主義の発展に、私はユダヤ教の影響を見るのである。
 ユダヤ教は、資本主義発達史の初期においては、プロテスタンティズムを通じて影響を与えた。
 マックス・ウェーバーは、西欧でのみ近代資本主義が発生・発達した原因を追求した。ウェーバーは、社会の分析において、宗教と経済の関係に注目した。ウェーバーが特に注目したのは、西方キリスト教的ヨーロッパ文明においてのみ、「世界の呪術からの解放」が進展したことである。「呪術」を追放して、合理的禁欲と計画的自己統制の生活態度を強調するような合理的宗教は、ただ近代西欧にのみ発達した。そこに、ウェーバーは、ヨーロッパ文明の重要な特質を見出した。
 ウェーバーは、西欧での宗教における合理化の源を探った。そして、源を古代ユダヤの預言者に見出した。彼らは偶像崇拝を否定し、救いのためのあらゆる呪術的方法を迷信とし邪悪として排斥し、道徳的な規律による救済を説いた。ウェーバーはこうした態度が、西欧の宗教改革者に受け継がれたと見る。
 ウェーバーは、著書『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』に次のように書いている。禁欲的プロテスタンティズムにおける「教会と聖礼典とによる救いの完全な廃棄こそは、カトリシズムに比較して無条件に異なる決定的な点である。現世を呪術から解放するという宗教史上のあの偉大な過程、すなわち古代ユダヤの預言者とともにはじまり、ギリシャの科学的思惟と結合しつつ、救いのためのあらゆる呪術的方法を迷信とし邪悪として排斥したあの魔術からの解放の過程は、ここに完結を見たのである」と。
 ウェーバーは、プロテスタンティズムによる「世界の呪術からの解放」を「宗教史上の偉大な過程」と呼び、「世界の脱呪術化」をよしとした。この宗教における合理化は、やがて生活全般における合理化の進展になっていった、とウェーバーは見ている。
 私見を述べると、ゲルマン民族のキリスト教への改宗は、自然崇拝・祖先崇拝の排除だった。その際、キリスト教を通じて、その根底にあるユダヤ文化が同時にゲルマン民族に流入・伝播した。それゆえ、ゲルマン民族の社会では、プロテスタンティズムの出現以前から、ユダヤ教における合理化に従う道がつけられていた。カトリック教会の支配下で始まった魔女狩りは、西方キリスト教圏における「呪術の追放」の始まりであり、非ユダヤ=キリスト教的な民衆信仰をさらに激しく攻撃したのが、プロテスタンティズムだった。
 プロテスタンティズムは、ユダヤ教の影響を受けた反カトリックの改革運動である。プロテスタントは、それまでラテン語で書かれ、ラテン語の知識のない者は読むことのできなかった聖書を各国語に訳した。これは、ギリシャ=ローマ文明の遺産であるキリスト教の土着化をもたらした。各国語訳の聖書は、印刷技術と紙の使用によって、民衆に普及した。民衆は、自分たちが日常使っている言葉で聖書を読めるようになった。 この過程でプロテスタントは、聖書の旧約の部分を読むことを通じて、ユダヤ教の思想の影響を受けた。これは、ユダヤ教のキリスト教への流入であり、プロテスタンティズムは、キリスト教の再ユダヤ教化という側面を持つことになった。

 次回に続く。