ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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人権401~精神的・道徳的な向上を促す力が待望される

2017-01-13 08:49:12 | 人権
 最終回。

●精神的・道徳的な向上を促す力が待望される

 物心調和の文明、共存共栄の世界を建設する上で、最大の道徳的な課題は、人類はそれぞれの共同体的な集団におけるような、家族的生命的なつながりを基にした同胞意識や連帯感を、ネイション(国家・国民)やエスニック・グループ(民族)を越えて保持し得るかということだろう。
 世界人権宣言には、「human family」という用語が使われている。正確に訳すなら、「人類家族」である。人類は、果たして一つの家族としての同胞意識・連帯感を持ち得るだろうか。 現在の世界人口を70億人とすると、70億人で一つの社会とはなっていない。人類社会は、複数の社会の集合である。主権国家及びそれに準ずる政治組織は、190を越える。これらの集団間には様々な差異があるが、その一つとして人口の差がある。この差は非常に大きい。人口10億人以上の国家、1億人以上の国家、1千万人以上の国家、百万人以上の国家、百万人未満の国家と多様である。10億人の人口を持つ国家は、500万人の人口を持つ国家の200倍の規模である。200とは、地球上の国家と地域の数に近い数字である。
 人間は血統や地域や生活を共にすることによって、相互扶助・協力協働の関係を築く。また、家族愛や友愛を育む。集団生活における直接的な交流は、数百人から数千人程度が普通である。数百万人、数千万人と直接交流する人は、ごく少ない。多くの人間は、直接的で具体的な経験を超えて、他者への理解や同情を持つことは難しい。直接的で具体的な経験なくして、同胞意識や連帯感を持てるようになるには、共感の能力の開発による大きな精神的・道徳的な向上が必要である。そのために教育・啓発活動の役割は大きい。だが、よほど強力な感化力を持った思想や宗教でなければ、既成観念にとらわれた人々の意識の変革はできないだろう。そこで、多くの人間の自己実現・自己超越を促進する精神的な巨大なエネルギーが求められる。人間の精神に感化を与え、破壊的・自滅的な思考回路を消滅させ、恐怖をもたらすトラウマを癒して、精神を健全に発達させる力が待望されている。
 その力はまた人類を物心調和の文明、共存共栄の世界の建設に導く力でもある。宇宙には秩序と発展をもたらす力が存在する。この力は万物を貫く理法に基づいて働く。ここで理法とは、第11章の結びに書いた古代ギリシャのノモスやシナ文明の道(タオ)、日本文明の道(みち)または道理に通じるものである。また、その力は、万物を理法に沿った調和へと導く力である。その力が人類に作用して、人類の知能や文明・科学等が発達してきたと考えられる。子供は成長の過程において、最初は肉体が成長し、後に精神が成長する。それと同じように、人類の文明も、最初は物質文化が発達し、次は精神文化が発達する。人類がその力を求め、受け入れる時、かつてない精神的・道徳的な向上が始まるだろう。
 この力とは、宇宙の万物を生成流転させている原動力である。宇宙本源の力である。その宇宙本源の力を受けることによる精神的・道徳的な向上は、一部の人たちから始まり、また一部の国から広がるだろう。経済中心・物質中心の価値観から物心調和の価値観に人々の価値観が変化する。そうした国々で物心調和の文明の建設が始まる。この新たな文明が、その他の国々にも広がる。それによって、共存共栄の世界が実現されていく。諸個人・諸国家・諸民族の調和的な発展によって、国家間の富の収奪が抑制され、過度の不平等が是正されていく。国際間の平和と繁栄が共有され、国家間の格差が縮小される。物心調和の文明、共存共栄の世界が建設される過程で、諸国家における国民の権利が発達する。戦争・内戦等の人為的原因で発生する難民が減少する。こうして諸個人の自己実現・自己超越が相互的・共助的に促進される社会が実現する。このサイナジックな社会において、物心調和の文明、共存共栄の世界の建設は一層大きく進むことになる。それによって、また諸個人の自己実現・自己超越が相互的・共助的に促進される。こうした循環が螺旋的に進行するに従って、人類は飛躍的な進化を体験することになるだろう。
 人権とは、それ自体が目標ではなく、人格の成長・発展、ネイションの調和的発展、物心調和の文明と共存共栄の世界の実現という目標を達成するために必要な条件である。

●結びに

 本稿は、ブログとMIXIに平成24年(2012)7月8日から、約4年6か月にわたって連載した。第1部で人権の基礎理論、第2部で人権の歴史と思想、第3部で人権の現状と課題、第4部で人権の目標と新しい人間観について書いた。目次と本文を下記に掲示している。
http://khosokawa.sakura.ne.jp/opinion03i.htm
 全体の要旨を再度記すと、人権の起源は、近代西欧における普遍的・生得的な権利という観念にあるが、人権の実態は歴史的・社会的・文化的に発達してきた権利である。生まれながらに誰もが持つ「人間の権利」ではなく、主に国民の権利として発達する「人間的な権利」である。「発達する人間的な権利」としての人権の目標とすべきものは、個人の自由と選好の無制約な追求ではない。個人においては人格的な自己実現であり、国家においては共同体の調和的発展、人類においては物心調和の文明、共存共栄の世界の実現である。こうした目標を追求するには、新しい人間観として心霊論的人間観の確立が必要である、と主張するものである。
 本稿が、従来の人権に関する多くの主張の誤りや人権を掲げた左翼的な運動の偏りを正し、日本の再建と人類の調和的発展に、少しでも寄与できるならば幸いである。(了)