ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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イギリスが国民投票でEU離脱決定。だが・・・

2016-06-30 10:30:04 | 国際関係
 6月23日のイギリスの国民投票の結果は、「離脱派」が勝利した。離脱が51.9%、残留が48.1%だった。わが国では、僅差ではあっても「残留派」が勝利するだろうという見方が大勢を占めていた。離脱派の勝利を意外と思った人が大多数だろう。
 イギリスのEU離脱は、短期的に見ると、日本経済には円高・株安が襲う。イギリスに拠点を作ってEUに進出している国際企業への打撃が大きい。また、世界経済には、リーマンショック級の衝撃になる可能性がある。長期的には、EUでリージョナリズム及びグローバリズムに対するナショナリズムの反攻が強まっていくだろう。さらに超長期的には、イギリスの離脱はEUの解体、再編成への引き金になると予想される。それはまた日本にも大きな影響をもたらす。日本は、激動する世界を生き抜くために、国民の団結が必要である。
 さて、イギリスのEU離脱派の主張は、EUに加盟していることによる主権の侵害、移民の増加で、税負担が増加、失業リスクが増大、古来からの民族文化を喪失、治安が悪化等への異議だった。これは、イギリスだけの問題ではない。今後、他の国々でも国民投票が実施され、英国に続く「ドミノ離脱」に発展することが予想される。そのような動きの可能性のある国として、デンマークやオランダが挙がっている。
 ナショナリズムは、もともと自由主義及びデモクラシーと結びついたものだった。国家主義・全体主義・排外主義ととらえるのは、文化・歴史をともにする国民共同体を解体しようとする共産主義的インターナショナリズムと市場原理主義的グローバリズムの影響である。これらの思想の発祥の地であるヨーロッパで、自由民主主義的・国民共同体主義的なナショナリズムが復興しているのである。
 だが、ナショナリズムは統合の原理ともなれば、分裂の原理ともなる。英国は、EU離脱の決定をきっかけとして、解体に向かうかもしれない。今回の国民投票でスコットランド、北アイルランド、そしてロンドンでは、残留に投票した票が過半数を占めた。スコットランドでは62.0%、北アイルランドでは55.8%、ロンドンでは59.9%が残留賛成だった。離脱決定後、スコットランド民族党のスタージョン党首は独立に向けて、再度の住民投票を提案した。前回の約2年前の住民投票では独立派が敗れたが、イギリスのEU離脱決定後に再び住民投票をやれば、独立派が勝利する可能性がある。スコットランドが独立すれば、連合王国は分裂する。残留に賛成の票が約60%だったロンドンでは、独立を求める署名運動が起こっている。ムスリムの新市長カーンがEU離脱交渉での発言権を主張している。
 もともと連合王国は、統合原理が弱い。わが国のように古代から一系で続く皇室を仰ぐ国柄とは違い、何度も交代を続けた複数の王朝が近代になって連合してできた国である。現在の王室は、ドイツから招いた貴族の末裔であり、国民を統合する求心力は弱い。それゆえ、もともと別の国だったスコットランドや北アイルランドが、イングランドから離れていくことは、十分考えられる。

 私は、イギリスはEU離脱・EU残留のどちらに進んでも、衰退の道をたどると予想している。離脱はナショナリズムの復興だが、同時に連合王国の解体のきっかけになる。残留はリージョナリズムの拡大だが、一層移民が増え、英国はイスラーム化していく。
 国民投票でEU離脱が決定した英国では、ポンドの急落、世界的な株価の暴落など、人々があまりの影響の大きさに驚いているようである。離脱に投じた人々のかなりの部分が離脱を選んだことを後悔しているとか。まさかこんな事態になるなんて、と。
 選挙当日の各種出口調査で、残留か離脱のどちらに投票したか聞くと、残留が52%、離脱が48%と残留がやや多かった。投票結果をどう予想するかと聞くと、残留が52%、わからないが29%で、離脱は19%しかいなかった。つまり離脱に投票したが、離脱になるとは思っていない人が多かった。こんな具合ゆえ、早くも世論が変化しつつあるようである。もし近いうちにもう一回国民投票をやったら、残留が多数を占める可能性が出てきている。
 イギリスの国民投票には法的な拘束力がない。国民投票の結果を覆すことも、技術的には可能である。英国政府は、国民投票の結果をもとに、行動することもできるが、逆に行動しないこともできる。議会で審議することにしてしまうことも可能だろう。
 EUからの離脱の交渉には、2年を要する。確信的な離脱派が新たな首相になれば、離脱交渉を推進し、確実に離脱を実現しようとするだろう。だが、交渉の過程で世論がますます残留の方に傾いて行った場合、世論と政府の方針が隔たっていくかもしれない。ポイントは、スコットランドだと私は思う。スコットランドが独立すれば、ほぼ後戻りはできなくなる。
 こういうことを考えると、キャメロン首相は国民投票の実施要求を受け入れ、また投票の結果を見るやすぐさまそれに従い、辞任を表明するなど、英国人らしいしたたかな知恵や不屈の意志を欠いた小粒な人物だと改めて思う。デモクラシーは民度が低いと衆愚政治になる。そのうえ、指導者がポピュリズムに迎合すると、国家は混迷に陥る。今後、イギリスが離脱の交渉を進め、離脱を実現するにしても、逆に残留の方に転じていくにしても、それを担う政治家の器量に、イギリスの命運がかかっているように思う。
 今後、市民個々の間でも離脱派と残留派の争いがあちこちで繰り広げられるようになれば、ピューリタン革命以来の激動になる可能性がある。そして、イギリスでの対立・混乱は大陸にも波及し、ヨーロッパ全体がさらに大きく揺れ動くだろう。その過程で、財政危機にある国々の経済状況がさらに悪化し、ドイツ等が支えきれない段階に入るのではないかと予想される。衰えゆく欧州の夜の闇は、これからいっそう深くなりそうである。
 もしイギリスが今回の決定に従い、EUを離脱すれば、最も喜ぶのはロシアのプーチン大統領である。ロシアは、冷戦終結後、かつてソ連時代に支配下に置いていた東欧諸国の多くがEUに加盟し、勢力を落とした。それを挽回しようとクリミアを併合したところ、欧米から経済制裁を受けている。イギリスの離脱でEUが弱体化すれば、ロシアには経済制裁解除の可能性が出てくる。さらにイギリスに続いて、EUを離脱する国が続けば、いっそうEUの統合力が弱まるから、ロシアにはヨーロッパ諸国との関係を有利に持っていくことができる。旧東欧諸国をロシア側に引き戻すことも可能になるかもしれない。
 中国にとっては、イギリスのEU離脱はプラス・マイナスの両面がある。イギリスはAIIBにいち早く参加し、それが欧州諸国のAIIBへの参加のきっかけになった。中国をイギリスを足掛かりに、EUに大きく進出しようとしていた。それがイギリスの離脱で若干頓挫した。だが、その反面、EUの弱体化とロシアのヨーロッパとの関係回復は、中国にとってもユーラシアでの勢力拡大の好機となる。ヨーロッパで立場が悪くなるイギリスは、アジアへの一層のかかわりを求めるだろう。中国は、そうしたイギリスを取り込んで、東アジアでの覇権確立に利用するかもしれない。
 そえゆえ、イギリスのEU離脱は、単にイギリスとヨーロッパとの関係という構図だけでなく、ロシア・中国を含めた大きな構図で見る必要がある。もちろんそこにはアメリカを加えなければならない。冷戦終結後、一時的にアメリカ一極支配と見えたわずかな時期ののちに、世界は急速に多極化してきた。アメリカの勢力後退は、多極化を一層助長する。こうした中で、ロシア・中国が世界戦略を展開している。イギリスのEU離脱決定は、ヨーロッパの不安定化の引き金となり、さらに世界的な力関係を流動化させることになるだろう。

 さて、EUが目ざすヨーロッパの統合は、ヨーロッパが生み出した近代国家の枠組みを超え、広域的な組織、市場、単一通貨を作ることが、ヨーロッパ諸国民の利益になると考えるものである。その根底には、ヨーロッパの統合を通じた世界連邦の創設という構想がある。世界政府が管理する単一の世界市場。あらゆる共同体が解体され、国民意識も崩壊して、バラバラの個人が集住する社会。こうした市場社会を運動させるものとしての共通貨幣。その管理システムーーそれらがEUやユーロという形で、ヨーロッパという地域で先駆的に進められているのである。
 だが、こうした構想は、イスラーム移民のヨーロッパへの流入によって、大きな問題にぶつかることになった。EUは、域内で関税をなくし、労働者の移動を自由にしている。域内に流入したイスラーム系移民は国境を越えて移動し、仕事を求めてイギリス、ドイツ、北欧等の豊かな国に向かう。これに対し、各国で移民への制限を行い、国民共同体を回復しようとする動きが、強まっている。我が国は、そうした主張をする政党を「極右政党」と呼んでいる。だが、それらの政党の多くは、ヨーロッパの伝統的な自由主義とデモクラシーに基づく政党である。ヨーロッパの伝統的な価値を守りたいという人々が、リージョナリズム及びグローバリズムに異議を唱えているのである。
 今回EUからの離脱を決めたイギリスは、ヨーロッパでもイスラーム系移民が最も多く、また最も速いスピードで増加している国である。多くの社会的・経済的・文化的問題が起こっている。これに対する国民の不満が高まった。
 イギリスは、かつて「七つの海」を制した大英帝国だった。世界的な覇権国家としての地位はアメリカに譲ったものの、金融においてはなお巨大な力を振るっている。また、現在も旧大英帝国が形を変えた英連邦の盟主であり、英連邦の加盟国は54ヵ国。連邦全体の人口は17億人、世界人口の約4分の1を占める。ゆるやかではあるが、帝国の威容をとどめている。
 古代ローマ帝国では、帝国の周縁部からゲルマン人が流入し、ローマ帝国は大きく傾いていった。いま、これに似たことがかつての大英帝国、英連邦の中心国・イギリスで起こっている。今日のヨーロッパ文明には、イスラーム教徒をキリスト教に改宗し得る宗教的な感化力は存在しない。イギリスもヨーロッパ文明の一部として同様の状態にある。英国国教会という独自の国家的なキリスト教宗派を保ってはいるが、近代化・世俗化の進むイギリスに、熱烈な異教徒を信仰転換できる宗教的情熱は、見られない。このままEUにとどまって、移民の大量な流入を許せば、イギリスは「イスラーム化」するだろう。
 平成21年(2009)8月、英「デイリー・テレグラフ」紙は、EU内のイスラーム人口が2050年までに現在の4倍にまで拡大するという調査結果を伝えた。それによると、EU27カ国(当時)の人口全体に占めるイスラーム系住民は前年には約5%だったが、現在の移民増加と出産率低下が持続する場合、2050年ごろにはイスラーム人口がEU人口全体の5分の1に相当する20%まで増える。イギリス、スペイン、オランダの3ヵ国では、「イスラーム化」が顕著で、近いうちにイスラーム人口が過半数を超えてしまうという。
 EU各国がこれまでのようにイスラーム系移民の流入を受け入れ続けていくならば、各国の社会には、かつて体験したことのない質的な変化が起こるだろう。白人種・キリスト教のヨーロッパ文明から、白人種・有色人種が混在・融合し、キリスト教とイスラーム教が並存・対立するヨーロッパ文明への変貌である。そのまま進めば、やがてユーラシア大陸の西端に、「ユーロ=イスラーム文明」という新たな文明が生息するようになるだろう。
 日本人は、ヨーロッパ文明を日本文明に置き換え、イスラーム系移民を中国人に置き換えて、よく比較・考察し、前車の轍を踏まないようにすべきである。流入してくるのが中国人だったら、ヨーロッパ以上にもっと大変な事態になる。世界最大の人口大国からの流入である。背後に中国共産党がついている。反日教育を受けている。礼儀もマナーもない、等々。絶対移民拡大政策はすべきではない。

関連掲示
・移民問題について掘り下げて考えたい方は、拙稿「トッドの移民論と日本の移民問題」をお読み下さい。
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion09i.htm
・ナショナリズムについて基本的なことから考えたい方は、拙稿「人権――その起源と目標第6章(2)人権とナショナリズム」をお読みください。
http://www.ab.auone-net.jp/~khosoau/opinion03i-2.htm
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