ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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産経元ソウル支局長に無罪判決

2015-12-19 10:47:31 | 国際関係
 12月17日産経新聞の加藤達也前ソウル支局長に無罪判決が下された。当然の判決である。
 この司法判断は韓国のためでもある。万が一、有罪の判決を下していたら、国際社会からこれまでより遥かに強い非難を受けるところだった。それを避けるためだったのか、公判の冒頭で裁判長が、韓国外務省が提出した日韓関係を考慮し善処するよう求める文書を読み上げたという。日韓関係、国際関係を配慮した行政府によって、判決が誘導されたものだろう。
 この産経新聞元ソウル支局長不当起訴事件の概要については、拙稿「産経・加藤元ソウル支局長の不当裁判に抗議する」に書いた。
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/b1d6369bdbecc1b46ddfdea44fb3a932
 そもそも韓国検察が加藤氏を名誉棄損で在宅起訴したのは、朴槿恵大統領の意向を受けて強引な起訴を行ったのではないかと疑われてきた。検察側は公判で「被害者は強い処罰を求めている」と述べた。大統領自身は被害感情や処罰要求を公言したことはないが、検察の主張を否定もしていない。韓国の関係法規は名誉毀損罪は被害者の意思に反して起訴できないと定めている。大統領が検察に指示をしたのではないかと疑われる。また、自分の意思に反した起訴なら、法的根拠に則って検察に取り下げるように求めることができた。大統領はそれをしなかった。こうした疑いのある裁判の公判の冒頭で、韓国外務省が提出した日韓関係を考慮し善処するよう求める文書を裁判長が読み上げたというのだから、これらの疑いは、いっそう強まった。
 韓国は、自由民主主義の根幹をなす表現の自由、報道の自由が確立していない。それだけでなく、司法の独立すら確立していない。大統領の公私混同や国家の私物化が見られ、官僚がそれを容認・追従する体質がある。わが国は、そうした未成熟な国家を相手にしていることを、あらためて確認しなければならない。
 産経新聞元ソウル支局長不当起訴事件について、産経新聞社は社としての見解を、12月18日の「主張」(社説に当たる)に書いた。重要な記事なので、全文を掲載しておく。

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●産経新聞 12月18日

http://www.sankei.com/column/news/151218/clm1512180002-n1.html
2015.12.18 05:02更新
【主張】
前支局長に無罪 言論自由守る妥当判決だ 普遍的価値を共有する契機に

 改めて、この裁判の意味を問いたい。公判の焦点は何だったか。それはひとえに、民主主義の根幹を成す言論、報道の自由が韓国に存在するか、にあった。裁かれたのは、韓国である。
 韓国の朴槿恵大統領に関するコラムをめぐり、名誉毀損(きそん)で在宅起訴された産経新聞の加藤達也前ソウル支局長に対する判決公判がソウル中央地裁であり、李東根裁判長は、無罪を言い渡した。
 妥当な結論である。
 無罪の理由について判決は「韓国は民主主義制度を尊重する。外国人記者に対する表現の自由を差別的に制限できない。本件も言論の自由の保護内に含まれる」などとし、「記事に誹謗(ひぼう)する目的は認められない」とも述べた。
 最後の最後で、韓国司法の独立性や矜持(きょうじ)を国際社会に示したものと受け止めたい。
 ただ判決公判では異例の光景もみられた。韓国外務省は日韓関係を考慮し善処するよう求める文書を裁判所に提出し、公判の冒頭で裁判長がこれを読み上げた。判決が行政の影響下にあったことを疑わせるもので、「法の支配」が揺らぐ。韓国司法には明白な独自判断を示してほしかった。

≪韓国検察に猛省求める≫
 韓国の検察当局には、猛省を求めたい。
 産経新聞はこの問題で、一貫して起訴の撤回を求めてきた。公人中の公人である大統領に対する論評が名誉毀損に当たるなら、そこに表現や報道の自由があるとはいえない。報道に対して公権力の行使で対処する起訴そのものに、正当性はなかった。
 問題とされたコラムは、旅客船「セウォル号」沈没事故当日の朴大統領の所在が明確でなかったことの顛末(てんまつ)について、韓国紙の記事や噂などを紹介し、これに論評を加えたものだ。
 検察側は、前支局長が「噂を虚偽と認識して記事を書き、大統領を誹謗する目的だった」として懲役1年6月を求刑していた。
 これに対して前支局長は、最終意見陳述でも「大惨事当日の大統領の動静は関心事であり、韓国社会において大統領をめぐる噂が流れたという事実も、特派員として伝えるべき事柄であると考えた」などと述べた。コラム中でも噂を真偽不明のものとしており、この真実性については最初から争点とはなり得なかった。
また検察側は、前支局長がコラムを書いた動機を「別の報道が原因で大統領府から出入りを禁じられており、抗議の意味で報道したと考えられる」としていた。荒唐無稽な言いがかりといえた。
 「被害者」である朴大統領にも問いたい。

≪「被害感情」に疑問残る≫
 検察側は公判で「被害者は強い処罰を求めている」と述べたが、大統領自身はこれまで「司法の場に委ねている」と述べるのみで、被害感情や処罰意思について公の場で口にしたことはなかった。
 前支局長を情報通信網法に基づく名誉毀損罪で告発したのは市民団体だったが、同法は、被害者の意思に反して起訴できないと定めている。大統領は起訴を止められる立場にあった。
 公人である大統領が報道に対し、被害感情を本当に有していたのか。罪の成立に不可欠な要素が問われないまま行われた起訴であり、公判だった。
 前支局長に対しては、出国禁止措置が繰り返され、今年4月に措置の解除を受けて帰国するまで、その期間は8カ月を超えた。退廷時に暴漢に卵を投げつけられ、車が傷つけられたこともある。
 起訴を含む、これら問題をめぐっては、国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」や世界の報道機関の会員組織「国際新聞編集者協会」などが抗議声明を出し、米紙なども韓国当局の措置を批判する記事を掲載してきた。
 日本の外務省は3月、韓国との関係を紹介するホームページから「基本的な価値を共有する」との文言を削除した。共有できなくなった基本的価値とは、「法の支配」や「言論、報道の自由」のことであり、前支局長の起訴や出国禁止でこれに疑問が生じたということだったのだろう。
 今回の判決が、韓国が真に自由と民主主義の普遍的価値を共有するグループに回帰する契機となるなら歓迎する。
 判決の意味を、韓国は国を挙げて吟味してほしい。
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関連掲示
・拙稿「産経・加藤元ソウル支局長の不当裁判に抗議する」
http://blog.goo.ne.jp/khosogoo_2005/e/b1d6369bdbecc1b46ddfdea44fb3a932