ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
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トッドの人口学・国際論12

2009-10-04 08:48:56 | 文明
●人口の増加は収まり、均衡に向かう

 トッドは、「帝国以後」に次のように書いた。人類は「読み書きを知らない世界の平穏な心性的慣習生活」から抜け出して、「全世界的な識字化によって定義されるもう一つの安定した世界の方へと歩んでいる」。この二つの世界の間には、精神的故郷離脱の苦しみと混乱がある」が、この移行期の局面が終わると、「危機は鎮静化する」と。
 人類の人口については、全世界的に識字化が進むと、出生調節が普及する。それによって、各社会で出生率が下がり、世界人口の増加が収まる。20世紀半ばから世界的に識字率が上昇しており、それに伴って、アジア、アフリカ、ラテン・アメリカで出生調節が広がり、やがて人口は均衡状態に至るというのが、トッドの予測である。
 1970年代の初め、第三世界の人口は、抑制不可能な際限ない人口増加の道に突入したように見えた。ところがその後、すべての大陸、そして間もなくほとんどすべての国で、出生率の低下が進んでいった。出生数が多いのは貧困が原因であり、貧困の解決が人口爆発を止める唯一の方法だという議論が多くされた。しかし、出生率の低下は、単に経済的な要因によるものではない。トッドは、「文明の接近」で次のように言う。「それは心性の革命が起こったという仮説なしには説明がつかない。経済的変遷だけでは、この大転換の原因を解明することはできないからである」と。
 「心性の革命」とは、「心性の近代化」である。トッドによると、その指標は、識字率の上昇と、それが女性に及ぶことによる出生率の低下である。全世界的に心性の革命=近代化が進みつつある。すなわち、全世界的に識字率の上昇と出生率の低下が進んでいる。それに伴って、人口の爆発的増加が収まっていくとトッドは見る。

●全世界的な識字化と出生調節が進む

 まず全世界的な識字化について、トッドは「文明の接近」で、「識字率の上昇は、20世紀に入ると、加速度を増す。すべての国が次から次へと、男性識字率50%のハードルを越え、次いで、それから要する時間はさまざまに異なるものの、女性識字率50%のハードルを越えていく」と書いている。
 識字率は、アジア、アフリカ、ラテン・アメリカ諸国で、急速に上昇している。イランでは80年に51%だったが、2000年には77%に。中国では同期間に66%から85%に上がった。
 トッドは、「帝国以後」に「それほど多くない将来に、地球全体が識字化されることは予想される」「現在の世界は人口学的移行の最終段階にあり、2030年に識字化の全般化が想定されている」「若い世代については2030年頃には地球全体の識字化が実現されると考えることが出来る」と書いていた。「文明の接近」では、次のように述べている。 
 「地球全体を覆う識字率の前進が、人間精神の抗いがたい上昇運動の経験的にしてヘーゲル的なヴィジョンを示してくれる。すべての国が次々と全世界的識字化状態へと向かって足取りも軽く歩んでいく、というものなのだ」と。
 識字率の上昇に続くのは、出生調節である。女性が読み書きを身につけると、出生調節が始まる。1981年(昭和56年)には、世界全体の「出生率指数」(註 合計特殊出生率と同じ)は、3.7。大まかな言い方で言うと、一人の女性が一生の間に生む子供の数が、平均3.7人だった。その数値が、2001年(平成13年)には、2.8に落ちた。アジア、アフリカ、ラテン・アメリカの多くの国で、出生数が顕著に減少しているからでる。
 人口の維持には、合計特殊出生率は2.08必要である。世界の出生率の平均は、その数値に近づいている。「帝国以後」でトッドは「おそらくは2050年には、世界の人口が安定化し、世界は均衡状態に入ることが予想できる」と述べている。

 次回に続く。