ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

脱貧困の社会事業~ユヌス10

2009-08-09 08:53:20 | 経済
●自動車・水等へと提携は広がる

 ダノンとの提携が始めとなって、「多国籍企業がわれわれの活動に理解を示し、実際に合弁を組むようになって世界はようやくソーシャルビジネスに注目してくれるようになった」とユヌスは語っている。
 フォルクスワーゲンが、どういう協力が出来るかとユヌスにきいてきた。「バングラデッシュの貧しい人々も買える自動車を作ってほしい。エンジンはグリーンエンジンとし、しかも多目的にしたい。バングラデッシュの人々が、そのエンジンを潅漑用のポンプや自家発電にも使えるようにしてほしい」とユヌスは言った。要望を受けたフォルクスワーゲンは、「可能だ」と答えているという。
 バングラデシュでは、水の問題がある。人口の2分の1が安全な水を飲めていない。この問題を解決するため、ユヌスは、フランスのヴェオリアとソーシャルビジネスを組んだ。ヴェオリアは世界一の水道事業関連会社で、フランスのスエズ、イギリスのテームズ・ウォーター等とともに、ウォーター・バロンズ(水男爵)という異名を取る大手水企業である。
 グラミン銀行とヴェオリアが作った合弁企業グラミン・ヴェオリア・ウォーターは、バングラデッシュで安全な水を販売している。1リットル=1ドルでは、村人は安全な水を買えない。徹底したコストダウンによって、現在、村々で4リットル=1セントで供給されているという。
 世界的に見て、最も深刻な資源の問題は、水、特に飲料水だから、この事例は、安全な水の飲めない人々に希望を与えるだろう。

 ユヌスは、今日の世界の問題は、既存の技術で解決できると言う。既に十分な技術をビジネス界は所有している。それが利益の追及にばかり使われている。その技術を解放して、社会問題の解決に使ってもらいたいとユヌスは希望する。そして、大企業が利潤を追求するために開発した技術やシステムの一部を、ソーシャルビジネスに提供してもらえれば、「新しい資本主義が可能になる」とユヌスは言う。
 私見を述べると、私企業が所有する技術やシステムがソーシャルビジネスに提供され、貧困や環境など社会問題の解決に活用されるのは、素晴らしいことである。しかし、それが即ち、「新しい資本主義」を可能にするものとは言えない。資本主義社会の中に、新しい形態の企業が増えるというところまでしかは言えない。

●医療におけるソーシャルビジネスも順調に

 ユヌスはソーシャルビジネスを保健医療の分野にも広げている。
 2006年(平成18年I、グラミン・ヘルスケア・サービスがソーシャルビジネスとして創設された。医療分野への進出である。その最初の事業計画の一つが、年間1万件、白内障手術のできる眼科病院を設立することだった。
 翌07年(19年)、最初のグラミン眼科病院がオープンした。この病院では白内障の手術費用は25ドル、約2500円である。お金のある人は手術代を払うが、貧しくて払えない人は無料である。手術代を支払える人が支払えない人に補助金を出すのと同じ仕組みとなっている。これまで手術を受けた人の半分は、無料だった。
 このやり方で、病院は十分利益が上がっており、出資金9000万円を5年で回収できる見込みだという。この成功をもとに、ユヌスは、保健医療の分野をすべてソーシャルビジネスにしたいと考えている。

 アメリカには、わが国の国民健康保険のような国民皆保険制度がない。公的保険制度には加入制限があり、高齢者・障害者限定のメディケアと低所得者限定のメディケイドの二種類しかない。低所得者層と民間保険会社を利用できる富裕層との中間に、公的保険にも民間保険にも入れない無保険者層がある。その層が国民の約15%を占める。その人たちは、病院にかかると、全額自分で支払わなければならない。
 たとえば、私の知人はお産で入院し、2泊で170万円かかった。産婦は2日くらいで退院しないと、費用が嵩み、後で支払いきれなくなってしまう。盲腸の手術でさえ、240万円ほどかかる。保険に入れる人はいいが、入っていても、なかなか保険金がおりない。だから、病気になると、医療費を払えず、破産してしまう人が多くいる。医療費負担にともなう個人の自己破産は、クレジットカード破産に次いで多い。
 こうしたアメリカについて、ユヌスは、ソーシャルビジネスによる保健医療が有効だと示唆する。ユヌスは著書「貧困のない世界を創る」で言う。「合衆国では健康保険に入っていない4700万の人々がいるが、彼らはうまく設計された革新的なソーシャルビジネスが活躍する肥沃な市場であるかもしれない。ソーシャルビジネスだけが、合衆国における医療サービスの長年の問題を解決する可能性があると主張する人がいるかもしれない」と。
 もしアメリカの保健医療において、ソーシャルビジネスが有効であるという成果が出れば、先進国においても先進国型貧困層の自立に、ソーシャルビジネスが役立つかもしれない。

 次回に続く。

コメント