ほそかわ・かずひこの BLOG

<オピニオン・サイト>を主催している、細川一彦です。
この日本をどのように立て直すか、ともに考えて参りましょう。

嵌められた日本~田中上奏文3

2006-03-15 09:30:57 | 歴史
 中西輝政氏は、『田中上奏文』は、ソ連のGPUによって捏造されたという新説を伝えている。これが事実であれば、わが国は共産主義の国際的な謀略に、がっちりと嵌められたことになる。

 キリチェンコ氏の調査結果は、ロマーシュタイン氏の説とどう絡むのだろうか。私にはまだわからない。仮にGPUが捏造したという場合、誰の指示によるのか、捏造の時期、土台にした文書、それとトロツキーが見たという文書との関係、中国語での翻訳と出版を行った組織的な動き、中国におけるGPUの工作の内容、英訳とアメリカ等での出版等――これから明らかにされねばならないことが、多くある。

 『田中上奏文』が偽書であること自体は、既に国際的に定説となっている。しかし、今も中国のみは、これを本物として、対日外交に利用している。南京事件もこの文書に書かれた計画の一例としている。中国では、教科書にも『田中上奏文』が掲載され、国民に教育されている。
 ところが、これに関し、高崎経済大学助教授の八木秀次氏が最近、興味深いことを伝えている。

 昨年12月、当時「新しい歴史教科書をつくる会」の会長だった八木氏らのグループが、中国を訪問した。その際、一行は中国政府直属の学術研究機関である中国社会科学院の日本研究所のスタッフと懇談した。その懇談の模様が、月刊『正論』平成18年4月号に掲載された。(八木著『中国知識人との対話で分かった歴史問題の「急所」』)
 その記事によると、懇談において、同研究所の所長・蒋立峰氏は、次のように述べたという。
 「実は今、中国では田中上奏文は存在しなかったという見方がだんだん主流になりつつあるのです。そうした中国の研究成果を日本側はほんとうに知っているのでしょうか」と。

 蒋氏は、社会科学院の世界歴史研究所や日本研究所で、日本近現代政治史や中日関係の研究を長年続けてきた中国の日本研究の責任者だという。
 八木氏は、記事につけた「解説」に、次のように書いている。
 「田中上奏文に否定的な発言を引き出せたことは大きな収穫だった。私たちは訪問の翌日、盧溝橋の『中国人民抗日戦争記念館』を見学したが、そこには田中上奏文が、日本が世界征服を計画していたことを証明するものとして展示されていた。蒋立峰所長のいうように『田中上奏文が存在しなかったことが中国の主流になっている』のであれば、是非ともその撤去を申し入れていただきたい」と。

 『田中上奏文』を本物と言い張っているのは、中国共産党政府の公式見解である。言論統制が極めて厳しい中国において、蒋立峰氏が述べたことは、何を意味するか。
 私がまず思うのは、問題発言として追及され、蒋氏が左遷または弾圧されるのではないか、ということである。他に蒋氏と似た主張をしている学者も、同様だろう。中国人民抗日戦争記念館からの展示の撤去や、教科書への掲載の取りやめは、簡単に実現しうることではない。中国共産党が『田中上奏文』について誤謬を認めることは、中国共産党が国民に与えている歴史観の全体に関わってくるからである。
 だから、中国側に期待を寄せることは、ほとんど意味がないだろう。私が、今なすべきだと思うことは、日本政府が、『田中上奏文』について、これが偽書であり、ソ連や中国がわが国を貶めるために捏造し、利用してきたことを、世界に知らしめることである。それによって、日本国と日本国民の汚名をそそがねばならない。
 我々の先祖・先人のために、我々自身のために、そしてこれからこの国に生まれ、この国を生きていく子どもたちのために。