仮 定 さ れ た 有 機 交 流 電 燈

歴史・文化・環境をめぐる学術的話題から、映画やゲームについての無節操な評論まで、心象スケッチを連ねてゆきます。

『レッドクリフ』:壮大だが薄味、そして長い

2008-11-05 14:13:58 | 劇場の虎韜
先日、大学からの帰りに楽しみにしていた映画『レッドクリフ』を観た(しかし、なんで英語なんだ? 意図は分からないでもないが、「ハリウッドを超えるアジア発」を強調したいのであれば、「赤壁」でいいだろうに)。ぼくはいわゆる三国志フリークではないが、正史『三国志』からサブカルチャーの世界まで、これまで大いに親しんできた題材である。この映画も、曹操=渡辺謙、周瑜=チョウ・ユンファ(劉備役にラインナップされた時期もあった)というキャスト情報が流れたときから注目していた。まだ公開間もないが、12月が近くなると身動きが取れなくなりそうだったので、無理をしてでもと観にいったわけである。さてその感想だが…

まず最初に感じたのは、とにかく2時間半という上映時間が長いこと。「尺の長さも感じさせない」という誉め言葉はよく聞くが、この作品のストーリー展開はややもたつき気味で、それがある種の重厚さに繋がっているところもないではないのだが、もっとスマートに作れただろうという気がどうしてもしてしまう。自主制作ではよくあることだが、監督自らが出資して作られた映画の場合、上映時間は概ね長くなりがちである。興業面のみ重視すれば、映画は短い方が一日の上映回数も増え、その分収入も多くなる。よって、制作会社・配給会社としては断然短尺の方がいいわけだが、監督が出資すると興業サイドからの口出しがしにくくなり、また監督も愛着あるフィルムを切りたくないので、あれもこれも必要とだらだらした映画が出来てしまうわけだ。作品の質はともかく、ケヴィン・コスナーの『ダンス・ウィズ・ウルヴズ』がいい例である。『レッドクリフ』にもその気があるが、実は、丹念に贅肉を削ぎ落としていった方が、映画は面白く深みのある作品に仕上がるものなのだ(長い論文を書く人間のいうことじゃないか。ま、自戒ということで)。

見せ場である合戦シーンのアクションは、スタイリッシュで美しい張芸謀のものと比べるとかなり泥臭い。リアルさを狙ってあえてそうしたのだろうが、重みを生み出すための"間"はややもすればたるみとなり、数万の人間が入り乱れる戦場のなかでは不自然さが際立つ。サム・ペキンパーなスローモーションも、かえって動きのまずさを暴露してしまっているようだ。大立ち回りを繰り広げる主要キャスト以外の兵士たちも、何となく動きが緊張感に欠けていたが、ジョン・ウーって集団アクションは苦手なのかも分からない。呼びものの八卦の陣はなかなかだったが、騎馬の命であるスピードを封じた後の展開は、数万の敵に対するものとしては現実味に乏しい。あれは城中か山中に埋伏したときの戦法だろう。期待が高かっただけに、もっとうまく演出できたはずとの印象がどうしても強くなってしまう。
『三国志演義』を下敷きにしているので仕方ないのだが、曹操を悪役、諸葛亮・周瑜を正義の味方に据えるという勧善懲悪的な構図もいただけない。そのせいで、登場人物は類型的で深みがなくなってしまっており、とくに魏の名将たちなど個性も有能さも剥奪されていて憐れでさえある。主人公であるにもかかわらず、『演義』でさえ内面性の複雑さを醸し出していた、諸葛亮・周瑜の葛藤もほとんど描かれていない(「信じる心」が大切だから)。

全体としては壮大なエンターテイメントに仕上がってはいるのだが、やはり遊園地的な印象は否めない。物語の進め方や音楽の使い方などに、何度も『スターウォーズ』を思い出した(日本版のゲーム画面的オープニング、三角スクロールでやってもよかったんじゃ?)。監督のジョン・ウー自身は「黒澤時代劇へのオマージュだ」と語っているようなので、オリジンを同じくする作品が相似形になったということか。八卦陣での戦闘は、確かに『七人の侍』っぽかったな。諸葛亮が呉に説得工作に来る件も、凶賊から村を守る仲間を集めるノリだったのかも知れない。
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2 Comments

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意見合わんのぁ (しゅいえほん)
2008-11-06 20:27:14
見たんか。
ボクは面白かったけどなあ。登場人物たちが結構コミカルでカワイイ感じがしたし。
戦いの場面も、まあ、もたついていると言えばもたついているけど、チャン・イーモーの美しいだけのものより全然好き。(北京オリンピックの開幕式と根っこは一緒だ)
いずれにしても、続編を見ないとわからないけどね。(一体、いつやるんだ??)
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期待が高かったからかも (ほうじょう)
2008-11-06 20:46:10
期待が高かったから、よけい残念にみえたのかも知れない。三国志に思い入れもあるし...。

いや、面白くはみたんだけどね。書くと大々的批判みたいになっちゃった。張アクションは、美しいだけじゃなくて、武術的に押さえているところは押さえている。確かに「武」より「舞」の方に近いけど、動きに無駄がない。「レッドクリフ」の方は、リアルな戦場なのにハリウッド的な派手さがあって、だから泥臭く感じたのかなあ。

Part2は、日本では来年の4月公開ですと。
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