仮 定 さ れ た 有 機 交 流 電 燈

歴史・文化・環境をめぐる学術的話題から、映画やゲームについての無節操な評論まで、心象スケッチを連ねてゆきます。

学期末の日々

2009-08-03 04:38:00 | 生きる犬韜
先週から今週にかけては、もはや授業はなかったが、研究会や事務仕事で駆け回って過ごした。

29日(水)には、合間合間に書き上げた「歴史学とサブカルチャー」第7回を送信。今回は、お台場のガンダム立像から連想し、「おもちゃとしての戦争」について書いた。1年半続けてきたが、残すところあと1回である。最後はやはりジブリかな。
31日(金)は、まず学部時代の後輩で高校教師をやっているSさんが、上智史学科入学志望の女子生徒を連れて来訪。摂関期に関心があるという彼女は、素直で頑張り屋の印象であった。思わず怪しいネタばかり開陳してしまったが、ぜひ来年度、また顔を合わせることができたらと思う。Sさんの方は、かなり貫禄が出てきて、高校での歴史愛溢れる指導ぶりが想像できた。今度またゆっくり話をしたいものだ。その後は、自主ゼミの1年生を連れて四ッ谷の史跡を見学。ちょうどこの日は午前中まで雨がぱらついていて、前日までの猛暑が嘘のように涼しく、徒歩の散策にはちょうどよい陽気だった。清水谷公園から紀尾井坂、喰違見附、紀伊国坂、迎賓館(紀伊上屋敷)、鮫ヶ橋せきとめ神、若葉寺町、陽運寺・於岩稲荷と進み、最後は服部半蔵創建の西念寺へ(もはや定番)。お寺のご厚意で伝半蔵持物の槍をみせていただき、本堂左余間が江戸後期建立の旧華族邸から移築されたものであることも初めて伺った。本尊の阿弥陀如来については正式な調査が入っていないが、伝承では鎌倉期という。確かに、快慶の絵画的な阿弥陀の雰囲気を漂わせた、きれいな御像であった。2時間程度の散策だったが、学生たちも、それなりに楽しんでくれたようだ。田舎に行かなければフィールドワークができないわけではない。今後も、自分の足で歩いて歴史を探してもらいたい。

8月に入って、1日(土)は午前中に上代文学会シンポの打ち合わせ、午後に『日本書紀』を読む会の例会。まずは東大駒場へ出かけ、瀬間正之さん、品田悦一さん、曽根正人さん、飯泉健司さんと合流。昼食を摂りながらそれぞれの報告の内容、全体の段取り、シンポまでのスケジュールについて相談した。その後は、仏教史研究の最新情報について意見交換。瀬間さんから、度重なる木簡の出現で、百済仏教の具体相が明らかになりつつあることを伺った。王興寺以外にも様々な展開がある。文献学的にも新たな発見が認められるので、今後注目しておかねばならないだろう。
午後は成城大学に会場を移し、大山誠一さんをはじめとするメンバーと合流。今回は20人余りとなる盛況だった。報告は野見山由佳さんによる『法隆寺縁起并流記資財帳』の史料批判、原口耕一郎氏による『日本書紀』出典研究の動向紹介、大山さんによる『書紀』成立過程のラフスケッチ。原口さんの報告の中心は、最近、思想史研究の世界で注目を集める池田昌広氏の紹介が中心。ぼくも注目しているのだが、どうも『華林遍略』の議論には危うさを感じる。実体の分からない同書の『書紀』援用の可能性について、その枠組みをほぼ受け継いでいる『太平御覧』を手がかりに主張するのだが、だとしたら『御覧』のオリジナリティとは何なのか。厖大な異本・抄本が生産される漢籍の世界のなかで、200巻以上のボリュームの相違がある同書の均質を前提に、一字一句の異同を論じる出典論へ応用するのは難しいのではないか。こちらとしては、むしろ、『華林遍略』の成立過程そのものに関心がある。陶弘景といい『経律異相』といい、やはり梁武帝の周辺は面白そうだ。

2日(日)は、大学の先輩であるTさんの結婚式に参列。Tさんは、ぼくが入学したとき博士課程にいらっしゃって、古代史研究のイロハを教えてくれた師匠に等しい人である。花嫁は一回りも年下の美人、しかも大病を患った後の幸せということで、喜びも一入だろう。めでたい。
披露宴終了後は、久しぶりにお会いした木村茂光先生、戸川点さんと軽く一杯。近況や、現在の関心などについて歓談した。昨日もそうだったが、遙か先達の方々の戦いぶりを目の当たりにすると、自分の不甲斐なさが際立ち、やる気も出てくる。それはそうと、韓国の扶余周辺は、ロッテが資本を投下し歴史テーマパークのようになっているという。復原しようにも史料は残っていないので、参考にしたのはなんと平城宮とか。きっと歴史ドラマの撮影にも使うのだろう。

3日(月)は朝から、オープン・キャンパスで受験生の個人相談。ときおり高校1年生や2年生も、母親と一緒に訪ねてくる。自分は同じ頃、大学への進学について真面目に考えていただろうか。熱心なことだと思う。大学全体でもけっこうな人出であったようだ。相談事は、試験の傾向と対策、入学してから自分の興味に沿った勉強ができるかどうかが中心。それなりに日本史志願者もいて、平安時代に関心があるという子もいた。
午後は春学期の残務処理を終え、家で仕事をするための大量の書類を鞄に詰めて、帰国中の水口幹記君と会うため新宿へ。東口の駅至近にあるwazaに入り、ノンアルコールカクテルとチーズフォンデュを堪能しながら近況を報告しあった。来年度以降の嬉しい話と衝撃的な話の2つを聞かされ混乱したが、その後面影屋珈琲店に場所を移し、現在の研究関心などについても意見交換した。うーむ。人生いろいろである。

さて、どうにかこうにか一応は夏期休暇となった。レポートの採点もあるし、20日以降は度々出勤も必要だが、原稿執筆に励まねばなるまい。すぐにも提出せねばならない論文が1本、8月〆切の論文が1本・書評が1本、〆切を過ぎた書評が2本ある。この先、11月に論文1本、来年3月に論文3本が控えているので、遅らせることはできない。何とかがんばろう。

※ 写真はここ1週間の電車のお供。やはり、様々な思考のヒントをくれる優れた物語である。
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2 Comments

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乗り切りましょう (monodoi)
2009-08-07 10:36:09
先月末の史跡見学は、天気が比較的穏やかでよかったですね。推参したかったのですが、さすがに引率者の心労が増すばかりと慮り、押し留まりました(苦笑)
暑い日々が続きますが、お互い体調に気を付けて乗り切りましょう。
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月末は (ほうじょう)
2009-08-07 11:09:48
心中お察しいただき恐縮です。
今年はmonodoiさんは、月末のサマーセミナーへは参加されないんですね? うーん、近江八幡より駿河台の方が面白そうな気がしますが、ぼくは義理があるので湖畔へ参ります。
反響も大きいとのこと、生産的なシンポとなることを祈念しております。
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