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窒素分子から直接ニトリルを合成

2016-10-01 10:32:22 | 化学
理化学研究所の研究グループが、空気中の窒素分子から有機化合物であり色々な化合物の原料となる、ニトリルを直接合成することに成功したと発表しました。

これは私の感覚からすると、本当にびっくりするぐらいすごい成果といえます。窒素分子というのは2個の窒素原子が3重結合という形をとり、これが非常に安定で切断するためには非常に多くのエネルギーが必要とされるものです。私の専門である有機化学的にはほとんど不可能といえるぐらい安定なものと思っていました。

実際の反応は無機化学に属しますので、私もよく理解できないのですが、それほどエネルギーも使わずにこの窒素分子を切断し、しかもニトリルという用途の広い物質に変換できるということは、いわば常識では考えられないようなすごいことといえます。

ニトリルの代表的なものには、最も簡単なアセトニトリルという化合物がありますが、これは溶剤などの用途しかありません。しかしアクリルニトリルなどは、非常に用途も広く、少し変換するだけで高分子原料特に色々な種類のプラスチック原料となる等有用なものがたくさんあります。

この窒素分子を直接変換するのは、ハーバー・ボッシュ法として知られる、膨大なエネルギーをかけて還元しアンモニアに代える手法ぐらいでした。窒素は空気の8割を占めており、アミノ酸などの必須分子にも入っていますので、何とか有効利用できないかの研究は、本当に古くからおこなわれていました。しかし利用するためにはあまりにも多くのエネルギーや、高価な装置が必要でありとても採算が合わないとされていました。生物の世界でもこの空気中の窒素を利用できるのは、根粒菌といわれる一部の微生物だけで、特殊なものと考えられていました。

今回発表になった研究チームではこれまで、独自に開発した三つのチタンを含むチタン化合物を用いて、窒素分子の常温・常圧での切断・水素化、および極めて安定なベンゼンの炭素-炭素結合の切断と骨格変換反応に関する研究を進めてきました。今回、新たに開発した四つのチタンを含むチタン化合物から、特殊な試薬を用いずに窒素分子を切断することに成功しました。

そして、切断した窒素種と入手が容易な酸塩化物からニトリルを直接合成することに成功したのです。この方法は、さまざまなニトリル合成に適用可能であり、その他の添加剤を一切使わずに、一段階で目的物を得られることが分かりました。

これが発表された内容ですが、実は私もこれはよく理解できません。しかしチタンのような触媒となる金属を用いると、窒素が切断できるというのは非常に面白いようです。これがどの程度のスケールでできるかや、何か実用化につながるかはこれからの課題ですが、私としては非常に感心した成果といえます。