628)メトホルミンは抗がん剤や免疫チェックポイント阻害剤の抗腫瘍効果を高める

図:メトホルミンは多彩なメカニズムで抗腫瘍作用を示す。メトホルミンは肝臓における糖新生を阻害し(①)、血液中のグルコースとインスリンの量を低下し、がん細胞の増殖を抑制する(②)。さらにメトホルミンは、ミトコンドリアの呼吸酵素複合体Iの阻害によるATP産生抑制、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)活性化、mTORシグナル伝達系の抑制、低酸素誘導因子-1(HIF-1)活性の抑制などのメカニズムで直接的な抗腫瘍効果を示す(③)。がん細胞のミトコンドリアでのグルコースとグルタミンの利用を阻害し、物質合成を阻害す効果も報告されている(④)。抗がん剤やホルモン療法や免疫チェックポイント阻害剤などと併用してこれらの治療による抗腫瘍効果を増強することが報告されている。(参考:BMC Biol. 2014; 12: 82.)

628)メトホルミンは抗がん剤や免疫チェックポイント阻害剤の抗腫瘍効果を高める

【糖尿病はがんの発生を増やす】
日本におけるがん罹患数(1年間に新たにがんが発生した人数)は男女とも1970年代後半から増加し続けています。2018年のがん罹患数は1985年の3倍近くになっています。
がん罹患数の増加の主な原因は人口の高齢化です。しかし、がん罹患数の増加は人口の高齢化だけによるものではありません。人口構成の影響を排除した年齢調整がん罹患率でも増加しています。
年齢調整というのは、基準となる集団の年齢構成(基準人口)に合わせて補正した値で、年齢調整した(同じ年齢構成と仮定して計算した)数値を比較することによって、高齢化などの年齢構成の変化の影響を取り除くことができます。日本では昭和60年(1985年)の人口構成が基準にされることが多いようです。
年齢調整罹患率で比較すると、1975 年に比較して、2005 年 の年齢調整のがん罹患率は男性では 約1.5 倍、女性では約1.4 倍になっています。

図:日本の場合、年齢調整のがん罹患率(1年間にがんが発生する率)は、男女とも「1990年代前半まで増加しその後横ばい、2000年前後から再び増加」となっている。

年齢調整がん罹患率が増加しているのは、日本ではがんの発生率を高める要因が増えていることを示唆しています。運動不足や肥満や環境汚染のような「がんの発生を増やす環境要因」が増えているのは確かです(460話参照)。24時間営業や交代制勤務や夜間の照明ががんの発生を増やす可能性も指摘されています(599話参照)。がん検診によって放置しても良いがんを見つけて、がん患者を増やしている要因もあるという指摘もあります(547話参照)。
糖尿病ががんの発生を増やすことは多くの研究で明らかになっています。
日本では、糖尿病は1960年代までは稀でしたが、最近では5人に一人が糖尿病あるいは糖尿病予備軍と言われるくらい増えています。
厚生労働省の平成28年「国民健康・栄養調査」によると、20歳以上の人口(約1億500万人)のうち、「糖尿病が強く疑われる者」の割合は、12.1%(男性16.3%、女性9.3%) で、「糖尿病の可能性を否定できない者」の割合は12.1%(12.2%、女性12.1%)となっています。
つまり、「糖尿病が強く疑われる者」と「糖尿病の可能性を否定できない者(糖尿病予備軍)」はそれぞれ1,000 万人以上で、「糖尿病あるいは糖尿病の可能性のある人」は2000万人を超えています。このような糖尿病の増加はがんの発生を増やす重要な原因の一つと認識されています。

図:日本では1960年代まで糖尿病は極めて稀な疾患であったが、現在では人口の20%を超えている。 

【メトホルミンは糖尿病患者のがん発生率を低下させる】
メトホルミン(metformin)は一般名で、メトグルコ、グリコラン、メデット、ネルビスなどの製品名で糖尿病治療に使われています。
メトホルミンは、世界中で1億人以上の2型糖尿病患者に使われているビグアナイド系経口血糖降下剤ですが、近年、メトホルミンの抗腫瘍効果が注目されています。
ビグアナイド剤は、中東原産のマメ科のガレガ(Galega officinalis)から1920年代に見つかったグアニジン誘導体から開発された薬です。ガレガは古くから糖尿病と思われる病気(口渇や多尿)の治療に経験的に使われ有効性が認められており、その関係でこのガレガから血糖降下作用のあるビグアナイドが発見されました(309話参照)。
メトホルミンは、ミトコンドリアの呼吸鎖の最初のステップである呼吸酵素複合体Iを阻害することが明らかになっています。その結果、ミトコンドリアでのATP産生が減少し、AMP:ATPの比が上昇し、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)が活性化されます。活性化したAMPKは、肝臓の糖新生を抑制し、解糖を亢進し、骨格筋でのグルコース利用を促進して血糖を低下させます。
すなわち、メトホルミンの血糖降下作用はミトコンドリアにおけるATP産生の阻害によって体内のATP量が減少するためです。体はATPを増やすために、グルコースの分解(異化)を促進し、糖新生(同化)を抑制するので、血糖が低下します。

図:AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)は触媒作用を持つαサブユニットと、調節作用を持つβサブユットとγサブユニットから構成されるヘテロ三量体として存在する(①)。γサブユニットにはATPが結合しているが、ATPが枯渇してAMP/ATP比が上昇すると、γサブユニットに結合していたATPがAMPに置き換わる(②)。その結果、アロステリック効果(酵素の立体構造が変化すること)によってこの複合体は中等度(2~10倍程度)に活性化され、AMPKキナーゼであるLKB1に対して親和性が高くなり、LKB1によってαサブユニットのスレオニン-172(Thr-172)がリン酸化されると、酵素活性は最大に活性化される(③)。 LKB1はセリン・スレオニンキナーゼで、AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)をリン酸化して活性化する(④)。活性化したAMPKはインスリン感受性を亢進し、グルコースの取込みと分解を促進し、肝臓では糖新生を抑制して血糖を低下させる(⑤)。メトホルミンはミトコンドリアの呼吸酵素複合体Iを阻害してATP産生を低下し、AMPKを活性化することによって血糖を低下させる。

メトホルミンの血糖降下作用は1960年代から知られていますが、臨床レベルでメトホルミンのがん予防効果や抗がん作用が注目されてきたのは2005年ころからです。
人間でのがん予防効果が最初に指摘されたのは2005年の論文で、2型糖尿病患者でメトホルミンを服用しているグループは全てのがんの発生率が低下することが後向きケース・コントロール研究で報告されています(British Medical Journal 330: 1304-1305, 2005)。 
2009年に、メトホルミンが糖尿病患者の膵がんリスクを低下させることを示す結果が、米テキサス大学M. D.アンダーソンがんセンターの研究グループから報告されています。(Gastroenterology 137:482-488, 2009)
この研究では、糖尿病の患者でメトホルミンを服用していた場合、メトホルミンを服用しなかった人々と比べて、膵がんのリスクが 62 %低減することが示されています。一方、インスリンまたはインスリン分泌促進薬を使用した糖尿病患者では、それらを使用しなかった患者と比較して、それぞれ、膵がんのリスクが 4.99 倍と 2.52 倍に増加しました。 
その後、膵臓がん以外にも、肺がんや大腸がんや乳がんなど多くのがんの予防や治療にメトホルミンが有効であることが多くの研究で明らかになっています。
台湾で実施された80万人を対象にした前向きコホート研究では、2型糖尿病があって血糖降下剤を服用していないグループでは、大腸がん・肝臓がん・胃がん・膵臓がんの発生率が約2倍に高く、メトホルミンの服用によって非糖尿病グループのレベルに低下することが報告されています。この論文では、1日500mgのメトホルミンががん(特に、胃がん、結腸直腸がん、肝臓がん、膵臓がん)の発生率を有意に低下させるという結論が記述されています。(BMC Cancer 2011 Jan 18: 11(1):20) 

メタ解析の研究では、全ての種類のがんを対象にして、メトホルミンの使用はがんの発生率を31%減少させ、がんによる死亡を34%減少させるという結果が報告されています。(Metformin and cancer risk and mortality: a systemic review and meta-analysis taking into account biases and confounders. Cancer Prev Res. 7: 867-885, 2014)
日本で行なわれた大規模調査では、糖尿病と診断されたことのある人はない人に比べ、20~30パーセントほどがんの発生率が高くなることが報告されています。

最近のメタアナリシスによると,糖尿病は非ホジキンリンパ腫,膀胱がん,乳がん,大腸がん,子宮内膜がん,肝がん,膵がんなどの発症リスクを高めることが示されています。

糖尿病が肺がんの発症リスクを高めることが報告されています。以下のような報告があります。

Metformin and lung cancer risk in patients with type 2 diabetes mellitus.(2型糖尿病患者におけるメトホルミンと肺がんリスク)Oncotarget. 2017 Jun 20;8(25):41132-41142.

この研究は台湾の国民健康保険の償還データベース(いわゆる台湾医療ビッグデータ)を解析して、2型糖尿病患者におけるメトホルミン使用と肺がん発症率の関連を検討しています。1999年から2005年の間に新規に診断された2型糖尿病患者で、メトホルミン非使用の15414人とメトホルミン使用の280159人の中から、条件を一致させた1:1ペア(各群15414人づつ)を選び出して、2011年12月31日まで追跡して比較しています。
解析の結果、1年間に10万人当たり(100000 person-years)の肺がん発症率は、全ての2型糖尿病患者を対照にした場合が、メトホルミン使用群が173.36、メトホルミン非使用群が292.65でした。
1:1でマッチさせた比較では、1年間に10万人当たりの肺がん発症率は、メトホルミン使用群が211.71で、メトホルミン非使用群が292.65でした。
メトホルミン使用による肺がん発症のハザード比は、元のサンプルでは0.586 (95%信頼区間:0.509-0.674)、一致した1:1ペアのサンプルでは0.717(95%信頼区間:0.584-0.881)でした。
つまり、2型糖尿病でメトホルミンによる治療を受けていると肺がんの発症リスクが全体で60〜70%程度に低下するという結果です。
さらに、メトホルミンの服用期間で比較しています。
メトホルミン使用の累積期間が22.60ヶ月以下、22.60〜46.67ヶ月、46.67ヶ月以上で比較した場合のハザード比は、元のサンプルでは1.163、0.612 、0.176でした。
1:1マッチのサンプルでは、それぞれのハザード比は、1.465、0.758 、0.228 でした。
つまり、メトホルミンの服用期間が長いほど、肺がん発症にリスクが低下し、4年以上服用していると肺がんの発症リスクが2割くらいに低下するという結果です。2型糖尿病患者はメトホルミンの服用が肺がん予防に有効という結果です。
糖尿病があるとがんの進行が早く転移しやすいことも指摘されています。高血糖や高インスリン血症ががん細胞の増殖を促進するからです。
糖尿病は様々なメカニズムでがんの発生や進展を促進するので、日本で糖尿病患者が増えていることは、がんの発生が増えている原因の一つと言えます。 

【糖尿病のがん患者はメトホルミン服用で生存率が向上する】
メトホルミンが糖尿病患者のがんの発生を抑制するだけでなく、糖尿病のがん患者の生存率を高める効果も多くのがんで確認されています。例えば、以下のような報告があります。

Metformin therapy associated with survival benefit in lung cancer patients with diabetes.(糖尿病を有する肺がん患者における生存利益に関連するメトホルミン治療)Oncotarget. 2016 Jun 7;7(23):35437-45.

【要旨の抜粋】
糖尿病の肺がん患者の生存とメトホルミンの使用と関連を検討した研究(全部で17件の臨床試験を報告した10編の論文)のメタ解析を行なった。メトホルミン使用は糖尿病を有する肺がん患者のより良い生存率と有意な関連が明らかになった。
メトホルミン使用による無病生存期間のハザード比は0.65(95%信頼区間:0.52-0.83)、全生存期間のハザード比は0.78 (95%信頼区間:0.64-0.93)であった。同様の関連性は小細胞性肺がんと非小細胞性肺がんにおいて認められた。
治療法によって層別化された分析では、化学療法を受けている患者におけるがん関連死亡のリスクの減少を示した(無病生存期間のハザード比= 0.71、95%CI = 0.64-0.83; 全生存期間のハザード比 = 0.58、95%CI = 0.47-0.71)。しかし、化学放射線療法を受けている患者にはがん関連死亡のリスク低下は認められなかった。このメタ分析は、メトホルミンの使用が、糖尿病を有する肺がん患者の好ましい生存転帰と有意に関連していることを実証した。  

Effect of hypoglycemic agents on survival outcomes of lung cancer patients with diabetes mellitus: A meta-analysis.(糖尿病の肺がん患者の生存転帰に対する血糖降下剤の影響:メタ解析)Medicine (Baltimore). 2018 Mar;97(9):e0035.

【要旨の抜粋】
糖尿病を持つ肺がん患者の予後と血糖降下剤使用の関連を検討するために2017年5月までの文献を検索し、基準を満たす18件の臨床試験の結果を統計的に解析し、ハザード比(HR)および95%信頼区間(95%CI)を計算した。
メトホルミン使用者における全生存期間に対するハザード比は0.77(n = 15,95%CI:0.68-0.86)、無病生存期間に対するハザード比は0.50(n = 5,95%CI:0.39-0.64)であった。
このメタ解析の結果は、トホルミン使用が糖尿病の肺がん患者の生存転帰を改善する可能性があることを示している。

他のがん種でもメトホルミン服用が糖尿病のがん患者の生存期間を延長することが多く報告されています。大腸がんに関しては以下のような報告があります。

Prognostic role of metformin intake in diabetic patients with colorectal cancer: An updated qualitative evidence of cohort studies.(結腸直腸がんの糖尿病患者におけるメトホルミン摂取の予後的役割:コホート研究の最新の定性的証拠)Oncotarget. 2017 Apr 18;8(16):26448-26459.

【要旨の抜粋】
いくつかの観察研究は、メトホルミンが糖尿病患者における結腸直腸がんの発症リスクと生存に影響する可能性を示しているが、この関係の程度は決定されていない。メトホルミンと大腸がん死亡率との関連性を分析するために、2016年7月までの関連データベースを検索し、最新の系統的レビューおよびメタアナリシスを実施した。
269,417人の患者を登録している17件の研究が対象になった。
糖尿病の結腸直腸がん患者における非メトホルミン使用者と比較すると、メトホルミン使用者における全生存期間のハザード比は0.69(95%信頼区間:0.61-0.77)であった。ステージIIおよびIIIの疾患を有する患者において、有意な全生存期間の利益が認められた。
メトホルミン摂取は患者のがん特異的生存と有意に関連していた(ハザード比=0.75、95%信頼区間:0.59-0.94)が、無病生存期間とは関連していなかった(ハザード比=0.38、95%信頼区間:0.13-1.17)。
この結果は、トホルミン使用が糖尿病を有する結腸直腸がん患者における全生存期間およびがん特異的生存を良くすることを示しており、特にステージIIおよびステージIIIの患者の全生存期間を良くすることを示している。  

Metformin Improves Overall Survival of Colorectal Cancer Patients with Diabetes: A Meta-Analysis.(メトホルミンは糖尿病をもつ結腸直腸がん患者の生存を良くする)J Diabetes Res. 2017;2017:5063239.

【要旨の抜粋】
糖尿病患者は、非糖尿病患者よりも結腸直腸がんの発生率および死亡率が高い。大腸がん予後におけるメトホルミンの効果に関してはまだ議論が続いている。メトホルミンが糖尿病を有する結腸直腸がん患者の生存率を改善するかどうかを調査する目的で、2016年7月1日までの文献を検索し、7件のコホート研究のメタ解析を行なった。
糖尿病を伴う結腸直腸がん患者の中で、メトホルミン使用者は非使用者よりも全生存期間の改善が認められた(ハザード比=0.75; 95% 信頼区間: 0.65 〜 0.87)。しかしながら、メトホルミンは、がん特異的生存のための利益は示さなかった(ハザード比=0.79、95%信頼区間: 0.58〜1.08)。
結論:メトホルミンは糖尿病の結腸直腸がん患者の全生存期間を延長させるが、結腸直腸がん特異的生存率には影響しない。メトホルミンは、臨床現場で糖尿病の結腸直腸がん患者を治療するのに良い選択かもしれない。

予後不良の膵臓がんでもメトホルミンを服用するメリットが報告されています。

Metformin is associated with survival benefit in pancreatic cancer patients with diabetes: a systematic review and meta-analysis.(メトホルミンは糖尿病を有する膵臓がん患者における延命効果と関連する:系統的レビューとメタアナリシス)Oncotarget. 2017 Apr 11;8(15):25242-25250.

【要旨の抜粋】
メトホルミンは膵臓がんの発症リスクを低下させることが観察されているが、2型糖尿病の膵臓がん患者の生存にも影響を与えることができるかどうかは明らかではない。2型糖尿病を有する膵臓がん患者の生存に対するメトホルミンの効果を評価するために、系統的レビューおよびメタ解析を実施した。
2人の独立した著者がPubMedとWeb of scienceを2016年07月8日までのデータを検索した。
全生存期間において、メトホルミンを使用しない治療法と比較してメトホルミンを使用する治療は相対的生存利益があることを見出した(ハザード比=0.84; 95%信頼区間:0.73 - 0.96)。
我々の結果は、メトホルミンが膵臓がんの2型糖尿病患者において最適な抗糖尿病薬であるかもしれないという考えを支持している。メトホルミンの使用によって糖尿病を有する膵臓がん患者の生存率を向上させるという観点は、将来の研究および臨床診療においてより多くの注目に値する。

メトホルミン使用とがん患者の生存率との関係については多くの臨床試験が行なわれ、メタ解析の報告も多くあります。まだ、相反する結果が報告されているのが現状で、大規模な前向き臨床試験の結果がでるまでは結論は出せませんが、メタ解析のレベルでは、糖尿病患者ががんになった場合は、メトホルミンの使用は生存期間を延長する可能性は高いと言えます。

【メトホルミンは肺がんの抗がん剤治療の効果を高める】
多くのがんで、メトホルミンのがん予防効果や抗がん作用が報告されており、最近では、非糖尿病のがん患者に対してメトホルミンの抗がん作用が検討されています。
メトホルミンががん細胞やがん幹細胞の抗がん剤感受性を高める作用、転移を抑制する作用などが数多く報告されています。抗がん剤や放射線治療中にメトホルミンを同時に服用すると腫瘍縮小効果が高まることが乳がんや食道がんや大腸がんなど多くのがんで確認されています
抗がん剤治療や免疫療法との併用でメトホルミンの有効性を検証する臨床試験が数多く行なわれています。以下の論文は非小細胞性肺がんの抗がん剤治療とメトホルミンの併用の臨床試験です。

A Randomized Phase II Study of Metformin plus Paclitaxel/Carboplatin/Bevacizumab in Patients with Chemotherapy-Naïve Advanced or Metastatic Nonsquamous Non-Small Cell Lung Cancer.(化学療法を受けたことが無い進行性または転移性の非扁平上皮性の非小細胞肺がん患者におけるメトホルミン+パクリタキセル/カルボプラチン/ベバシズマブの無作為化第II相試験。)Oncologist. 2018 Jul;23(7):859-865.

【要旨】
背景:特殊ながん遺伝子変異やPD-L1の高発現が無い場合は、進行性あるいは転移のある非小細胞性肺がんの治療として、白金製剤あるいは白金製剤+ベバシズマブの併用による全身療法が標準治療として行なわれている。メトホルミンは、インスリン依存性およびインスリン非依存性の様々なメカニズムを介して抗腫瘍作用を発揮し、化学療法と併用して相乗効果を示すことが報告されている。
材料および方法:この非盲検単一施設の第2相試験(NCT01578551)では、化学療法を受けたことの無い進行性または転移のある扁平上皮がん以外の非小細胞性肺がん患者を登録し、カルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブによる抗がん剤治療を4〜6サイクル行なったあと、ベバシズマブ単独での維持療法を行なった。この治療において、A群はメトホルミンを併用し、B群はメトホルミンを併用しなかった。この治療は、がんの進行、強い副作用の出現、臨床試験の中止のいずれかが発生するまで行なわれた。主要転帰は、1年間の無増悪生存の率であった。副次的アウトカムには、全生存期間、治療への反応、および毒性が含まれた。
結果:2012年8月から2015年4月までに合計25人の患者が登録され、そのうちの24人が少なくとも1サイクルの治療投与を受けた。この研究は、参加患者の集まりが悪かったのと、進行した非小細胞性肺がんの標準的な第一選択療法の変化のために、早期に中止された。 A群(n = 18)の1年間の無増悪生存は47%(95%信頼区間:25%〜88%)であり、これは過去に報告されている15%を超過した。 A群で治療された患者の全生存期間の中央値は15.9ヶ月でメトホルミン非併用のB群では13.9ヵ月であった。
結論:この研究は、進行した非小細胞性肺がんの治療において、メトホルミンの併用は無増悪生存において有意な利益をもたらすことを示す最初の研究であり、進行した非小細胞性肺がんにおけるメトホルミンの有効性を示唆している。
治療における意義:メトホルミンの抗がん効果に関しては、多くの研究で明らかになっている。著者らの知る限りでは、これは糖尿病の無い進行非小細胞肺がん患者における標準的な第一選択化学療法へのメトホルミンの併用による有効性を示した最初の試験である。十分に許容され、広く利用可能なメトホルミンは、肺がん治療の分野でのさらなる研究のために考慮すべき薬物である。

これは、単一施設で実施された第2相臨床試験です。24例の非小細胞性肺がんを対象にしてコントロール群が6例、メトホルミン併用群が18例という小規模な臨床試験です。
ただ、この臨床試験を実施したのががん研究では超一流のジョンズ・ホプキンス大学のSidney Kimmel Comprehensive Cancer Center のDepartment of Medical Oncologyなので、その結果には信頼性とインパクトはあると思います。
ステージIIIBまたはIVの扁平上皮がん以外の非小細胞性肺がんを対象に、当初の計画では、60人の患者を登録し、対照群(抗がん剤治療のみ)15人とメトホルミン併用群45人の1:3にランダムに群分けするランダム化比較試験を実施する予定でした。
それが24人(メトホルミン併用群が18人、コントロール群が6人)になったのは患者の集まりが悪かったのと、この病院では転移のある非小細胞性肺がんの一次治療にpemetrexed(商品名:アリムタ)が使用されるようになったためです。
この臨床試験が開始された時はカルボプラチン+パクリタキセル+ベバシズマブが標準治療であったのが、pemetrexedの優位性が報告されてpemetrexedが標準治療に置き換わったので、当初の抗がん剤治療で臨床試験を行なうことが困難になったため、早期に中止になっています。
臨床試験が途中で中止になることは多くあります。試験期間の途中の解析で、対照群と試験群で有効性や毒性で明らかな差が出れば、成績の悪い治療群に割り当てられた患者は不利益を受けるので、倫理的に試験の継続はできなくなります。治療成績の良い治療法が出現すれば、成績の劣る薬での治療を継続することは患者の不利益になり、臨床試験が中止になります。
上記の理由でこの臨床試験は早期に中止になっていますが、試験が終了するまでの結果を解析すると、統計的有意にメトホルミンが抗がん剤治療の効き目を高めるという結果が得られたという報告です
今までに抗がん剤治療を受けたことのない、進行あるいは転移のあるステージIIIBまたはIVの非小細胞性肺がん患者(扁平上皮がんは除外)を対象にしています。主要エンドポイントは1年間の無増悪生存の比率です。
メトホルミンは1回1000mgを1日2回服用(1日2000mg)しています。
同様のがん患者を対象にした同じ治療法の過去の臨床試験のECOG 4599 studyでは、1年間の無増悪生存は15%という結果が出ています。(Paclitaxel‐carboplatin alone or with bevacizumab for non‐small‐cell lung cancer. N Engl J Med 2006;355:2542–2550.)
この臨床試験では、メトホルミンの併用群の1年間の無増悪生存が47%で95%信頼区間が25%–88%で、95%信頼区間の下限が25%で過去のECOG 4599 studyの15%を超えているので、メトホルミン併用の有効性が示されたという結論になっています
無増悪生存期間の中央値は、コントロール群が6.7ヶ月(95% CI: 4.4〜not applicable)、メトホルミン併用群が9.6ヶ月(95% CI: 7.3–not applicable)でlog-rank testのp値が0.024で統計的有意差ありという結果です。
サンプルサイズが計画当初の40%しか無かったが、それでも無増悪生存期間では統計的有意差がでたということです。
治療期間の中央値は対照群が16.6週(1.6〜36週)、メトホルミン併用群が29.8週(0.7〜76週)でした。
奏功率は対象群が33%(95% CI: 6%–76%)、メトホルミン併用群が56%(95% CI: 31%–78%)、過去の臨床試験(ECOG 4599 study)では35%でした。
1年間の全生存率は、過去の試験の結果が51%に対して、今回のメトホルミン併用群では68% (95% CI: 48%–92%)でした。
全生存期間の中央値はコントロール群が13.9ヶ月(95% CI: 12.7–NA)でメトホルミン併用群が15.9ヶ月 (95% CI: 8.4–NA)で、統計的有意差は認められませんでした。(p = .186)
ただし、統計的有意差が出なかったのはサンプル数が少ないためと考察しています。

図:パクリタキセル/カルボプラチン/ベバシズマブの抗がん剤治療のみの群と、この抗がん剤治療にメトホルミン(2000mg/日)を併用した群の無増悪生存期間(左)と全生存期間(右)のカプラン・マイヤー曲線。 全生存期間では統計的有意差は出なかった(p = 0.186)が、無増悪生存期間では統計的に有意であった(p = 0.024)。

前述のように、糖尿病の肺がん患者でメトホルミンを服用している群は生存期間が有意に延長することが報告されています。
この報告は、糖尿病でない肺がん患者の場合も、メトホルミンが通常の抗がん剤治療の効果を高めることを示した最初の前向き臨床試験の報告です
この臨床試験では、メトホルミンは1日に2000mgを使用しています。別の報告では1日500mgで臨床試験を行い、メトホルミンの有効性は認められていません。つまり、500mgでは少ないという考察です。
がんの発生予防の場合は1日500mgで効果が期待できますが、進行がんの抗がん剤治療との併用では1日2000mgくらいが必要ということです
日本人の場合は、その体格から抗がん剤治療との併用の場合は、1日1000〜1500mg(可能であれば1日2000mg)を試してみる価値はありそうです。

【メトホルミンは糖尿病でないがん患者の治療成績を良くする】
糖尿病でないがん患者に1日1500~2000mgを投与して、標準治療の効果を高める作用が報告されています。以下のような報告があります。

Metformin: A Potential Therapeutic Agent for Recurrent Colon Cancer(メトホルミン:再発性大腸がんに対する潜在的な治療薬)PLoS One. 2014; 9(1): e84369.

【要旨】
ビグアナイド系の糖尿病治療薬のメトホルミンが抗がん作用を有することを示すエビデンスが集まっている。しかし、メトホルミンの抗がん作用に関する研究の多くは原発がんを対象にしたものである。
メトホルミンが再発がんに対しても有効な抗腫瘍効果を示すかどうかを検討した報告はまだ無い。特に、50%以上の患者が標準的な抗がん剤治療を受けている結腸直腸がんの再発に対する効果を知ることは有用である。
がんの再発のメカニズムは十分に解明されているわけではないが、抗がん剤に抵抗性のがん幹細胞が治療に対して抵抗性で生き残るためと考えられている。
したがって、がん幹細胞をターゲットにした毒性の少ない治療戦略の開発は、再発大腸がんの治療効果を高める上で極めて重要である。
この研究では、抗がん剤抵抗性のがん幹細胞に対する5−フルオロウラシル(5-FU)とオキサリプラチンの併用治療にさらにメトホルミンを追加した場合の有効性について検討した。
実験結果は、メトホルミンが 5-FUとオキサリプラチンの抗腫瘍効果に相乗的に作用して、抗がん剤抵抗性の大腸がん細胞株(HT-29とHCT-116)に細胞死を誘導し、がん幹細胞の増殖による細胞塊の形成を阻害した。
培養細胞を使用した実験では、5-FUとオキサリプラチンとメトホルミンの併用は抗がん剤抵抗性の大腸がん細胞の移動を阻害した。
この変化はマイクロRNA 145(miRNA 145)の増加とマイクロRNA 21(miRNA21)の増加と関連していた。また、大腸がんの増殖を促進するWnt/βカテニン・シグナル伝達系は抑制されていた。
抗がん剤抵抗性の大腸がん細胞(HCT-116とHT-29)を免疫不全マウスに移植した移植腫瘍の動物実験モデルでの検討では、5-FUとオキサリプラチンにメトホルミンを併用することによって移植腫瘍の増殖速度を顕著に抑制できた。
我々の実験結果は、再発した抗がん剤抵抗性の大腸がんに対して、標準的な抗がん剤治療にメトホルミンを併用することが有効であることを示唆している

再発した大腸がんの抗がん剤治療にメトホルミンを併用する根拠を示唆しています。
乳がんのホルモン療法の効果を高める作用も報告されています。 

Metformin enhances tamoxifen-mediated tumor growth inhibition in ER-positive breast carcinoma(エストロゲン受容体陽性の乳がん細部に対するタモキシフェンの増殖抑制作用をメトホルミンは増強する)BMC Cancer. 2014; 14: 172.

 【要旨】
背景:乳がんのホルモン療法で使用されるタモキシフェンはエストロゲンとエストロゲン受容体(ER)の結合を阻害して増殖抑制効果を発揮する。しかしながら、ER陽性乳がんの多くの患者はタモキシフェンによる抗腫瘍効果が弱かったり、あまり効果が出ない場合もある。メトホルミンは糖尿病治療薬として広く使用され、抗がん作用があることが報告されている。この研究では、ER陽性の乳がんのタモキシフェン治療にメトホルミンを併用することによって抗腫瘍効果の増強作用があるかどうかを検討した。
方法:ER陽性乳がん細胞に対するメトホルミン単独およびメトホルミンとタモキシフェンの併用の場合の作用を、細胞生存、DNA合成活性、コロニー形成能、フローサイトメトリー、免疫染色、ヌードマウスへの移植腫瘍を使った実験モデルで検討した。
結果:タモキシフェンとメトホルミンを併用すると、乳がん細胞の増殖抑制に必要なタモキシフェン濃度は著明に減少した。さらに、タモキシフェンによる乳がん細胞の増殖、DNA合成活性、コロニー形成能、軟寒天コロニー形成能の阻害作用をメトホルミンは増強し、タモキシフェンによるアポトーシス誘導作用を亢進した。
この作用は、bax/bcl-2アポトーシス・シグナル伝達系とAMPK/mTOR/p70S6細胞増殖シグナル伝達系が関与していた。さらに、移植腫瘍を用いた動物実験で、タモキシフェンとメトホルミンの併用は腫瘍の成長を顕著に抑制した。
結論:メトホルミンとタモキシフェンの併用はER陽性乳がん細胞の増殖を相加的に阻害し、アポトーシス誘導を増強した。ER陽性乳がんの治療にメトホルミンとタモキシフェンの併用は抗腫瘍効果の増強が期待できるので、さらに臨床例での検討が必要である。

Antidiabetic Drug Metformin Prevents Progression of Pancreatic Cancer by Targeting in Part Cancer Stem Cells and mTOR Signaling. (抗糖尿病薬のメトホルミンはがん幹細胞とmTORシグナルを介して膵臓がん細胞の進展を阻害する)Transl Oncol. Dec 2013; 6(6): 649–659.

【要旨】
多くの疫学データは糖尿病が膵臓がんの発生リスクを高めることを明らかにしている。そして近年のメタ解析によって、糖尿病治療薬のメトホルミンが膵臓がんの発生リスクを減らすことが明らかになっている。
膵臓がんを発生するように遺伝子改変したトランスジェニックマウスを用い、膵臓がん発生過程に対するメトホルミンの効果を検討した。
コントロール食を投与されたマウスの膵臓がん発生率はオスが80%でメスが62%であった。
メトホルミンを1000ppmで投与すると膵臓がんの発生率はオスで20%、メスで7%であり、2000ppmのメトホルミン投与量の場合の膵臓がん発生率はオスで26%でメスで0%であった。1000~2000ppmのメトホルミンの投与で発生した膵臓がんの重要はコントロール群の34~49%を示した。メトホルミン投与は早期膵臓がん病変(上皮内がん)の発生を28から39%抑制し、膵臓がん細胞の広がりを顕著に抑制した。
メトホルミンを投与されたマウスの膵臓組織および血清のmTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)、ERK(extracellular signal-regulated kinases)、リン酸化されたpErk(extracellular signal-regulated kinases)、インスリン様成長因子-1などの低下を認めた。膵臓組織におけるがん幹細胞のマーカーの発現は顕著に低下していた。
以上の結果より、メトホルミンはがん幹細胞を減らし、mTORシグナル伝達系を抑制する作用があることが示唆された。この前臨床試験の結果は、膵臓がんの化学予防の臨床試験にメトホルミンを検証する価値があることを意味している。

Metformin intake associates with better survival in ovarian cancer: A case control study(メトホルミン摂取は卵巣がんの生存率を高める:ケースコンロトール研究)Cancer. Feb 1, 2013; 119(3): 555–562.

 【要旨の抜粋】
背景:卵巣がん患者の生存とメトホルミン摂取の関連を検討する目的で研究を行った。
方法:この後ろ向きケースコントロール試験(症例対照試験)ではメトホルミンを服用している卵巣がん患者と、ステージや年齢などの条件を合わせたコントロール(メトホルミンを服用していない卵巣がん患者)を比較した。
結果:メトホルミンを服用していた卵巣がん患者72例と対照143例の予備試験の解析では、5年生存率はメトホルミン服用群が73%に対して対照群は44%で、統計的に有意な差を認めた(p=0.0002)。メトホルミン服用群61例、(全ての条件を症例群に合わせた選択した)対照群178例の解析では、5年生存率はメトホルミン服用群で67%、対照群で47%であり、統計的に有意な差を認めた(p=0.007)。
結論:メトホルミンの服用は卵巣がん患者の生存率を高める。したがって、卵巣がん患者における臨床試験を実施する価値がある。

以上のように、まだ基礎研究の段階の報告が多いのですが、非糖尿病患者を対象にした臨床試験も行われており、がん幹細胞の抗がん剤感受性を高める作用などが報告されています。
非糖尿病患者でも、大腸がんや乳がんや膵臓がんや卵巣がんなど多くのがんの治療にメトホルミンを1日1000~1500mg程度(副作用が出なければ2000mg)併用することは有用と考えられます。

【メトホルミンは抗がん剤の副作用を軽減する】

Metformin ameliorated methotrexate-induced hepatorenal toxicity in rats in addition to its antitumor activity: two birds with one stone(メトホルミンは、その抗腫瘍効果に加えて、ラットにおけるメトトレキサート誘発性肝腎障害を軽減する:一石二鳥)J Inflamm Res. 2018; 11: 421–429.

【要旨】
メトトレキサートは、様々な悪性腫瘍の治療に使用される薬剤である。残念なことに、それは肝臓と腎臓の障害を含む生命を脅かす合併症を引き起こす。以前の研究により、メトホルミンには、その抗がん効果に加えて、肝臓と腎臓を毒物による障害から保護する効果が示されている。
本研究では、メトトレキサートによって誘発される肝臓と腎臓の障害に対するメトホルミンの作用とそのメカニズムを検討した。
30匹の雄ラットを正常対照群、メトトレキサート投与群およびメトトレキサート+メトホルミン併用群の3つの群に分けた。 メトトレキサート投与7日後には、肝臓および腎臓機能の組織学的検査および生化学的分析によって、肝臓と腎臓の障害が認められた。また、肝臓および腎臓のマロンジアルデヒド濃度の有意な増加、肝臓および腎臓の総抗酸化能レベルおよびNa+/K+-ATPase活性の有意な低下、ならびにNF-κBとシクロオキシゲナーゼ-2とカスパーゼ3の発現亢進を認めた。
一方、メトホルミンは、メトトレキサートによる肝臓と腎臓の毒性を有意に低下させ、効果の評価に使用した全てのパラメーターにおいて、メトトレキサートによる障害を阻止した
結論として、メトホルミンは、抗酸化、抗炎症および抗アポトーシス作用の機序を介してメトトレキサートの肝腎毒性を軽減し、メトトレキサートを使用した化学療法の有効な併用療法となり得る。

がんの治療においては、がんを縮小させる効果を強め、同時に副作用を軽減することができれば、治療効果を高めることができます。抗がん剤の多くは正常細胞にもダメージを与え、副作用を引き起こします。
メトホルミンが抗がん剤の効き目を高めることは多くの報告があります。さらに、抗がん剤による肝臓や腎臓に対する障害を軽減する効果が期待できるようです。

【メトホルミンは免疫チェックポイント阻害剤の効き目を高める】 

Efficacy of metformin in combination with immune checkpoint inhibitors (anti-PD-1/anti-CTLA-4) in metastatic malignant melanoma.(転移のある悪性黒色腫における免疫チェックポイント阻害剤(抗PD-1抗体/抗CTLA-4抗体)との併用におけるメトホルミンの効果)J Immunother Cancer. 2018 Jul 2;6(1):64. doi: 10.1186/s40425-018-0375-1.

【要旨】
背景:メトホルミンは、II型糖尿病の患者に一般的に使用されるビグアニドの1つである。 その血糖降下作用とは別に、メトホルミンはまた、LKB1 / AMPK経路に作用して、タンパク質合成および細胞増殖を抑制する。 さらに、腫瘍低酸素の減少によりPD-1阻害を増強する。 メトホルミンは、固形腫瘍における治療関連転帰に有意な好影響を示したが、これらの結果は、悪性黒色腫について行われた限られた臨床研究では再現されていない。 さらに、これらの研究のいずれも、メトホルミンと免疫チェックポイント阻害剤との併用の有効性に関する研究報告は無い。
方法:これは、2011年1月1日から2017年12月15日までに転移性悪性黒色腫と診断され、イピリムマブ(ipilimumab)、ニボルマブ(nivolumab)および/またはペンブロリズマブ(pembrolizumab)で治療された患者を含む後ろ向きコホート研究である。A群はこれらの免疫チョックポイント阻害剤のみで治療を受け、B群は免疫チェックポイント阻害剤にメトホルミンを併用した。主要エンドポイントは客観的反応率で、副次的エンドポイントは 疾患コントロール率、全生存期間および無増悪生存期間とした。
結果:A群は33人(60%)、B群は22人(40%)であった。 全患者の特徴は両コホート間で類似していた。 客観的反応率は、B群においてより高かった(68.2%対54.5%、P = 0.31)。 疾患コントロール率もB群の方が高かった(77.3%対60.6%、P = 0.19)。 B群では全生存期間中央値(46.7ヶ月対28ヶ月間)および無増悪生存期間中央値(19.8ヶ月対5ヶ月間)とも長かった。しかし、単変量および多変量解析では、これらの差異のいずれも統計的に有意ではなかった。 治療中に出現した新しい転移部位の平均数は、A群において有意に高かった(A:1.51対B:0.59、P = 0.009)。
結論:免疫チェックポイント阻害剤とメトホルミンの併用による治療は、免疫チェックポイント阻害剤単独の治療より良好な治療関連アウトカム(客観的反応率、疾患コントロール率、無増悪生存期間および全生存期間)が観察された。統計的有意差に達しなかったガ、これはサンプルサイズが小さかったためと思われる。 したがって、免疫チャックポイント阻害剤とメトホルミンの併用が標準的な併用療法として推奨される前に、大きな前向き臨床試験が必要である。 

Metformin Promotes Antitumor Immunity via Endoplasmic-Reticulum-Associated Degradation of PD-L1.(メトホルミンはPD-L1の小胞体関連の分解を介して抗腫瘍免疫を増強する)Mol Cell. 2018 Aug 16;71(4):606-620.

【要旨】
メトホルミンは抗腫瘍活性を有し、さらに細胞傷害性Tリンパ球による免疫監視機構を増強することが報告されている。ただし、癌免疫におけるメトホルミンの役割の機能と詳細なメカニズムは完全には理解されていない。ここでは、メトホルミンがプログラム細胞死リガンド-1(programmed death ligand-1:PD-L1)の安定性と膜局在を減らすことによって細胞傷害性Tリンパ球活性を高めることを示す。
さらに、メトホルミンによって活性化されたAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)が直接PD-L1のセリン195をリン酸化することを発見した。 セリン195のリン酸化は異常なPD-L1のグリコシル化を誘導し、その結果、小胞体での蓄積および小胞体関連タンパク質分解を誘導した。
この結果と一致するように、メトホルミン治療を受けた乳がん患者の腫瘍組織は、AMPK活性化を伴うPD-L1レベルの低下を示した。メトホルミンによるPD-L1の阻害シグナルの遮断はがん細胞に対する細胞傷害性Tリンパ球活性を増強する。この実験結果は小胞体関連タンパク質分解を介するPD-L1発現の新しい調節メカニズムを明らかにし、メトホルミンと免疫チェックポイント阻害剤の組み合わせが免疫療法の有効性を高める可能性があることを示唆している。

メトホルミンはオプジーボやキイトルーダなどの免疫チェックポイント阻害剤の抗腫瘍効果を高める効果が期待できると言うことです。

【がん患者にインスリンを使うとがんの進展を促進する】
PubMedを「Metformin and Cancer」で検索すると、1990年代までは年間に0から10以下でしたが、2000年代には論文数が増加し、最近では1年間に500近くの論文が報告されています。(下図)

メトホルミンががん治療に有用であることは多くの研究で明らかになっています。一方、インスリンががん細胞の増殖を刺激することはがんの研究者であれば常識です375話参照)。
糖尿病治療を受けている患者さんががんになったら、インスリンを増やさない方法(糖質制限やメトホルミン)で血糖をコントロールする努力や工夫をすべきだと思っていますが、そのような考えは糖尿病専門医の間にはほとんど無いようです。
最近、当院に来院されるがん患者さんでインスリンを使っている方が増えているように思います。糖尿病の患者数が増えており、糖尿病はがんの発生も再発も促進するから当然のことかもしれませんが、安易にインスリンに頼った糖尿病治療が行われているようにも感じています。
いままでインスリンを使っていた糖尿病の患者さんががんになって私に治療を求めて来られた時、私は糖質摂取を減らす糖質制限を行ってインスリンの使用を中止する方向で血糖のコントロールを行うように指導し、糖尿病の主治医と相談するように言います。そして、がん治療の目的で、低糖質ケトン食と、インスリンを使わずむしろ抗がん作用のあるメトホルミン(インスリン感受性を高める)を使った治療をベースにした治療を提案します。
しかし、ほとんどの場合が、主治医から反対されて帰ってきます。「糖質を十分に食べて、上昇する血糖はインスリンで下げるのが糖尿病の治療として正しい」「あなたの糖尿病はインスリンを使わないと血糖をコントロールできない」「ケトン体は体に悪い」などと説教されて私のところに報告にきます。
しかし、私の経験では、今までインスリン治療を行っていた糖尿病患者さんが、糖質制限とメトホルミンで治療を行うとインスリンを使わないでも血糖値が良好にコントロールできるようになるのがほとんどです。
最近のエビデンスから判断して、糖尿病のがん患者にメトホルミンを使用せずにインスリンを使用するのは、がん細胞の増殖を促進するので、殺人行為ではないか(患者にとっては自殺行為)と思っています。
糖尿病のがん患者がメトホルミンと糖質制限(あるいはケトン食)で治療を受ければ、糖尿病とがんの一石二鳥の治療になります。 
進行がんでは乳酸の産生が増えているので、メトホルミンで肝臓での糖新生を抑制すると血中の乳酸が増えて乳酸アシドーシスの懸念があります(511話参照)。2-デオキシ-D-グルコースジクロロ酢酸ナトリウムを併用するとこの問題は解決します。ジクロロ酢酸ナトリウムは乳酸アシドーシスの治療に使用され、メトホルミンの抗腫瘍効果を増強します。 (607話参照)

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 627) がん細胞... 629)カンナビ... »