630)カンナビジオールはGPR55を阻害して膵臓がんに対するゲムシタビンの抗腫瘍効果を高める

図:がん細胞の細胞膜のGPR55がリガンドで刺激されると(①)、がん細胞の増殖が亢進し、抗がん剤に対する抵抗性が亢進する(②)。大麻草に含まれるカンナビノイドの一種のカンナビジオール(CBD)はGPR55の働きを阻害することによって、がん細胞の増殖や抗がん剤抵抗性を阻止する(③)。

630)カンナビジオールはGPR55を阻害して膵臓がんに対するゲムシタビンの抗腫瘍効果を高める

【カンナビジオールは膵臓がんに対するゲムシタビンの抗腫瘍効果を高める】
最近の論文で以下のような研究報告があります。大麻に含まれるカナビジオールが膵臓がんのゲムシタビン治療の効果を高めるという内容です。

GPR55 signalling promotes proliferation of pancreatic cancer cells and tumour growth in mice, and its inhibition increases effects of gemcitabine.(GPR55シグナル伝達系は膵臓がん培養細胞の増殖とマウスにおける腫瘍組織の増殖を促進し、その阻害はゲムシタビンの効果を高める)Oncogene. 2018 Dec;37(49):6368-6382.

【要旨】
膵臓がん患者の平均余命は極めて短く、多くの場合緩和療法しか利用できないため、過去40年間で生存期間に実質的な進展は見られていない。 5年生存率は約5%のままであるので、新規の薬理学的標的の同定および新規の治療戦略の開発が緊急に必要とされている。
この研究では、遺伝学的および薬理学的アプローチを使用して、Gタンパク質共役型受容体GPR55の阻害がin vitroおよびin vivoで膵臓がん細胞の増殖を減少させることを示し、これは膵管腺がんの進行を阻害する新しい治療法になる可能性を示す。
具体的には、我々は膵菅腺がんを発症する遺伝子改変マウスモデル(KPCマウス)を用いてGpr55の遺伝子欠損が有意に生存期間を延長したことを示す。
重要なことに、GPR55拮抗薬のカンナビジオール(CBD)およびゲムシタビン(GEM、膵菅腺がんを治療するために最も使用される薬物の1つ)の組み合わせで治療した膵菅腺がん発症マウス(KPCマウス)は、薬物非投与またはGEM単独で治療したKPCマウスと比較してほぼ3倍長く生存した。
メカニズム的には、GPR55のノックダウン(遺伝子欠損)または薬理学的阻害は、膵菅腺がん細胞における足場依存性および非依存性の増殖、細胞周期進行、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)シグナル伝達の活性化およびリボヌクレオチドレダクターゼのタンパク質レベルを抑制した。これと一致して、Gpr55の遺伝子欠損は、KPCマウスにおける腫瘍細胞の増殖、MAPKシグナル伝達系およびリボヌクレオチドレダクターゼM1レベルを減少させた。
カンナビジオール(CBD)とゲムシタビン(GEM)の組み合わせはKPCマウスにおける腫瘍細胞増殖を抑制し、それはin vitroおよびin vivoでGEMに対する耐性の発生に関与するメカニズムを阻止した。
最後に、我々は腫瘍抑制因子p53が、マイクロRNA miR34b-3pの制御を介してGPR55タンパク質発現を調節することを示した。
我々の結果は、膵菅腺がんの進行においてp53の下流に位置するGPR55が果たす重要な役割を実証している。さらに、我々のデータは、現在医療用途で承認されているCBDとGEMの組み合わせが、膵菅腺がん患者の転帰を改善するための新規の有望な治療法として臨床試験で試験されるかもしれないことを示している。

この研究を簡単にまとめると、Gタンパク質共役型受容体GPR55の刺激は膵臓がん細胞の増殖を促進し、GPR55の阻害剤は膵臓がん細胞の増殖を抑制し、ゲムシタビンの抗腫瘍効果を増強するということです。カンナビジオールはGPR55を阻害するので、膵臓がんのゲムシタビン治療中にカンナビジオールの摂取は治療効果を高める可能性を報告しています。
ゲムシタビン(Gemcitabine、略号:GEM)は商品名ジェムザール(Gemzar)で、シチジンのリボース環の2'位がフッ素2個で置換された構造を持ち、シチジンと同様にDNA鎖に取り込まれ、別のヌクレオシドが1つ付くことにより、DNA鎖の伸長を停止させます。これにより、DNA合成を阻害して細胞分裂を阻止し、がん細胞に細胞死(アポトーシス)を誘導します。
非小細胞肺がん、膵がん、胆道がん、尿路上皮がん、手術不能又は再発乳がん、がん化学療法後に増悪した卵巣がん、再発又は難治性の悪性リンパ腫に保険適用されています。
大麻成分のΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)の受容体として,カンナビノイド受容体CB1CB2が発見されました。しかし、大麻の作用がCB1とCB2受容体だけでは説明できないことが指摘され、GPR55が第三の受容体として同定されています。
GPR55の内因性リガンドとしてリゾホスファチジルイノシトール(LPI)が同定されています。
カンナビジオール(CBD)はΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)と並んで大麻の主要なカンナビノイド(大麻草に固有に含まれる成分の総称)です。
CBDはGPR55を阻害します。

図:大麻の薬効成分の主体は、Δ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)とカンナビジオール(CBD)で、この2つは全く異なる作用機序と薬効を示す。THCは脳内報酬系を活性化して依存性があり、精神作用(気分を高揚する作用)がある。一方、CBDには精神作用はなく、脳内報酬系を抑制して薬物依存を阻止する作用がある。

CBDはカンナビノイド受容体のCB1とCB2には作用しないためTHCのような精神作用はありません。その他の受容体(セロトニン受容体の5-HT1Aなど)やイオンチャネル(TRPV1など)に作用して多彩な作用を発揮します。CB1やCB2やGPR55のアンタゴニストとしても作用します。


図:カンナビジオールは様々な受容体に作用して、その働きに影響する。図内の(+)はその受容体にアゴニスト(作動薬)として作用して受容体を刺激する。(−)は拮抗的あるいは阻害的に作用してその受容体の働きを抑制する。内因性カンナビノイドの受容体であるCB1/CB2のアゴニスト(作動薬)に対してカンナビジオールは拮抗作用を示す。さらに、カンナビジオールはCB1とCB2に対して逆アゴニストとして働き、CB1/CB2受容体の働きを阻害する。カンナビジオールはセロトニン受容体の5-HT1A受容体とTRPV1-2バニロイド受容体を活性化する。その他にも様々な受容体やタンパク質と作用して活性化や阻害の作用を示し、これらの総合的な作用によって多彩なメカニズムで抗がん作用を発揮する。(図はBr J Clin Pharmacol 75(2):303-312, 2012年のFigure 2より改変)

【Gタンパク質共役型受容体はGタンパク質を介して外部の情報を細胞内に伝える】
最初に紹介した論文は、カンナビジオールがGPR55のアンタゴニスト(阻害剤)として作用するので、膵臓がん細胞の増殖を抑制するという内容です。GPR55という受容体はがん治療のターゲットとして最近注目されていますので、GPR55について理解しておく必要があります。
受容体(Receptor)は脂質二重層の細胞膜を貫通するように存在し、細胞外の刺激や情報を細胞膜で囲まれた細胞内部に伝える役割を担っています。
受容体の細胞外側には、特定のシグナル分子(ホルモンや増殖因子や医薬品など)が結合できる「鍵穴」のような構造が存在し、その鍵穴にシグナル分子が結合すると、それが引き金になって様々な化学反応を細胞内で引き起こす働きを持っています。
この連鎖的な反応を通じて情報が細胞内に伝達され、最終的に特定の機能をもったタンパク質の遺伝子発現を促進したりして、細胞の生理機能の変化を引き起こします。このような一連の経路をシグナル伝達経路と呼びます。

図:細胞は脂質二重層から成る細胞膜によって細胞外と細胞内が分けられている。細胞膜を貫通するように存在する受容体に特有に結合するシグナル分子(リガンド)が結合する(①)と、その受容体は活性化し(②)、連鎖的な化学反応を引き起こす(③)。このようなシグナル伝達によって細胞外の情報が細胞内に伝達され、最終的に特定の機能を持った遺伝子の発現や酵素の活性化などによって、細胞機能に変化が生じる。

細胞膜受容体には多くの種類が知られていますが、そのうちもっとも大きなグループを構成しているのがGタンパク質共役型受容体(G protein coupled receptor : 略してGPCR)です。
α-ヘリックスというらせん構造で親油性の部分が、細胞膜(脂質二重層)を内外に行ったり来たりを7回繰り返しているので「7回膜貫通型受容体」という名称で呼ばれることもあります。N末端を細胞外に、C末端を細胞内に突出させています。
GPCRが活性化されると、細胞内のGタンパク質と呼ばれるタンパク質を介してシグナルを細胞内に伝達するために、「Gタンパク質共役型受容体」という名前がつけられています。
Gタンパク質はグアニンヌクレオチド結合タンパク質の略称です。Gタンパク質はα、β、γの3つのサブユニットから構成される複合体(三量体)を形成しています。
Gタンパク質は通常、GDPが結合した状態で存在していますが、この状態のGタンパク質は不活性型であり、作用を現しません。
GPCRにリガンドが結合して活性化されると、GDP(グアノシン二リン酸)が遊離してGTP(グアノシン三リン酸)が結合して活性型となって細胞内のシグナル伝達を引き起こします。
Gタンパク質の活性化は数百種類にも及ぶセカンド・メッセンジャーの産生を制御します。例えば、アデニル酸シクラーゼ(adenylyl cyclase)に作用してATPからセカンド・メッセンジャーのサイクリックAMP(cAMP)への合成を制御します(cAMP経路)。ホスフォリパーゼC(Phospholipase C)に作用して細胞膜脂質のホスファチジル・イノシトール(phosphatidyl inositol)からセカンド・メッセンジャーとして働くジアシルグリセロールやIP3(インシトール三リン酸)の産生を制御します(PLC経路)。
これらの作用は活性化されるGPCRの種類によって活性化される場合と阻害される場合があり、刺激されるGPCRの種類によって多様な作用を示します。(下図)

 

図:Gタンパク質共役型受容体(G protein coupled receptor : GPCR)は細胞膜を7回貫通する特徴的な構造から7回膜貫通型受容体(seven-transmembrane receptors)とも呼ばれている(①)。細胞膜を貫通する部分をつなぐ細胞外のループ状の部分にシグナル分子が特異的に結合する鍵穴様の領域が存在する(②)。Gタンパク質は細胞膜の細胞内側に存在し、α、β、γの3つのサブユニットから構成される三量体を形成している(③)。αサブユニットはGTP( グアノシン三リン酸)あるいはGDP(グアノシン二リン酸)のどちらかを結合できる。三量体のGタンパク質はGDPが結合した不活性な状態で細胞膜に存在している。GPCRにリガンドが結合するとGPCRの構造が変化して三量体Gタンパク質のαサブユニットのGDPが外れてGTPが結合する(④)。GTPが結合して活性化状態になったGタンパク質αサブユニットは、受容体(GPCR)やβサブユニットやγサブユニットと解離して、酵素やイオンチャネルなどに作用して、その下流のシグナル伝達経路を活性化する(⑤)。このようなメカニズムでGPCRは光・匂い・味などの外来の刺激や、神経伝達物質・ホルモン・イオンなどの内因性の刺激を感知し、細胞内に伝達する働きを担っている。 

GPCRは多くの種類の細胞に分布しており、光・匂い・味などの外来刺激や、神経伝達物質・ホルモン・イオンなどの内因性の刺激を感知して細胞内に伝達する役割を担っています。
例えば、光を感じて視覚に関わるロドプシン、におい物質に作用する嗅覚受容、さまざまな生理現象を司る神経伝達物質(アドレナリン、ヒスタミン、セロトニンなど)の受容体などは全てGPCRの仲間です。
GPCRは酵母や原虫など単細胞の真核細胞でも外界の情報伝達に重要な働きを担っています。多細胞生物では進化の過程でさらに多くの種類のGPCRを持つようになっています。
人間ではGPCR遺伝子は1000種類以上が見つかっており、個々のGPCRは特定のシグナルに特異的に反応して生理機能を引き起こします。
GPCRはそのリガンド(受容体に結合して活性化する分子)に基づいて分類されますが、そのリガンドが特定されていないGPCRもまだ多数あります。これらをオーファン受容体(orphan receptor)と言います。(orphanは「孤児」という意味)

【オピオイド受容体もカンナビノイド受容体もGタンパク質共役型受容体】
薬用植物の活性成分の研究から、体内の受容体が発見された例が幾つかあります。その代表が、ケシの未熟果に含まれるモルヒネやコデインなどのアヘンアルカロイド(オピオイド)が結合するオピオイド受容体や、大麻草に含まれるカンナビノイド(大麻草に固有に含まれる薬効成分の総称)が結合するカンナビノイド受容体です。
オピオイド受容体もカンナビノイド受容体も、動物が植物成分を薬効として利用するために存在する訳ではありません。もともと生体内で内因性のリガンド(受容体に結合して活性化する成分)があって特異的な受容体との間にシグナル伝達系を作っていたものが、その受容体に結合する成分が植物にたまたま含まれていたというだけです。

オピオイド受容体は、最初はアヘンに含まれるモルヒネなどのアヘンアルカロイドが結合する細胞の受容体として見つかり、その後、このオピオイド受容体に結合する内因性オピオイドとしてベータ・エンドルフィンやエンケファリンなどのいわゆる脳内麻薬(内因性オピオイド)が発見されました。
そして、これらの内因性オピオイドとオピオイド受容体が生体機能の調節に重要な役割を担っていることが明らかになったのです。

図:オピオイドは「オピウム類縁物質」という意味で(①)、オピウム(opium)はアヘン(阿片)の英語名(②)。アヘンはケシの未熟果から得られる液汁を乾燥させたもので、モルヒネやコデインなどの麻薬(アヘンアルカロイド)を含む(③)。オピオイド受容体は最初はアヘンに含まれるモルヒネなどのアヘンアルカロイドが結合する細胞の受容体として見つかり(④)、その後、このオピオイド受容体に結合する内因性オピオイドとしてβエンドルフィンやエンケファリンなどのいわゆる脳内麻薬(内因性オピオイド)が発見された(⑤)。つまり、オピオイド(オピウム類縁物質)にはアヘンアルカロイド(モルヒネなど)と内因性オピオイド(ベータ・エンドルフィンやエンケファリンなど)があり、細胞のオピオイド受容体(δ、κ、μ)に結合して作用を発揮する(⑥)。内因性オピオイドは中枢神経系に作用して鎮痛作用や多幸感を引き起こし、脳内の報酬系にも関与しているので、脳内麻薬とも呼ばれている。モルヒネやオキシコドンなどの麻薬性鎮痛薬をオピオイド鎮痛薬と言う。

大麻草(マリファナ)には500種を超える化合物が含まれていますが、そのうちカンナビノイドと呼ばれる大麻草固有の成分が100以上存在します。カンナビノイドは体の中のカンナビノイド受容体に結合することによって様々な薬効を発揮します。
オピオイド受容体もカンナビノイド受容体もGタンパク質共役型受容体(GPCR)です
オピオイド受容体やカンナビノイド受容体に作用するシグナル分子(リガンド)は何らかの薬効や毒性を示すことになり、医薬品開発のターゲットとして可能性を持っています。
麻薬も大麻も古くから医薬品として人類が使用してきました。その薬効は最初は経験的に見つかったのですが、近代の研究によって、それらの成分が作用する受容体やシグナル伝達系が存在することが明らかになってきたということです。

【GPR55はカンナビノイド受容体?】
大麻由来のカンナビノイドが結合する受容体が存在することは、体内にカンナビノイド受容体に作用する体内成分が存在することを意味しています。カンナビノイド受容体と反応する体内物質を内因性カンナビノイドと言います。
カンナビノイドが結合する受容体としてCB1CB2の2種類が見つかっています。CB1もCB2も7回膜貫通型のGタンパク質共役型受容体です。
1964年にイスラエルのワイズマン研究所の ラファエル・メコーラム(Raphael Mechoulam) 博士らによって、大麻の精神変容作用の原因成分としてΔ9-テトラヒドロカンナビノール(THC)が分離され、1988年にTHCが直接作用する受容体が発見されカンナビノイド受容体タイプ1(CB1)と命名されました。
CB1は中枢神経系のシナプスに存在し、脳で最も広く分布するGタンパク質共役型受容体ですが、末梢神経系や、さらに筋肉組織や肝臓や脂肪組織など非神経系の組織にも分布しています。
数年後にタイプ2の受容体(CB2)の遺伝子が発見されました。CB2は主に免疫系の細胞に発現しています。
1992年に内因性カンナビノイドのアナンダミド(anandamide)が発見されました。アナンダミドはサンスクリット語の「内なる至福」を意味します。
さらに、2番目の内因性カンナビノイドとして2-アラキドノイルグリセロール(2-arachidonoylglycerol; 2-AG)が発見され、さらにいくつかの内因性アンナビノイドが見つかっています。
内因性のカンナビノイドが同定されると、それらの生合成や分解に関与する酵素や、受容体とリガンドが結合したあとのシグナル伝達経路が解明されました。
つまり、体内には内因性カンナビノイド(アナンダミドや2-アラキドノイルグリセロールなど)と、それらを合成する酵素や分解する酵素、内因性カンナビノイドが結合するカンナビノイド受容体によって内因性カンナビノイド・システムが構成されています。

内因性カンナビノイドのアナンダミドと2-アラキドノイルグリセロールは細胞膜のリン脂質からホスホリパーゼによって生成されるアラキドン酸の代謝産物です。
内因性カンナビノイドは生理的あるいは病的刺激によってオンデマンド(要求に応じて)に細胞膜のリン脂質を分解して合成・分泌されて、カンナビノイド受容体を刺激して生理作用を示します。

内因性カンナビノイドシステムの活性化は、リガンド(内因性カンナビノイド)がCB1やCB2と直接的に作用する他に、内因性カンナビノイドの細胞内取り込みや細胞内での分解の阻害によっても起こります。

図:大麻草に含まれるカンナビノイドが結合する受容体としてCB1とCB2の2種類が見つかっており、このCB1やCB2に結合する内因性カンナビノイドとしてアナンダミドなどが知られている。
体内には内因性カンナビノイドと、それらを合成する酵素や分解する酵素、カンナビノイド受容体などによって内因性カンナビノイド・システムが構成されている。

CB1とCB2を阻害剤でブロックしても、植物カンナビノイドや合成カンナビノイドや内因性カンナビノイドが作用を及ぼすことが知られており、これは、これらのカンナビノイドがCB1とCB2以外のターゲットが存在することを示唆しています。
つまり、カンナビノイド系は極めて複雑なネットワークやメカニズムで生体機能を制御していると言えます。
GPR55はCB1とCB2についで第3のカンナビノイド受容体と考えられていますが、その機能はまだ十分に解明されていません。

【カンナビジオールはがんがんを縮小する】
がん患者の症状緩和(鎮痛や抗がん剤の副作用軽減など)に対するカンナビジオールの有効性が臨床試験で明らかになっています(629話参照)。カンナビジオールの抗がん活性に関しては、数年前まではそれほど強くないと考えられていましたが、最近はカンナビジオールの抗腫瘍活性(がんを縮小する作用)に関する報告が増えています。以下のような報告があります。

Report of Objective Clinical Responses of Cancer Patients to Pharmaceutical-grade Synthetic Cannabidiol.(医薬品グレードの合成カンナビジオールに対するがん患者の客観的な臨床的反応の報告)Anticancer Res. 2018 Oct;38(10):5831-5835. doi: 10.21873/anticanres.12924.

【要旨】
研究の背景と目的:カンナビノイドは、がん患者の疼痛、悪心および悪液質の管理に広く使用されている。 しかしながら、まだ何らかの抗がん活性の客観的臨床的証拠は存在していない。 この研究の目的は、様々ながん患者に対する医薬品グレードの合成カンナビジオールの効果を評価することである。
患者と方法:4年間以上における通常の診療で得た119人のがん患者のデータを解析した。
結果:臨床応答は、固形がん患者の119例のうち92%で見られた。その臨床的反応は、循環腫瘍細胞の減少や、CTスキャンで確認された腫瘍サイズの減少であった。 薬学的グレードの合成カンナビジオールを使用する場合、いかなる種類の副作用も観察されなかった。
結論:医薬品グレードの合成カンナビジオールは、乳がんおよび神経膠腫患者の治療の候補である。

100種類以上存在する大麻のカンナビノイドのうち、精神作用を示すのはテトラヒドロカンナビノール(THC)のみと考えられています。THCに次いで多いカンナビノイドがカンナビジオール(CBD)です。
CBDはがん細胞に対して増殖抑制や細胞死誘導の作用が報告されています。がん細胞の増殖を促進するPI3K/AKT/mTOR や ERKシグナル伝達系を阻害する作用が報告されています。
抗がん剤治療と併用して、抗がん剤の効き目を高める効果も報告されています。
この報告では医薬品グレードのCBDのオイルを、1回10mgを1日2回服用を基本にしています。
腫瘍が大きい場合には増量し、1回30mgを1日2回まで増やしています。
一方、腫瘍の増大が抑えられているとき(病状安定)は1回5mgを1日2回に減らしています。
3日間服用して3日間休薬する方法で投与しています。この方が連日の服用より効果が高いと言っています。
副作用は全く認められなかったので、最大耐用量は決定できなかったと考察しています。
他に治療法が無くなったがん患者の治療法として、カンナビジオールはがん細胞の増殖抑制やがんの縮小など、客観的な臨床応答が得られたという報告です。
この論文では、顕著な有効性が認められた症例を紹介しています。
患者は5歳の男児で、退形成性上衣腫(anaplastic ependymoma)という悪性度の高い脳腫瘍でした。2回の手術と抗がん剤治療と放射線治療を受けて、もう治療法が無くなったという段階でCBDのみによる治療が2016年2月に開始されました。2016年12月のCTスキャンでは、腫瘍は60%程度に縮小していました。その後もCBDだけで腫瘍の増大が抑制されたと報告しています。
他の症例は、50歳の進行性のグレード2の上衣腫(tanycytic ependymoma)で2013年6月に診断され、放射線治療が行われて2015年6月に終了しています。抗がん剤治療を拒否し、CBD治療を2016年7月から開始しています。
1回10mgを1日2回のCBD摂取を3日間続けて3日間休むという投与スケジュールです。
この患者はロンドンのクリニックから代替療法としてメトホルミンメベンダゾールドキシサイクリンアトルバスタチンの投与を受けています。これらとカンビジオールを併用して、腫瘍の縮小が認められています。カンナビジオールの摂取を止めるとがんが増殖しました。
その他に、前立腺がん、乳がん、食道がん、悪性リンパ腫などの腫瘍で、医薬品レベルの合成カンナビジオールの抗腫瘍効果が認められました。カンナビジオールはEGF/EGFRシグナル系(MAPK経路とPI3K/Akt経路)とNF-κB経路を阻害して、がん細胞の増殖や生存を抑制する作用が報告されています(562話参照)。
さらにGPR55のシグナル伝達系の阻害作用も加わるので、がん治療に積極的に使用する価値があると思います。 

 

図:チロシンリン酸化型受容体にリガンド(増殖因子や成長因子)が結合し2量体化すると、受容体がリン酸化されて活性化する(①)。受容体が活性化されるとPI3Kのリン酸化活性からAktがリン酸化されてPI3K/Akt経路が活性化する(②)。一方、受容体の活性化は、低分子量G蛋白質Rasを経由して、Raf→MEK→ERKとリン酸化反応するMAPK経路によりシグナルが伝達される(③)。NF-κBは細胞質に存在し、IκBと呼ばれる制御蛋白質と複合体を形成している(④)。炎症性サイトカイン(IL-1やTNF-αなど)や細菌由来のリポ多糖や酸化ストレス(放射線や活性酸素など)はIκBキナーゼを活性化してIκBをリン酸化する(⑤)。リン酸化されたIκBはユビキチンが結合してプロテアソームで分解される(⑥)。IκBが外れるとNF-κB分子内の核内移行シグナルが露出してNF-κBは核に移行し、目的遺伝子の転写を行う(⑦)。PI3K/Akt経路とMAPK経路とNF-κB経路の活性化は、最終的に核の転写因子の活性化を介して、がん細胞の増殖や転移や腫瘍血管の新生を亢進し、アポトーシスに抵抗性の性質を持つようになる(⑧)。カンナビジオールはこれらの経路を抑制することによって抗腫瘍活性を示す。

 

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